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夫が亡くなって路頭に迷ったので娘を玉の輿に乗せようとしたら、伯爵家の末息子が求婚してきて大成功⋯⋯と思ったら、違うのですか? え? お求めになりたいのは、わ・た・し?

作者: 美咲アリス
掲載日:2025/10/06

「お母さま、今日のスープ、少ししょっぱいですわ」


「あら、ごめんなさいね。涙が入ったのかもしれませんわ」


 ……というのは冗談である。

 けれど、しょっぱくなるほど涙を流したのも本当なのだ。

 なにしろ、昨日、我が家は破産した。


 夫が亡くなって一年。

 頼みの綱の投資が見事に外れ、残ったのは古い屋敷と三人の娘。

 上から十八歳のセシリア、十七歳のルチア、そして五歳のミミ。

 働いたことのない公爵夫人がどうやって暮らせというのだろう。


「そうだわ、娘を玉の輿に乗せればいいのよ!」


 夜中にベッドで閃いた私は、勢いよく跳ね起きた。

 長女と次女は美人、末娘は天使のよう。

 どの娘だって王子様を射止めてもおかしくない。

 だったら、婚活戦略を立てるしかない。


 翌週、ない袖を振りまくって金を用意しドレスを整え、私と娘たちは社交界の舞踏会に久々に顔を出した。

 狙うは伯爵家、侯爵家、できれば公爵家の独身男子。


 髪をきっちり結い上げ、胸元にパールを飾り、上の二人の娘を両脇に侍らせて入場する。


「まあ、公爵夫人! お久しぶりですわねぇ」


「おほほ、夫を亡くしてから引きこもっておりましたの。でも娘たちも成長しましたし、そろそろ良縁をと思いまして」


 笑顔の裏で必死に計算する。

 あちらは侯爵家の次男、あれは遊び人で駄目。

 向こうの若い子は……うん、見た目はいいけど家が傾いてる、却下!!


 ——そんな中、ひときわ目を引く少年がいた。

 整った顔立ちに、深い紺色の瞳。

 まだあどけなさを残しているが、育ちの良さが一目で分かる。


 彼の名はエリアス・グランチェスター。

 伯爵家の末息子で十六歳らしい。


 ⋯⋯十六歳!?

 さすがに若すぎるのでは?

 と思ったが、彼の方から声をかけてきた。


「初めまして、公爵夫人。以前、お父上とお会いしたことがありました。とても……素敵なご家族ですね、羨ましいです。僕は父母と兄たちを早くに亡くしたので」


 まっすぐな瞳が切なげに瞬きをする。

 私は胸がキュ〜ンと苦しくなった。


 ⋯⋯なんて礼儀正しくていい子なのかしら。うちの婿に欲しいわ!


 彼は娘たちとダンスを踊ってくれた(なぜか私とも踊ってくれた⋯⋯)


 それから数日後。

 パートタイムで数時間だけ雇っている(見得のためだ)使用人が慌てた声で駆け込んできた。


「奥様、大変です! グランチェスター家の使者が、正式に“求婚の申し込み”にいらっしゃいました!」


「まあっ、セシリアに!? それともルチア?」


「⋯⋯いえ、“公爵夫人殿”に、とのことです」


「⋯⋯は?」


 私は笑顔のまま凍りついた。


「ちょ、ちょっと待って。娘ではなくて、わ・た・し⋯⋯?」


「はい。エリアス様は、“夫人こそが理想の女性”と」


 末っ子で五歳のミミが、お人形遊びの手を止めて不思議そうに私を見上げる。


「おかあさま、結婚するの?」


「し、しないわよ!? たぶん⋯⋯」


 数日後、なんと本人が訪ねてきた。

 若い——いや、少年と言っていい年齢だ。

 それでも彼は、精一杯背筋をぴんと伸ばしてはっきりと言った。


「公爵夫人。僕は、本気です」


「わ、⋯⋯わたしは娘たちを養わねばなりませんの。あなたのような若い方が、こんな老いぼれに」


「僕に必要なのは、家を守り、子を育てる女性です。あなたはとても気高く生きていらっしゃった。僕の理想です!」


 その瞳に宿る真剣さに、私は言葉を失った。

 この胸の鼓動はなんだろう⋯⋯。


 翌朝、鏡の前で髪を整えながら、私は小さく呟いた。


「まったく、⋯⋯人生、何が起こるか分からないわね」


 そして数ヶ月後——。


 私は純白のドレス(2度目だ)を身にまとい、祭壇の前で神に永遠の愛を誓った。

 隣には、あどけない笑みを浮かべた十六歳の夫——エリアス。


 まるで親子にしか見えない年の差婚に、参列者のざわめきが止まらない。


 でもこれでいい。

 何よりも娘たちも幸せそうに拍手しているし。

 これで路頭に迷う心配はなくなったのだから。


 そして夜。

 いわゆる——初夜、である。


 もちろん私は処女ではない。

 けれどこれはこれでものすごーく緊張するではないか⋯⋯。


「たぶん彼は初めてなんだから、私がしっかりリードしなくては」


 覚悟を決めて天蓋付きの巨大なベッドによじ登ると⋯⋯、

「これで僕たちは家族ですね」

 エリアスはにっこり笑い、そして——。


「え?」


 すやすやと眠ってしまった。


 手にはなんとテディベアを握っている⋯⋯!


「もう寝たの? もしかして、これって⋯⋯?」


 そう——。


 もしかしてもなにも、これってつまり、エリアスが欲しかったのは『家族』だったのだ⋯⋯。


「⋯⋯そういうことね」


 なんだか妙に納得して、私はそっと彼に毛布をかけてやった。


 こうして我が家は5人家族になった。

 母の私と、3人の娘、そして夫という名前の息子⋯⋯。


 でもまあ、いいじゃない?

 大きくて美しい屋敷で、とっても賑やかで、みんなが笑いあう温かい暮らし⋯⋯素敵じゃない?


「さあ、朝ですよ。みんなちゃんと朝ごはんを食べて! ほら、ミミ、ニンジンを残さないの! エリオット様、ミルクも飲みましょうね」


 さてママ……じゃなくて妻として、今日も張りきって生きていきましょう!


終わり

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― 新着の感想 ―
確かになぁ〜〜無関係の男女が家族になるのには結婚するのが一番手っ取り早いけど、家族になったからといって夫婦になる必要はないもんな〜〜。婚姻の誓いは病める時も健やかな時も死が2人を分かつまで共にいること…
お、おう。流石に年の離れた男女で初夜…とは身構えていましたが、16歳で熊とは。今後仕切り直しあるのか、ほのぼのファミリーもので行くのか,気になるとこです。
〉僕は父母と兄たちを早くに亡くしたので これは伯爵家の末息子、かつ伯爵家の後継者と言う事かしらん? まあ、路頭に迷う心配はなくなったとの事で、しかも幸せ…良かったですね♪
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