2人の魔術師
腕を潰されたホウリーはその場に崩れ落ちた。
「今まで見つからずに済んでたってのに……」
優樹は両刃の剣を模造刀へと戻し、アリアの方へと振り返った。
「すごい……」
「?」
「すごいよ優樹!」
「何が!?」
「だって瞬殺だよ!瞬殺!」
「そこまで早くねぇよ!」
「まさにフルボッコ!ギタンギタンのメタンメタン!」
「お前急にどうしたんだ!?」
少しアリアの頭が心配になってきた。
いや、天才の頭ってのはこういうものなのだろうか。
「これ、防御結界だよね?」
アリアは俺の発動した白色の十字架を見る。
「まぁそんなとこ。これは俺のオリジナルだな」
「基本格子は形成系の魔術……、それに概念付加か……」
既に分析を始めている。
本当にこいつは『天才』なんだろう。
「っと、それよりここを離れよう。奴らに場所がばれてる」
※※※
ホウリーと戦闘があった場所から数十キロ離れた。
辺りの風景は海原が目立ち、綺麗な夕日が海面を照らしていた。
「アリア」
「ん?」
歩きながら優樹は訊ねる。
「聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「うん?」
大方想像はつくが、アリアがルートに狙われている理由を確かめたかった。
「お前、ずっと狙われてるのか?」
「うん、まぁね」
アリアは少し寂しそうに下を向く。
「最初は勧誘だったよ。『あなたの力を役立ててみませんか』みたいな。断ったら実力行使に出てきたね、やっぱり」
アリアはずっと1人で戦っていたのだろうか。
そしてルートはこんな女の子を半殺しにしてでも連れて行こうとしている。
「アリア、俺も言っておきたいことがあるんだ」
「?」
優樹は足を止め、数歩先に進んだアリアは後ろへ振り返る。
「俺は元『ルート』のメンバーだ」
「えっ!?」
アリアは一瞬表情を変えたが、すぐにいつもの顔つきに戻った。
「でも、『元』ってことは……」
「ああ俺はルートを抜けたよ。もちろん俺にも追手はある。アリアの追手より数段上の実力の奴らだ」
「優樹も……」
「で、だ。アリアはこのまま俺と一緒にいていいのか?いままで以上に追手が厳しくなるぞ?」
「それは遠回しに『お別れ』って言ってるの?」
そう。
幸い、まだ幹部クラスは動いていない。
もし幹部の奴らにアリアと俺が一緒だと知られたら、組織の第一目標が俺達へと変わる。
状況を悪くしないためにも、ここで離れた方が賢明だろう。
「……その方がお前のためだ。すぐに騎士団のボディーガードでも付けろ。それくらいの地位は持ってるんだろ?」
「やだ」
「……」
「やだ」
「……あの、アリアさん?」
「やだ」
何で呼びかけに否定?
しかも笑顔で。
顔は笑ってるけど恐らく怒ってる。
だって右手が震えてるんですもの。
「私はもう優樹を付き人にしたの。変えるつもりなんてないよ」
「もし襲われても助けきれる保障はないぞ?特に幹部クラスが現れたらかなり厳しい」
「それでもいい」
アリアは最初から決めてたかのように淡々と話す。
そこまで俺に固執する理由が分からない。
騎士団にでも駆け込めば保護してもらえるだろうし、ボディガードだって付けれるだろう。
「なんでそこまで……」
「言ったでしょ?『優樹だから』って」
「?」
「アリアがいいなら俺はいいが……」
どうせ一度は捨てた命だ。
だれかのためになるならそれでいいだろう。
「優樹は優しいんだね」
「ばか、俺は元犯罪者だ」
そう言うとアリアはちょこちょこと前を歩いて行く。
「ううん、優樹は優しいの」
アリアは優樹に届かない声で呟いた。
「だってあたしを……、『言の葉の魔術師』なんて呼ばれてるあたしを普通に1人の人間として接してくれたから」