星空の町―5―
厨二でっす。
剣を受け止めた優樹は即座に刀を真剣へと変化させる。
「アリア、倒れてる奴を頼む」
「りょーかい」
アリアは横たわる青年の傍に駆け寄り怪我の様子を見る。
「さて、俺はこいつの相手か」
殺人鬼は間をおくことなく優樹に襲いかかっていた。
一瞬の間に幾度も剣が交わる。
「早いな。だが―」
相手の攻撃は相当な疾さで繰り出されていた。
息をつく間もないとはこのことか。
剣を絶え間なく振るう敵は途轍もなく脅威に見える。
しかし、相手の攻撃には致命的な弱点があった。
「どうもおかしいと思ったんだ……」
優樹は相手の剣を捌きながら気付く。
ずっと感じていた違和感。
そして粗い戦闘方法。
「こいつ、意識がないじゃないか」
騎士団長の暴走。
それをとめようとする者。
それだけで事情が大体読めてくる。
「……逃げてください」
声を辿ると倒れていた青年が起き上がっていた。
「団長は『月を刈る者』という魔術の代償で暴走しています……」
「暴走?っと話に耳を傾けてる場合じゃないか」
「がぁぁぁああああああああああ!!」
殺人鬼が優樹に剣を振り下ろす。
「どいてろ!」
優樹は剣を振るい、攻撃魔術を発動した。
「白の剣」
ドン!!と爆発音が広がった。
白光の斬撃が殺人鬼に直撃し、そのまま相手ごと近くのビルに激突した。
「おい、あんまり長くもたないぞ?俺も団長さんも」
「あと5分待って」
「キツい……」
相手は仮にも騎士団長だぞ……
「ねぇ、止められるあてはある?」
アリアは青年に問う。
「何を言ってるんですか!?逃げてくださいって言ってるでしょう!?」
青年は立ち上がり銃を構える。
「私が止めます」
「いや、無理でしょ。腹から血出てるよ?」
アリアが青年にざっくり言う。
それ以前に立っているのもやっとのようだ。
「ぐ……」
「というかどうして1人なの?騎士団全員で来ればいいと思うんだけど」
アリアの言う通りだ。
こんな大規模の事件、若い団員1人には荷が重過ぎる。
「実は先日からルートとの大規模な戦闘が続いていて……」
「人員不足ってわけか」
そもそも騎士団は精鋭の集まりになっていて人数はあまり多くはない。
「一応こちらにも他に3人の団員が配属されていたんですが……、全員病院送りになってます」
「……」
マジで?
「術式抹消系の魔術を使えれば……」
「術式抹消……か」
確かに、術式を無効化できれば魔術そのものはもちろん、魔術の代償や負荷もすべて消し去ることができる。
しかし、その術式抹消魔術の発動が難しいのだ。
発動エネルギーに、詠唱時間、発動タイミングなど、様々な条件が発生する。
「確か騎士団でも上位陣十数名による儀式でやっと発動できる代物でしょ?」
「はい、しかもその魔術の発動元も団長なんで……」
「じゃああたしが発動する」
「は?」
アリアが地面に指を置く。
「あたしなら術式を形成できる」
陣がアリアの足元に広がる。
「だから、あなたが空に陣を打ち上げて」
「あ……」
青年が持つ銃の先にも陣が形成される。
アリアは青年に、陣の中央へ行くように促す。
「で、俺はまたこいつの足止めか……」
優樹は瓦礫から這い出てくる殺人鬼を見てウンザリする。
「足止めじゃ足りないよ」
「え?」
「相手の動きを止めてもらえるかな?」
「む、無茶言うな!自分の命を維持するだけで精一杯だわ!」
「優樹、おねがい……」
「……」
おい、そんな目で俺を見ないでくれよ。
何でそんなに弱々しく言うんだ。
「しかたない……。そのかわり、今日の夕飯は高級牛肉を所望する」
「りょーかい。好きなだけご馳走してあげるっ」
「よし、その言葉覚えとけよ?」
刀を握る手に力を込め、殺人鬼と対峙する。
「じゃあ、さっさと目を覚ましてもらうぞ殺人鬼」
優樹は白の十字架を2つ自分の周りに展開し停滞させる。
「がぁあああああああああああああああああああああ!!」
「本当の近接戦闘ってヤツを教えてやる!」
大きな金属音と共に再び戦闘が開始された。
「さて、あたしは術式を練らないとね」
アリアは足元に展開されている陣の形を変化させる。
「あたし流、術式抹消魔術。多人数必要な発動元を夜空に浮かぶ星で代用―」
アリアにはエネルギーや魔力の問題は関係ない。
ただ、術式の構成を作り上げる。
それだけで充分なのだ。
「あとはあなたが銃でこの魔法陣を打ち上げるだけ」
「アルフです。アルフレッド・シルフ」
青年は呟くように言う。
彼の名だ。
「そ……。アルフ、銃を構えて」
「はい!」
アルフは星空に向かって銃を突き立てる。
「優樹っ!」
「まかせろ!」
激しい剣撃戦の中、優樹は展開させている白の十字架を4つに増やす。
「白の剣!」
優樹が放つ強力な斬撃魔術。
しかし、殺人鬼は『月を刈る者』で受け止める。
「まだだ……」
展開していた4つの十字架が殺人鬼に向かう。
「簡易拘束結界だ、くらいやがれ」
4つの十字架がそれぞれ殺人鬼の四肢の動きを止めさせる。
「ぐっ、がァアア!」
「――撃って!」
「っ」
タン、と銃声が聞こえた。
昇る光の軌道は綺麗な直線を作り上げ、そして大魔術を完成させる。
無数の星で描かれる魔法陣が、街の夜空一帯広がった。
『貫けぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!』
魔法陣の中心。
そこから一本の光柱が降り注ぎ、殺人鬼に照射される。
光の柱は直径2メートル程。
殺人鬼は完全にその中に収まった。
そして――全ての術式効果をキャンセルする。
「ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
殺人鬼は咆哮と共に膝から倒れこんでいく。
「団長……」
約15秒の照射が終わる。
殺人鬼は消え、そこには騎士団長が横たわっていた。