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元主人公、今は脇役願望。  作者: 花澤文化
終章『再び終わる物語』
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第57話 INVASION④

「やっぱりあそこで潰しておけばよかったかなあ」


 地球。

 その場所はとても見慣れた場所。すなわち、ジェスが爆発を起こし、天使を2人失った場所。井野宮天十たちが通う学校だった。

 深夜、ジェスは人気のないこの場所に来ていた。

 ロボットはない。すでにランドバハド、アークラセルに送ってはいるがこの地球には最初からロボットを送りつけるつもりはなかった。この世界こそ、ジェス本人の力で正の力を充満させようと思っていたのである。

 場所は学校の入り口。

 ジェスはそこに立っていた。


「世界を移動できる力なんてモーラ・ルーレト以外にいなかったしなあ、まさか能力自体をテレポートできるとは思わなかったよ。移植もしなくていいなんて便利なんだなあ」


 そんなことをしゃべりながら、少しだけ後悔していた。

 モーラ・ルーレトを能力移動前に倒していれば、もっと他のみんなが絶望する顔を見る事ができたというのに。いや、適度に抗ってもらったほうがいいか、と思いなおす。

 にやりと、笑う。

 この学校を拠点に選んだのは理由がある。あの時のことを正確に思いだすためだ。

 自分が唯一殺し損ねたモーラ・ルーレトの能力と、井野宮天十。


「自分の失敗を見返すという反省はとても大事なものだから、僕はあえてここにいる」


 そう言いながら、学校の玄関の扉を壊す。今回は空間転移など使わない。壊れたものは壊れたままだし、それを瞬時になおすこともできない。

 ジェスにはそれを気にする必要がない。井野宮天十に戦闘に集中してもらいたいがために空間を無理やり天界に繋いだ。転移能力はなくとも天使ならばいつでも天界に移動できる。それを利用したのだが。

 ジェスははっきりとそれは無駄だという。

 これから殺す相手になぜ気を遣うのか、戦闘に集中させてどうするのか。全てが無駄だった。


「・・・・・」


 まっくらな校内。

 ジェスは道を歩くように、普段通りに入り口の中へ、一歩踏み出した。

 プツンという感覚。


「わお、なるほどね」


 それは糸、ワイヤーだった。

 それが切れた途端、頭上からその糸によって抑えつけられていた鉄パイプや武器その他諸々が一斉に降って来る。ジェスはかわす動作をすることなく、普通に歩み続ける。

 天使といえども体の構造は人間と同じ。天使細胞があるとしても怪我だってする。しかしジェスにはそれだけでは足りない。

 触れた武器は全て勢いをなくし、切っ先は折れ、鉄パイプは重みを失う。

 万物をあやつる能力はジェスのその身に触れた瞬間から効力が発揮する。


「罠がはられているなんて驚いたけど、僕には届かないかな」


 正確にいえば、罠をはられていたことにではなく、天使であるジェスにこうした策を講じたこと、誰にも話していないはずの目的地が学校だということがバレていたことに、である。

 相手も馬鹿ではない。そう思う。


「ただ、馬鹿でなくとも弱ければ意味がない」


 歩みを止めず、前に進む。

 玄関を出て、廊下へ。ジェスの目的地は2年生の教室。すなわちこの学校でいう3階だ。1階に教室はなく、4階が1年生、3階が2年生、2階が3年生という構造をしているからだ。

 そして2年生の教室を目指す理由も明白。数か月前に戦った場所だからだ。

 廊下を歩き、階段を探しているとズガンという鈍い音。

 そしてすぐ近くで何かが弾ける音がした。

 暗くて見えにくいが、天使細胞による視力強化と輝きにより、うっすら何かが見えた。


「跳弾か」


 弾きやすい弾を使い、狭い場所の壁などに撃つ弾だ。それこそ殺傷能力は少ないものの相手に当てると言う一点のみでいえばこちらのほうがよい。

 ジェスには分かるはずもないが、この弾は暗き蝙蝠で使われている弾だった。殺傷能力はないにしろ、当たればそれなりに痛く、当たり所が悪ければその箇所が動きにくくなったりする。

