エピローグ~脇役願望~
朝。
俺は慌てたように朝食を食べ、軽く身だしなみを整えて走りながら家を出た。
前はモラルもいた部屋がいまではとても広く感じる。しかしその感覚にももう慣れてしまった。
というか最近まで梨菜がこの家にいたのだ。
『ほ、ほらストーカー事件、まだ終わってないかもしれないじゃないですか』
そう言っていたが、どうにも信用できない。
そもそもその犯人は錬金術師のおっさんだったし、あれからもう数カ月経っている。今では学年だって1つ上がってしまった。
俺は出席日数やらひどい点数やらでめちゃくちゃ苦労したが、先生の特別措置やクラスの人達の声で地獄のような宿題やレポートをこなすことにより、なんとか進級することができたのだった。
「まあ、自業自得、かな」
世界を助けるためとはいえ、自分で学校を休んだのだ。そもそも修行を行っていた志野野辺たちはなぜか普通に学校にも通っていたらしく、問題無く進級。
ちくしょう・・・。
自業自得、か。
そのセリフであの時のことを思い出す。
結局俺たちの目の前にルナが現れることはなかった。いや、正確に言うとテレポートは成功したらしく、世界の力の均衡は保たれることになる。しかしテレポートは世界の狭間では思うようにいかなく、テレポートさせたルナはどこかへと移動してしまったらしい。
会ったら会ったで何を言えばいいか分からなかったし、悪魔はいつでも地獄に移動できる。なんとか上手くやっているだろう。
「よ、井野宮」
「志野野辺」
そんな登校途中の道。
すでに遅刻ギリギリで最悪遅刻になるという時間なのに志野野辺は余裕そうに歩いていた。こいつはいつもこんな感じなのだ。
「なんだ?梨菜ちゃんじゃなくてがっかりしたか?」
「いや、梨菜はそもそも学校違うから」
学校が違う。
一時期、うちの学校に来ていた梨菜も元の学校に戻ってしまった。ストーカー問題解決や、元の友達が恋しくなったかららしいが。そんなに融通のきくものなのかと驚いた。
「まあ、何でもありなのかもしれないな」
街を破壊する不良同士の争うがあるように、世の中は意外となんでもありで出来ている。
本当に志野野辺や木野白がそれぞれの不良グループの元リーダーだったというのは驚いたが、今ではそのグループも解散し、街のボランティア活動団体へと変化しているらしい。
志野野辺と木野白がリーダーに戻ったということらしいし、安心だろう。
「志野野辺くんに井野宮くん」
「よ、真苗」
そこにまたしてもゆっくり歩く真苗がいた。
一応天使であるはずだが、人間である頃と全く変わらず、のほほんとした雰囲気は健在だった。今も遅刻しそうなのにゆっくり移動している。
「井野宮くん、そういえばあのおじさんたちは?」
「あーおっさんたちなら帰ったよ」
そもそもあのおっさんやトーテムは対天使侵略用に作られたパーティーだったらしく、その後特に何かあるわけでもなく、清々したと言いながらお互い元の世界へと戻って行った。
モカはアークラセルにて治療を受けているらしい。
ジェスの行方は未だに分からない。
「いや、真苗には分かってるんだっけ?」
「うーんうっすらとね。でも、まだ拒否られてるって分かるんだ」
そうか、と呟くと今度は真苗が何か言いたそうにしている。
「井野宮くん、それでね。こ、今度の土曜日の学校終わりなんだけど・・・暇かな?」
「俺はもうやることなんてなんもないが」
嘘だ。
勉強とか山ほどあるが、どうせほとんどやらないだろう。
「だ、だったら私と一緒に・・・!」
「おーい、井野宮くん、志野野辺くん、真苗くん・・・とあれ」
そこに入って来たのは委員長だった。
というか委員長家真逆のはずだろ、なんでここにいるんだ。
「久々に一緒に登校しようとここまで来たんだが・・・邪魔だったみたいだな」
「というかそもそも俺の存在忘れてない?」
志野野辺が悲しそうに声を出す。
俺はなんのことかいまいち掴めなかったものの、暇ではあるので。
「分かった。どっかいくか」
「う、うん!」
そう言った。
空を見上げると綺麗な青空が広がっていて、あの時のことを思い出す。空からモラルが降ってきたときのことを。空から女の子、だなんて漫画の世界かと思ったけれど。
すでに一度主人公をしていた俺はその異質さに特に驚く事はなかった。
全てが懐かしい。
「終わったな」
「うん、終わったね」
「終わった」
「ああ、終わったんだ」
みんなで確認し合う。
本当はここにモラルをいれて5人のはずだった。それだけは未だに受け入れられない。それでも真苗の中にたまにモラルの声が響くみたいで、寂しくはなかった。
そしてもう一度空を見て・・・空から何か落ちてくることに気付いた。
「え・・・」
まわりを見るとすでにみんな俺から距離をあけている。
俺はもちろん間に合わず、そのまま体全体で落ちてくるものを受け止めた。倒れ、顔はアスファルトに思いっきりぶつける。
痛い。
色々なことを経験してるが人間なのだ、痛いものは痛い。
背中に何かの感触がある。
それを確かめようと上半身を置きあがらせ、後ろを見ると・・・。
「久しぶり、井野宮天十」
そこにいたのは泣きながら笑っている悪魔。
こうして俺、2回目の主人公、2回目の物語は幕を閉じた。
結果的にハッピーエンドとは言えなかったかもしれないけれど、それでも今はよかった、と思えることが出来る。
みんなが繋げてくれた世界は守りたいけれど、もう2度と主人公みたいな体験はこりごりだ。
俺は今でも胸に、脇役願望を秘めている。
読んでいただきありがとうございました。
この小説は最初の方に投稿したものではありますが、長い間他の小説を書いていたりとかなり完結まで時間がかかってしまいました。
王道を目指そうとして能力モノを書いてみましたが、やはり難しかったです。
最初構想していたもの(そもそも終わりを決めずに書いていました・・・)とは大分違った中身になっていますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
途中から読んで下さった方、最初からずっと読んでくださっている方、そして今初めてこの小説に目を通してくれた方、どの方にも等しく感謝を。
ありがとうございました。
とはいえ、書くのをやめるわけではなく、他の小説も書いていますし、この小説の過去編もまるまる書きなおすつもりです。
もしよろしければそちらの方もよろしくお願いします。
他の色々は活動報告などで今後書いていきたいと思いますので、もしよろしければ。
では最後に本当にありがとうございました。
また他の小説で会うことができれば嬉しいです。