星空の町―1―
星空の町―ファルミル。
その名の通り、夜空が綺麗で有名な町。
町の北部から見る広大な星空は流星を見るような感覚を与えてくれる。
はずだった。
俺達はこの町に着いた瞬間に違和感を感じ取っていた。
「おい、何かおかしくないか?」
「まぁ明らかに変よね」
辺りを見渡す。
なのに人が見当たらない。
只今の時刻は午後8時過ぎで、夜空を眺めるのにも絶好の時間。
それよりもまだ人の活動時間内であってもいいはずだ。
「建物には電気が着いてるし、ゴーストタウンってわけでもなさそうだな」
「まぁいいでしょ。それより宿でも探そうよ」
アリアにそう言われ、違和感を拭いきれないまま宿に向かう。
「はーい、2名様ですかぁ?」
「あ、はい。お願いします」
宿に着くとアリアがカウンターで手続きを始める。
「この町に今来るって事はお客さんも事件の真相でも調べに来たんですか?……ってそんなわけないか。
あははははは」
「……事件?」
愛想のいい笑いを振りまく従業員は手続きを始める。
「えっ!?知らないんですか?連続殺人事件」
「殺人事件!?」
「そうなんですよ。2週間前程からこの町で殺人が起き始めたんです」
「連続……ってことは」
「はい、まだ続いてますね。犯人不明。目的不明。ただ犯人は魔術師の線が強いそうですね」
「そ、それにしちゃあ警戒してないな……」
「いえ、襲われるっていっても屋外だけみたいなんで。まあそれでも町の活気はとてつもなく下がりましたね」
店員はその後に窓を見ながら、「夜空はこんなに綺麗なのに……」と呟いた。
※※※
「なんかがっかりねー」
アリアはベッドでうつ伏せになりながら愚痴をこぼしていた。
「しかたないさ。でも確かにもったいないよな、こんないい町なのに」
優樹は部屋の窓から星空を眺めながら答える。
外を見ると、やはり人影は見当たらなかった。
優樹は視線を窓からアリアの方に向ける。
そこには眠そうな顔をしているアリア。
「ところで、聞きたいことがあるんだが……」
「なぁに?」
眠そうな声で返事をするアリアに優樹は言った。
「何で俺とお前が同じ部屋なんだよ!?」
「えっ?んー……、節約?」
「嘘だ!!お前は節約なんかする奴じゃない!!」
アリアは受付で普通に手続きした。
一部屋を。
「しかもベッド一つしかないじゃないか!!」
「期待してるからね」
「何を!?」
襲えというのか。
「あたし、寝ちゃうと余程のことがないと起きないんだ」
「いらねぇよそんな情報!!」
「もう、つまんないなぁ優樹は」
アリアはくすっと笑いながら体を起こす。
無防備過ぎる。
というか普通の女の子過ぎる。
「よく今まで無事だったな」
「ん?」
「いや、なんでもないよ」
聞こえないように言ったつもりが聞こえてしまったらしい。
「で、明日は町ん中見て回るのか?」
「それもいいけど、図書館に行ってみたいんだ。けっこう大きい図書館みたいだから」
この町の図書館は無駄に書物が多いらしく、有名な学者とかがよく利用するほどらしい。
魔術関連の書物も例外ではなく、全体の2割以上を占めるほどになっている。
「調べ物か?」
「そんなところかなー。けっこうな冊数を読むかも」
「そっか。じゃあ今日の疲れをとるように早く寝とけ」
「襲うの?」
「ちげーよ!!」
話が戻った。
「寝るにしても一緒に入らないと」
「お前計ったな!?」
部屋を何度眺めてもベッドは一つ。
確信犯過ぎる。
「お、俺はここでいいよ。単なる付き人だしな」
そう言って窓のそばの壁に背中を預ける。
「やっぱり断られた……」
当たり前だ。
「お休み」
俺がそう言うと、アリアは諦めたのか布団に潜った。
「……」
少し右を向き、窓の外を眺める。
見直しても、変わらず人の気がない。
星空の町に起きた連続殺人事件。
町に入った時から違和感が途切れなかった。
「殺人鬼……か」