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*チキンな肌です

「褒美を下さい」

「……褒美?」

「これから長い牢獄生活なのです。それを成し遂げるだけの褒美を」

「……」

 嫌な予感がしつつも聞き返してみる。

「どんな褒美が欲しいのだ」

 ミコはパッと明るい顔になり背筋を伸ばした。

「それはもちろんベリル様のキ……」

「図に乗るな」

 最後まで聞きたくもないと、ミコが言い終わらないうちに頭をはたいた。

「で、でしたらお手を」

 左手で頭をさすり、右手を差し伸べてベリルの手を待つ。

「……」

 嫌な予感がする、とてつもなく嫌な予感が……しかし出さねば解決はなさそうだ。ベリルは、眉間のしわを深くして左手を差し出した。

「ああ……ベリル様」

 ベリルは途端に、ぞわり! と鳥肌を立てる。

 しつこくなでまわされている手を眺めて「これは他人の手だ、私の手ではない」などと呪文のように自分に言い聞かせ、現実逃避で誤魔化した。

 いつまで触ってるつもりだこのやろう……殴り倒したい気持ちを抑える。

 ミコはというと、ベリルの手をほおずりしたりキスしたりとやりたい放題だ。数分ののち、ようやく解放された手を服で拭いてひざまづいているミコを見やった。

「用がある時はお前に命令を与える。それまでは普通の生活をしているが良い」

「解りました」

 ミコは頭を深々と下げた。それを確認し、部屋から立ち去る。なんとなく納得のいかないベリルではあるが、こちらは片付いた。

 問題は柳田の方だ、あちらは馬鹿ではなく本気で危険である。柳田を捜すか……と、教団本部の建物から出た。

 その目の前に──

「お?」

「よくも逃げてくれたな」

 柳田が苦々しい表情で立っていた。

 探す手間が省けたなと考え柳田を見やると、結構な怒りを視線に乗せて向けている。

 当然といえば当然か。しかしどうしたもんかね、このまま素直に従うのも怪しまれるかもしれん。

 などと考えていたとき──

「!」

 左にあった気配から軽い破裂音がいて、腕にチクリと痛みが走った。ベリルは麻酔を撃たれたのだと理解し、その男を薄笑いで見つめる。

「今度は逃がさないからな」

 柳田は低く発してベリルに近付いた。

 初めに打たれた麻酔よりも強いらしい、立ちくらみが早い。倒れ込むベリルを抱えて車に乗り込んだ。

 今度は後部座席に男を1人乗せ、ベリルを縛り上げる。

「!」

 入念にしっかりと縛り上げている男にベリルは薄れ行く意識の中、ニヤリと笑んだ。男はそれに小さく舌打ちをして、動かなくなったベリルを乱暴にシートに預け隣に座った。

 運転席に腰掛けた柳田が車をゆっくり発進させる。


 しばらくして、男がタバコを取り出しライターで火を付けようとした。

「禁煙だ」

「あ、すいません……」

 柳田はバックミラー越しに睨みを利かせた。

 こちら側に誘った男だが、ベリルの価値を理解してない態度に半ば怒りを憶える。彼が不死だと話していないのだからそれも仕方がない。

 どうせ話した処で信じる訳もないだろう、無駄な会話はしたくない。ベリルは不死だけでなく、その戦闘センスでも利用価値はあるのだ。

 理解しない者に説明など労力を割く意味が無い。柳田は目的の場所まで黙って車を走らせた。

 数時間後──たどり着いた場所はどこかの工場のようだった。トタンで作られた無骨な丸屋根がいくつも隣接している。

 鉄の匂いと、重機を使用する独特の雰囲気が辺り一帯に漂っていた。

「随分と待たせるじゃないか」

 車から降りた柳田に男が腕を組み、待ちくたびれたように発する。

「……すまない」

 素直に謝罪した柳田に男は溜息を吐いて、後部座席のベリルに目を向けた。

「こっちだ」

 案内された場所は、作業場とは少し異なる造りの建物。階段に男たちの足音が響き、3階にたどり着くとガラス張りの部屋が柳田たちを迎えた。

 ガラス張りの部屋の中央にベリルを降ろし拘束を解くその周りには、ライフルを持った数人の作業服姿の男たちが銃口を向ける。

「どうせ目が覚めてるんだろベリル」

 男が鼻を鳴らして口を開いた。男の名前は生田いくた 敏夫としお。年齢は40代ほどと見受けられる。

 ベリルは目を開き男を薄笑いで見やった。

「動こうとは思うな」

「これだけライフルを向けられては動けんよ」

 言い持って上半身を起き上げると、生田は右手を軽く挙げて合図する。入り口から、注射器を持った男が入ってきた。

 30代だと思われる男は、無言でベリルの左腕の袖をまくった。少しの痛みに苦い表情を浮かべる。その整った中性的な顔立ちに、つい見惚れてしまう。

「早くしろ」

「終りました」

 言われてハッとし、立ち上がる際にベリルと目が合った。

「……」

 えもいわれぬ愁いを帯びた表情に少し目を泳がせ、その男は部屋から出る。それに続くように生田と柳田、そして銃口をベリルに向けながら他の男たちも続いて外に出た。

 ドアを閉め、2人はベリルの様子をガラス張りの壁の外から眺める。

「……一体どうするつもりなんだ?」

「打ったのは覚醒剤だ」

 説明する生田の顔は嬉しそうに口の端を吊り上げた。

「飼い慣らすつもりなのか」と柳田。

「それが一番、効率がいいだろ」

 クローンなんて時間と金のかかるものは必要無い。

「奴を飼い慣らし、暗殺者にして変態の金持ちにでも抱かせるさ」

 平然ととんでもない事を言い放つ。

「そんなに上手くいくのか?」

 柳田の質問に生田はまた鼻を鳴らした。

「フン……いくら奴が不死だと言っても、精神まではどうにもならんだろう」

 覚醒剤の再犯率は高い。

「薬物依存は当然だが、精神依存のために再犯するんだ」

 生田はベリルの口元が緩むのを確認して笑みを浮かべた。

「よし、効いてるようだな。あと2~3度打てばいけるだろう」

 生田と柳田はその場をあとにした。

「……」

 それを視界の端で捉えていたベリルは、心中でため息を漏らした。ガラス張りの壁に背を向け、目を閉じて眉をひそめる。

 ついニヤけてしまった。覚醒剤など久しぶりに使われたな……不死になる前ならば精神依存になっていたかもしれん。

 しかし──ベリルは不死になり、幾多の死期を経験している。その時に脳内で分泌される物質、それは『脳内麻薬』と呼ばれるもので麻薬や覚醒剤など比べものにならないほどの高い効果を持つ。

 正常な時にそれが分泌されると死を招くほどの……

 それを何度か経験しているベリルは、その感覚の制御が出来るようになっていた。という訳で、彼に覚醒剤は効かない事になる。

 彼に通用するのは麻酔のみだ。

 どうやって抜けだし、どうやって叩くか……ベリルは思案した。ここは日本、派手な行動はつつしみたい。

「!」

 そうこうしていると携帯が震え、ゆっくり開けて確認する。

[ありがとう。お礼言いたいから電話してください090──]

「……」

 しばらく考えて返信せずに電話を閉じた。

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