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元主人公、今は脇役願望。  作者: 花澤文化
終章『再び終わる物語』
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第59話 INVASION⑥

「君たちのことは知ってるよ。不良グループの一員なんだよね」


 しかしそのジェスの質問に相手は答えない。

 まわりが暗く顔も見えない。ジェスは目を凝らす。目の天使細胞が輝き、うっすらと視界が明るくなる。しかしそれでも顔は見えない。ただ、どこにいるかはなんとなく判別できる。

 ジェスは羽を使い、浮かぶ。そのまま、地面を少し浮かびながら滑り、移動し始めた。


(随分と余裕だな)


 対するジェスの目の前にいる木野白泉はそれを見てそう思った。

 走るでもない、飛んだとしてもゆるい速度。明らかにこちらを舐めてかかっている。木野白からは天使細胞の微妙な輝きにより、暗い室内でも場所を知る事が出来るため、その移動速度もきちんと目で見る事が出来るのだ。

 木野白の手首には腕輪のようなものがはめてある。そして手には掌で包み込めるほどの大きさの鉄球が。その腕輪と鉄球は長い鎖で繋がれていた。

 それが武器。木野白が昔から使っている武器だった。

 鉄球を握りしめ、思いっきりその鉄球を投げる。


(梨菜からのバトン、しかと受け止めた!!)


 木野白は先ほどジェスの姿を見たときに、背中に刺さっているナイフと口から流れている血を見た。恐らく梨菜が付けた傷なのだろうと判断した。

 何かしら倒せるような情報が欲しかったが、梨菜に無理はさせれない。外傷よりも能力による内傷がひどく、それは病院で治せるものではない。前に錬金術師に言われていたため、すぐに教えられた応急措置をして、電話で錬金術師等にお願いしてある。


(恐らくすぐに来るだろうが・・・)


 もしなんらかの形で少しでも遅れてしまったら梨菜は死んでしまうかもしれない。それほどまでにひどかった。内の傷のはずなのに、それが外傷のようになって現れるほどに。

 木野白には応急措置しかできない。傷ついている梨菜をこれ以上どうすることもできない自分の無力さに歯がみする。起きたらなぜあそこまで能力を使ったのか問い詰めるつもりでいるが・・・。

 

(梨菜がそれを望んだならば・・・私に何か言う資格なんてないのだろうな)


 暗き蝙蝠のリーダーだった。

 けれども数年前のとある事件を境にその姿はばったりと消えてしまう。自分の仲間にその役目や汚れを押し付け悠々自適に自分は学校生活を満喫していた。

 そういう意味からも木野白は梨菜に対し、今まで積極的に話せたことはない。


(せめてリーダーらしいところを見せねばな)


 投げた鉄球はジェスの体に当たるも、そのままストンと地面に落ちる。しかしその鉄球の様子を見ても一切顔いろを変えず、再びもう片方の鉄球がジェスを襲う。

 威力を消し、相手を絶望させることが目的ではあったのだが、相手がそれを気にしていない様子を見て、すぐにそれをやめる。すなわち、ただ威力を落とすのではなく、相手に向かって鉄球を反射させる。ジェスの能力は触れたものを操る能力なのだ。

 先ほどの梨菜は咄嗟の銃弾の反射をテレポートで回避したが、今回は鉄球。銃弾ほど速くはないし、それに相手もまた違う。梨菜より場数を踏んでいる。

 跳ねかえった鉄球をかわすとそのまま腕を動かし鎖つき鉄球を相手に投げつける。


(なるほど・・・あの鉄球、腕輪に繋がっているのか)


