第7話 生かしておきたくない人間
「いるところにはいるものだな。我々はヴァンクレイドの坊ちゃんに、お前を悪意ある方法で試せと言われていた。十分だろう。邪魔をした、トラビス・コンクラード。できれば我が主人と会わないで欲しいものだ」
と、ドヴァーラは慰謝料だと言わんばかりに、金貨を数枚寄越して、護衛達と共に町へと消えた。
力を入れていた腹から風船が萎むように息を吐いた。
ドヴァーラ、恐ろしい〝騎士〟だった。あれが英傑。
勇者候補であるヴァンクレイドや、そしてパメラさんには悪いが比較にならない実力者だ。それだけに何故、ヴァンクレイドの護衛をしているのかわからない。ヴァンオーのストーリーは、物語として掻い摘んだ瞬間しか見られないのだ。
理想の引退生活も望めたろうに。
「トラビスは強いね」
パメラさんが俺の傷を心配しながら言う。
「魔人を1人で倒せるし、やっぱり普通なんかじゃなくて、ずっと強い人だ」
着鎧しなければならないんだけどな。
俺の鎧は欠陥品だ。寿命が縮むんだ。
強さよりも成り上がり前線から逃げたいよ。
とは内心思っていても口はつぐんでおいた。
「偶然勝てただけです。どれほど〝強く見えている〟かは存じませんが、強い人間でも呆気なく死にますよ。死にたくないと本気で考えるなら戦わないのが1番です」
パメラさんが物言いたげだ。
だがパメラさんが口を開く前に、彼女の腹の虫が鳴いた。真っ赤に染まる彼女だが、ヴァンクレイドのせいでおあずけだったしな。
「……お腹、すいたかも……」
パメラさんが照れながら。
よろしい。食べなおしだ。
「とびっきり良い店に食べに行こうか」
「トラビスの案内?」
「勿論!安くて沢山」
◆
厄介な〝お願い〟を引き受けたもんだ。
騎士団入団試験に紛れ込むとはな……。
試験官殿が入団希望者に諸々話している。一応、聞いてはいるが、入団するつもりが無いとイマイチ気が乗らない。今のコンディションは6割か?気合いを入れ直さないとだな。
「2人1組を作れ。模擬戦だ」
シーラ様が事前に教えてくれた通りの試験内容だ。まず実戦、勝てる能力と気迫があるかを試される。それが騎士団の騎士、魔人を殺す素質の大前提だからだ。才能だのなんだのは斬り殺せなければ無価値だ。
……だから俺は騎士団て苦手なんだ。
「勝者が次の試験へ進め」
俺は、ヴァンクレイドくんを鎮めなければならない。2人組を作るなら彼とだ。1番手っ取り早い。彼と目が合う。俺達は恋仲、初心な男女のように惹かれあった。
「おや、お前はトラビスか」
「夕飯時にはどうもさまで」
「ふん!ポーターの装備か。安いな」
「ヴァンクレイドさんは特注ですか」
「わかるか。だが父の鎧を仕立て直したものだ。剣もな。いずれば私だけの鎧を着て、騎士としての名誉を作る前座だ、見窄らしいとは言ってくれるなよ」
「言いませんよ」
よく磨かれた鎧だ。
だが傷は多かった。
隠せない程に戦傷が刻まれている。
古い道具には魔法が定着しやすいという民間信仰がある。たぶん、事実だろう。熱線魔法やジェットのように派手なものでなければ、その効果も見た目でわからない。だが、経験上、たぶん〝事実〟だ。ヴァンオーの設定にそんな事実は無いけどな。
「さて、では」
ヴァンクレイドが申し訳なさそうに言う。
おいヴァンクレイド、お前笑っているぞ。
「模擬戦で散ってもらうぞ、トラビス」
「勝つ前から勝利宣言をするものではない」
「卑賤なポーターから成り上がりたいが為に、身の丈を超えた騎士を目指すのだろが、この私に会ったのが運の尽きさ」
「私情か?そうだろう、俺がパメラ・ピュリファイアとの逢瀬の最中に割って入り、彼女を手に入れようとしたが失敗して逃げた男だものな!」
すんません、パメラさん。
「愛も囁けずこそこそと情けない嫌がらせをすることが、騎士を目指す者の心とは思えんぞ、童貞のヴァンクレイドくん!」
入団試験の全員に聞こえるよう叫んだ。
試験官も受験生もうっすら笑っていた。
だが、笑っていない男が1人だけいた。
リビド・ヴァンクレイドだ。
あッ、俺死んだかもしれん。




