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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

騎士は魔女様に恋をした

掲載日:2025/12/19

 日が照り始めるのが早くなった花の月一週目。まだ肌寒くもあるが、日の光が寒さを少し和らげる。

 騎士アルシュトはある場所を訪れていた。王都の端に聳え立つ塔を仰ぎ見る。

 ああ、やっと……。そう言葉が溢れ落ちそうなくらい、感極まってしまった。

 ある者から見ればただの高い塔、しかしある者から見れば待ち焦がれた場所。

 塔の敷地に足を踏み入れる。先程まであった肌寒さが消え、心地の良い気温に早変わりした。


「ようこそ、永遠の魔女の塔へ」


 私が気づく前に近くに現れた女性は暖かな笑顔でアルシュトを出迎えてくれた。

 嬉しさの感情が溢れ出しそうなアルシュトは落ち着くため軽く呼吸を整える。


「本日だけ永遠の魔女様の護衛騎士となりましたアルシュトと申します」


 年甲斐もなくアルシュトは緊張で声が少し上擦っていた。

 その緊張を解すためだろう。永遠の魔女はくすっと笑みを溢し、アルシュトに近づき優しく頭を撫でる。

 その行動にアルシュトは懐かしさと嬉しさを噛み締める。


「さあ、騎士君。君の歓迎会をしようではないか」


 永遠の魔女はアルシュトの手を取り、塔の中へと連れ込んだ。

 塔の中は意外にも普通の家と遜色のない内装で、恐らく永遠の魔女が作ったであろう料理がテーブルに並んでいた。

 アルシュトの料理を見て少し驚く。食べ始めると懐かしい味付けで涙が溢れそうになる。

 甘めの味付けと少し焦げた料理は、アルシュトの思い出の味。


「永遠の魔女様、今はもうこんなに多くは食べられませんよ」


 アルシュトは緊張が解れてのか、優しい笑いを見せた。

 一口、また一口とゆっくり永遠の魔女の料理を口に運ぶ。

 嬉しさで感極まっているせいなのか、アルシュトの手は少し震えていた。

 永遠の魔女はそんなアルシュトの震えた手を見て、一瞬悲しそうな顔をする。けれどそんな顔はアルシュトには見せない。


「永遠の魔女の護衛騎士になった騎士君に、最後の命令を出そう」

「なんでしょう、永遠の魔女様」


 永遠の魔女は少し重そうな足取りでアルシュトのもとに移動する。

 アルシュトは立ち上がり、慣れた手つきで自分の剣を取り出す。


「騎士アルシュトは永遠の魔女様にこの身全てを捧げます」


 アルシュトはそう宣言すると自分の剣を永遠の魔女に渡す。

 騎士が自分の剣を他者に渡すのは二つの意味を持つ。


 相手に永遠の愛を誓う時。

 相手に自らの命を差し出す時。


「永遠の魔女セリスティアは、騎士アルシュトの命を天に導こう」


 騎士アルシュトは堪えていた涙を少し溢す。

 永遠の魔女にとって自分の名を他者に知られると一生魔法が使えなくなる。

 たった一つの行為を除けば、その名を知ることはできない。


「最後に伝えたいことはあるか」


 アルシュトは考えることもなく、永遠の魔女にこう伝える。


「永遠の魔女様を愛しています」


 最後の言葉を聞くとアルシュトは自らの首を差し出し、永遠の魔女はアルシュトの剣でアルシュトの首を落とした。

 永遠の魔女は涙を流しながらそっと呟く。


「私の名前は言わないか……」


 アルシュトが流した最後の涙。それは永遠の魔女の名を知れたからか、もしくは自身の名を初めて呼んでくれたからか。

 それは誰にも分からない。

 

 それが騎士アルシュト、齢79の老騎士の人生最後の時であった。

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