 だからこそ跳ね返された後、攻撃に移りやすい。

 しかしジェスは笑う。

 それがなんだというのだ。速いからといって意味はない。自分の体にぶつかった瞬間その意味はなくなるのだ。それに・・・。


「・・・・!」


 次に放った鉄球はジェスの体に触れた後、ふわりと少しだけ浮かび、真後ろに飛んでいったではないか。木野白はその場で足を地面に強く打ち付ける。

 真後ろへ飛ばされた鉄球と鎖で繋がっていた腕が思いっきり引っ張られ、思わず体勢を崩す。

 その瞬間を逃さなかった。

 ジェスは一気に間合いを詰め、先ほど梨菜にぶつけたのと同じ威力の拳を繰り出す。

 そこは木野白、もう片方の腕に持っていた鉄球をふわりと上に投げ、拳の邪魔をする。

 しかし・・・。

 大きな音と共に鉄球が破壊された。

 そのまま拳の勢いは止まらず、木野白の顔を打ち抜いた。先ほど鉄球につられて前のめりになっていた体が思いっきり後ろに吹っ飛ばされる。

 下の階で梨奈がぶつかったのと同じ壁に大きな音をたててぶつかった。


「がっ・・・!」


 肺の中にあった空気が全て吐き出される。

 次に苦しさが襲い、次に痛みが背中を襲った。

 だが、戦い慣れしている木野白はそれでも立ちあがる。殴られた頬は腫れ、口は切れて血が出ている。明らかに無事な様子ではないが。

 ジェスは口元を笑みに歪める。


(井野宮天十が不在だと聞いていたから不安だったけれどこの分なら彼が来るまで楽しめそうだ)


 ジェスはこの場に井野宮天十が来ると言う事を確信していた。

 こうして仲間がやられているのにここに来ないわけがない。そう、形は違えどある意味ジェスも井野宮天十のことを信じていたのだ。

 そしてその信頼に応えるような人間だとも思っている。

 立ちあがった木野白はとりあえず、手元にあるナイフをいくつか投げつける。しかしそれも反射されてしまった。もちろん、残った鉄球で全て叩き落としたが、先ほどより明らかに動きが鈍くなっている。


「くっ・・・」


 木野白はもう一度手元にあったナイフを手に取る。

 そしてふと、思い出した。そういえばジェスの背中にはナイフが刺さっていなかったか。そう、梨菜のつけた傷跡だ。あれが無意味なものだとは思えない。

 もしあれが梨菜の残したヒントだとしたら・・・。

 相手の能力は予想以上だった。錬金術師から対処法を聞いていたのだが、それはもしジェスと会ったらどう逃げるか、生き残るか、という命を捨てないやり方。捨て身ではない。


「・・・・・」


 残った1つの鉄球を握りしめる。

 梨菜は捨て身だった。自分の命を犠牲にしてまで、勝とうと、次に繋げようと必死だった。では自分もそのぐらいの気概で行かなければならない。

 木野白は梨菜たちのリーダーなのだから。

 1つのヒントは錬金術師からもらっている。そう、攻撃と認識されない攻撃。それをすればいいのだ。


(私も次に繋げなければならない・・・!)


 そう決意する。

 もちろん梨菜はあるはずのない能力の残滓を使っての攻撃でようやく隙をつけた。木野白にはそれがない。しかしやるしかないのだ。リーダーとして、かっこ悪いところはもう・・・。


「これ以上、見せられない」


 ただでさえ、逃げて。

 ただでさえ、捨てて。

 これ以上、こんな無様な姿は見せられない。

 殴られた部分が、叩きつけられた部分が響く。いくら鍛えようが人間の体。たった数撃でここまで追い込まれてしまう。

 木野白はナイフをもう一度投げつけた。

 無駄だとばかりにそれらを全て跳ね返す。しかし今度はそれらを鉄球で防ごうとせず、まっすぐに向かってきたではないか。

 ジェスは少しだけ驚いたものの、すぐに冷静になる。

 ナイフは木野白を切り、そして手などにいくつか刺さってしまう。それでも前に進む、木野白。

 それを見て、ジェスは一歩だけ前に進んだ。


「!・・・・またか」


 足元には切れた糸。

 罠だ。

 教室の開けはなれたドアから太い丸太がぶつかってくる。今回ジェスは跳ね返すことなく、触れた瞬間丸太は粉々に砕け散った。

 そう、糸でぶらさがっているため、跳ね返したところで再び戻って来てしまうであろうと判断したのだ。しかしそれが間違いだった。

 粉々になった木はジェスの視界を一瞬塞いだのだ。


「ちっ・・・」


 思わず、手でそれらの木を叩き落とす。

 すると・・・またその手が何かに触れた。


「また糸・・・!」


 今度は最初と同じく上から武器が降って来るというもの。

 もちろん、それら全てはジェスに触れた瞬間砕かれていく。空から武器の破片が降り注ぐ。しかしその破片すらジェスの体を避けていた。その瞬間を木野白は逃さなかった。


(得た・・・!ヒントを・・・!)


