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*伏線の効果

 数時間後──再び生田たちが訪れる。覚醒剤を打つのは、先ほどと同じ男性だ。

「……」

 男は、針を刺しながらもベリルをじっと見下ろした。

 端正な顔立ちと、そこはかとなくかもし出す上品な雰囲気。そしてすがるような表情……潤んだ瞳に吸い込まれそうで、見つめるエメラルドの瞳から目が離せない。

 アジア系とは異なる体型からは神秘性を漂わせていた。

「何をしている。終ったら早く出ろ」

「あ、はい」

 男は生田の声に、そそくさと頭を下げて出て行く。


 その数時間後にさらに1本を打つ。3本目となると、打つ男の目はすでにベリルに夢中になっていた。ぐったりとして、けだるそうな表情が男を誘うように見上げている。

 男の心の中には「彼を助けなければ!」という、使命感にも似た感情がふつふつと湧き上がっていた。


 翌朝──

「! どうした?」

 1人で現れた仲間に、ベリルを監視している男は怪訝な表情を浮かべて問いかけた。

「生田さんに言われて様子を見に来た。開けてくれ」

 出来るだけ嘘だとバレないように、堂々と……男の心臓は早鐘の如く激しく鼓動する。

「そうか」

 監視の男が鍵を開けると必死に平静を装いながらベリルにゆっくりと近付き、恐る恐るしゃがみ込んで確認する。

 良かった、生きてる……ほっと胸をなで下ろした。

「大丈夫?」

 青年と目が合いドキリとしながらも小さな声で問いかける。すると、青年はこくん……と頷いた。

「体の方はどう?」

「少し……だるい」

 儚く見える青年に胸がキュンとなる。

 潤んだ瞳がまるで宝石のように輝いていて、まさか男にこんな感情が芽生えるなんて……と、己の感情に驚きつつも素直に従っていた。

「君は、どうしてこんなことをされるんだい?」

  細くて抱き心地のよさそうな体を見つめる。

「それは……」

 か細い声に、男は続きが聞きたくて耳を近づけた。

「私が危険だからだよ」

「!?」

 息がかかるほどの距離で聞こえた言葉に驚いた刹那──青年が静かに立ち上がった。今までの儚いイメージとは真逆の、冷たく無表情な瞳にゾクリとする。

「うっ!?」

「遅い」

 ベリルは言うが早いか、部屋の外で監視していた男が驚いて向けたライフルにひるむ事なく駆け寄り、持っていたライフルに手をかけた。

「!? ぐ……ぇ……」

 そのまま腹に膝蹴りを食らわせ、崩れ落ちる男を冷ややかに見つめる。

「うそ……」

 男は呆然とベリルを見つめていたが、確認したように小さく溜息を吐いてライフルを奪いこちらに戻ってくる姿にビクリと体を強ばらせた。

「騙してすまなかったな」

 しゃがみ込んだまま動けない男に小さく笑みを浮かべる。

「きっ、君は……」

「私は傭兵でね」

 なるほど、手に持っているライフルがなんともしっくりときている。まだ視界の定まらない男にベリルは左手の人差し指を立てた。

「助けてくれた礼に一つ。命が惜しければ逃げるが良い」

 いちいち撃つ相手を選んでいられない。

「命を粗末にするものではない」

「そ、そうだな……うん」

 にこりと微笑んだベリルに顔を赤らめた。

 まさか、ここまで上手くいくと思っていなかったベリルは呆れて笑顔を貼り付ける。時々、男にセマられる事があったため「色目が通じるかな?」という軽い気持ちで試してみたのだが……なんだか悪い気さえしてきた。

 少しくらいの礼はした方が良いだろうかと、眉をひそめながらも膝を折る。

「!?」

 しゃがみ込んだ青年に体が強ばった次の瞬間──綺麗な顔が接近してきて、腕が首に回された。

 ふわりと頬に触れる金糸のような髪となめらかな肌、そして意外と筋肉質な細い腕に天にも昇る気持ちだ。

 ベリルはニヤけている男の耳にささやく。

「これから戦闘になる。行け」

 男も腕を回そうとしたが、一歩遅く立ち上がられてしまった。そして「わかったな」と確認するように目を向けられ、走り去るその影をしばらく見つめる。

「……俺に出来ることは何も無いんだな」

 組織をこんな形で裏切ってしまったけど、後悔は無い。俺は天使を助けたんだ! と、自分の世界に浸りきった。

「あ、逃げなきゃな」

 男はひとしきり浸ったあと、満足したように拳を握りしめて歩き出す。


「はぁ~……」

 ベリルは男と離れたあと、壁に手を突いて深い溜息を吐き出した。

 ミコといい、あの男といいなんなのだ……今更、自分の容姿に自覚が無い訳ではないが、同性に好意を寄せられる意味は理解出来ん。

 自分自身に蚊ほどの興味もないベリルは、容姿について仲間から言われ続けてようやく自覚というか認めたというかで、少しくらいは考えるようにはなっていた。

 そのせいなのか、センスは悪くないがいつも似たような格好になる。彼が考えるのは、違和感が無いかどうかと武器を隠せるかどうかの点だけなのだ。

 彼の無頓着さを知っている仲間たちから時折、衣服を送りつけられる事もある。

 それはさておき、ベリルは気を取り直して歩き始めた。まだ朝という事もあり、工場は稼働して間もないようだ。

「溶接工場のようだが」

 気配を探りながら敷地内を歩いていると、大きなタンクが一つ視界に入ってきた。

「中身は水かな」

 熱を冷ますためのものだろう、水色のタンクを横目に側にある工場に足を向ける。

 大きく開かれた工場にドアは無く、隣にある建物の機械は稼働しているようだがベリルの入った建物には人の気配は感じられなかった。

 人員削減なのかどうなのか、建物の端にあるプレハブまで進む。

「!」

 ふと、そこで気が付いた。プレハブの大きさが中と外で違う。

 上手く隠しているようだが……入念にチェックすると、小さい音がして下へと続く階段が現れた。

「ほう……」

 降りた先には、ハンドガンやライフル、マシンガンがずらりと丁寧に並べられていてベリルは口笛を鳴らす。

「!」

 バックポケットから振動が伝わり、携帯を取り出した。

[あれ? 届かなかったのかな。電話くださーい番号は090──]

「……」

 余計な接点は持ちたくない、再び携帯を閉じた。

 柳田がベリルの携帯を奪わなかったのは、初めに捕まえた時に全ての武器を奪っていたため携帯までは気に留めていなかったのだろう。

 整えられた武器をいくつか選び、ベルトに差し込む。

「しかし物騒だな……何をするつもりなのだ」

 TNT火薬に手榴弾、プラスチック爆弾の原料C-4(シーフォー)まであるではないか。まるで、戦いでも始めるかのような数に眉をひそめた。


 ベリルを助けた男は、工場の中にあるプレハブ小屋に入りロッカーの中を整理し始める。

「逃げる前に自分の荷物まとめなきゃ……」

 カバンに私物を詰めていると、階段を上ってくる足音が聞こえて怪訝な表情を浮かべ階段にゆっくり近づいた。

「わっ!?」

「お」

「な、なんでこんなトコに……」

 現れたベリルに驚いて声を上げ、心臓がバクバクと早鐘のように激しく高鳴った。

「丁度良い。聞きたい事がある」

「な、なに?」

「お前たちは何をしようとしている」

 少し表情を険しくさせて問いかけた。

「クーデターだよ。日本を軍事国家にするんだ」

 逃げるつもりでいた男は、やや見上げるエメラルドの瞳にニヤけながらもさらりと暴露した。

「ほう……それはまた大それた事を」

「この工場の人間はみんな仲間だよ」

 溶接工場とは仮の姿、その正体は武装組織である。

「生田って人が統率してる。柳田って人の横にいた人ね」

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