 最初の丸太が襲う時、闇に姿を消していた。

 しかしそれはもうほとんど意味がない。攻撃と認識されない攻撃をするためにはそれこそテレポートで目の前に移動するなどしか不可能だ。そしてそれももう、梨菜との戦いで警戒されている。


「・・・・・・っ」


 思いっきり闇から鉄球を投げた。

 鎖と共にそれがジェスへと襲いかかる。しかしそれもまたジェスは予見していた。すでに攻撃とばれてしまっては意味がない。触れた瞬間能力が発動して終わり。

 だが、その鉄球の軌道はジェスに当たるような軌道ではない。大きくまわりと囲むような軌道だった。


(なるほど・・・最初と同じく鉄球につく、鎖を僕に巻きつかせようとしているのか)


 しかしそれも無意味。

 巻きつかせた瞬間は体に触れることになるはずだ。


(いや・・・)


 そこで様子がおかしいことに気付く。

 ジェスの体の大きく外側を回るように動いているのだ。これでは巻きつけることなどできない。ジェスは相手の狙いがなんなのか一瞬分からなくなる。

 だが、すぐに・・・。


(まさか・・・!)


 その時にはすでに遅い。

 木野白は思いっきりその鎖を引いていた。そこでさらに鉄球の動きが変わり、そしてその鉄球が綺麗にジェスの背中に刺さっていたナイフに思いっきりぶつかっていた。


「があ・・・・!」


 激痛がジェスに走る。

 少し治りかけていた傷がさらに広げられたのだ。

 その激痛により、一歩前へと動く。そして、その真後ろにあった罠の糸を木野白がナイフを投げて切る。するとまたしても別の教室から丸太が飛んできた。

 ジェスの体に直撃するはずの丸太は、激痛により、一歩前に出たジェスの真後ろを通り過ぎるはずだった。しかしジェスには背中に刺さったナイフの柄がある。

 そこに丸太がぶち当たった。


「っ!」


 さらに傷口が広がり、さすがのジェスも余裕を保てなくなる。

 さきほど木野白が確認したのは刺さったナイフの柄。先ほど木の破片や武器の破片がジェスに降り注いだ時、その破片すらもジェスを避けていた。

 しかしその中で、その飛び出していた柄にはパラパラと破片が当たっていたのだ。

 そこで刺さったナイフには能力が及ばないと判断したのだ。

 梨菜が伝えたかったこととはずれているものの、ジェスにダメージを与える事が出来た。


(とはいえ・・・相手の慢心のおかげだがな・・・)


 記念などとジェスが余裕を見せていなければ出来なかったこと。

 元々、人間に天使の相手が務まるはずもないのだった。


「でも・・・やられてはくれないだろうな」


 そう言う木野白の通り、ジェスは立ちあがる。

 その手には刺さっていたナイフがあった。


「これはしてやられたな。すごく痛かった。久々だったよ痛みは。痛かったなあ」


 そして思いっきり、ナイフを木野白に向けて投げつけた。

 ジェスの手に一度触れたナイフは何にも邪魔されることなく、木野白の腕に刺さった。


「ぐっ・・・」

「だから、今度は君の番だね」


 そしてジェスはそのナイフの柄を思いっきり横に殴りつけた。


「がああああ!」


 ナイフは傷口をさらにえぐり、刺さっていたナイフは横に吹き飛ぶ。

 ジェスはそれをまた拾って同じ箇所に刺した。あまりの痛みに木野白はもう声も出ない。


「今度はこの刺さった状態のまま君自身を思いっきり殴ってあげよう」


 その笑みは狂っていた。

 木野白は自分が戦っていた相手への恐怖をこの時初めて明確に感じる事ができた。

 体は動かない。

 恐怖からか、諦めからかは分からない。しかしジェスからしたたる血を見て自分はなんとか次につなぐ事が出来たと判断した。


(志野野辺くん・・・後は頼んだ・・・!)


 そうして死を覚悟した木野白。

 しかしその時、近くにあった窓が大きな音をたてて割れる。そしてジェスが後ろへと吹き飛んだではないか。その光景を見て、木野白は驚いた。

 あのジェスがなんのへんてつもない一撃をくらった。

 確かに不意打ちめいていたが、あそこまで吹き飛んだ姿を見たのは初めてであった。


「なにが・・・」


 思わず呟く。

 木野白の目の前に降り立った人物は黒い羽を広げていた。それは月の光に照らされて綺麗に輝いている。まさしく暗い闇夜に浮かぶ蝙蝠のようだった。


「久しぶり、委員長」


 その黒い人物はそう言った。

 相手への怒りを感じさせながらも木野白を安心させるようないい方。

 懐かしさを感じる。

 帰って来たとは聞いていたけれど・・・実際に会うのは数カ月ぶりだった。

 そして委員長である木野白はその人物の名前を呼ぶ。


「井野宮くん・・・!」

少し間があいてしまいました。


もしよければ最後までよろしくお願いします。

ではまた次回。

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