 でもジェスには関係がない。

 触れた瞬間に弾の威力がなくなり、地面に落ちた。


「楽しませてくれるなあ」


 ジェスはその気になればそのまま学校を破壊し、目的地に到達する事ができる。でもそれでは意味がないのだ。あの場所を残しておかなければいけない。

 そういう意味ではアンジェの気持ちも分からないでもないが。

 人影。

 ガチンという火花が散る。


「君とははじめましてじゃないかな?」

「ですね、たぶん!」


 ナイフをぶつけてきたのは梨菜だった。

 暗き蝙蝠の衣装を来て、髪をまとめている。その手にはナイフが握られていた。

 先ほどの音と火花はそのナイフがジェスの腕とぶつかる音だった。

 ジェスから攻撃を受ける前に大きく離れる。


「なんですか今のガチンとかいう音・・・人間の皮膚の硬さじゃないですよ・・・」


 といいつつも、体勢は崩さない。

 もう一度ナイフを構えて・・・走る。

 ジェスは笑う。いつものように自分より下の者を見る目で。

 ただその目は見開かれることになる。


「消え・・・!」


 ジェスの直前で梨菜の姿が消えたのだ。

 普通の人間だとばかり思っていたが、能力者だったのだろうか。しかし一瞬で消える能力など聞いたことはない。

 そう、それはまるでモーラ・ルーレトのテレポートのようではないか。


「まさか・・・!」

「何がまさかなのか分かりませんけど・・・!」


 真後ろ。

 そこに梨菜が移動していた。ナイフを構え、それを突き刺す。先ほどの硬さはなく、ずっ・・・とナイフが体に差し込まれた。

 あまり気持ちのいい感覚ではないが、しょうがない。そこらへんは何度も何度も慣れるために修行をしたのだ。偽物の肉にナイフを刺したり・・・数ヶ月前のことを思い出す。


「がっ・・・!」


 ジェスの顔が苦痛にゆがむ。

 さらに攻撃しようとしたところでそのナイフが抜けないことに気付く。すぐにその場を離れ、また新しいナイフを構える。

 どうやら刺した後で皮膚の硬化が行われたようだった。


「どういう・・・能力を移動させたのは1人じゃなかったのか・・・」


 ジェスはそれでもまた笑った。

 嬉しい誤算。相手が自分の思っていたよりも強かったという誤算。それがジェスに笑顔を作らせる。


「うわー・・・全然苦しんでませんね・・・・・っつ!」


 距離を十分にとった後、突然の頭痛に頭を抱えた。

 視界がぶれる。

 予想通り、能力を使う度にかなりの負担がかかっているようだ。今まで一度も使ってこなかったからこそ気付かなかった。ここまで負担になるだなんて、ここまで痛いなんて。

 でも・・・。


「耐えられないほどじゃない・・・ですね」


 そう言える。

 自分にはほぼ無関係なことで無関係な人が死んだ。そして今、無関係なのにこうして命をかけて戦っている。不思議ではない。梨菜は確固たる意思を持っている。

 自分達のチームを救ってくれた井野宮天十を今度は梨菜が救うんだ、救えなくても助けてあげなければ。今はそれだけでいい。


「なるほど、君はモーラ・ルーレトの能力の残滓を得たということか。だが、天使細胞の無いただの人間でその天使の能力は辛いのではないかな?」

「そうでもないですけどね」


 強がる。

 それを見て、弱くはない獲物だと判断したのかにたりと笑った。

 先ほどは一瞬の隙をついて攻撃と認識される前に攻撃したため、成功した。しかしもうそれは通用しない。テレポートを使えると分かればそれなりの対応ができる。

 それにそのテレポートも使えて数回。見た目以上に中身がすでにボロボロになっていることだろう。ジェスの見立てでは最大で2回、最低で1回という感じだった。


(それ以上使えば脳が、体が壊れてしまう。そんなつまんない幕引きだけはやめてほしいな)


 そして梨菜はジェスを見る。

 ナイフを構えつつ、次はどのような攻撃をすればよいのか考える。錬金術師の話によるとこの天使の能力は全てをあやつるらしい。それこそ攻撃の威力や、何もかもまで。

 だからこそナイフの攻撃は最初無力化され、相手の皮膚が硬化したように思えたのだろう。


(でも・・・やっぱり不意打ちがきいたということは攻撃と認識されなかったら無力化できないのかもしれません・・・!)


 再びしかける。

 ナイフを持ち、もう一度刺そうと試みるも相手の肌に触れた瞬間、今度はそのナイフが粉々になってしまった。未だに梨菜が死んでいないのはジェスが遊んでいるという理由もあるが、ナイフや銃弾など間接的に相手に触れているからである。

 もし直接相手に触れた場合、それこそ梨菜の命まであやつられかねない。

 梨菜はそこまでは分かっていなかった。触れられたらやばい。触れたらやばい。それを直感で感じ取り、なんとか今まで生きているのだった。


「その刺さったナイフ、とらなくていいんですか?」

「ん?記念だよ、記念。それにほら何かが刺さったらそれを簡単に抜いてしまうのはよくないだろう?血が出てしまうからね。止血だよ、止血」


 嘘だとすぐに分かった。

 ただでさえ頑丈な天使だ。刺さったナイフを抜いたぐらいじゃ天使は死なない。それこそ止血さえ必要ないぐらいだ。それぐらい素人の梨菜にも分かる。

 ではなぜあのナイフを取らない?

 本当に記念なのか?

 ジェスはどこかおかしい。それぐらい平気でやりそうではあるが本当にそうなのだろうか。

 梨菜は考える。

 次の攻撃はどうするか、そう悩んでいた時だった。

 にやりと笑いながらジェスが動き始めたのだ。


「・・・・っ」


 咄嗟に距離をあけ、再び手にとる拳銃。

 いつもはスナイパーとして長距離にいる相手を狙う攻撃が得意な梨菜ではあったがこの左右が教室の壁に囲まれている狭い廊下では意味がないし、姿を隠せる場所なんてない。

 だからこそ使いやすい拳銃を選んだのだった。中身は特殊弾。実弾ではなく、どちらかといえばエアガン寄りでいざという時いい訳できるようになっている。

 発砲。

 乾いた音がした。

 その特別弾はジェスの方へ向うもその肌に触れただけで死んだ蚊のようにポトリと落ちてしまう。

 舌打ちをする。


「っ・・・!」


 再び発砲。

 今度もまた無力化されてしまうと思いきや、その銃弾は跳ねかえり、そのまま梨菜めがけて飛んでくる。思わぬ反撃。というよりこのままでは自爆である。

 実弾では無いしろ当たり所が悪ければかなり危なく、普通に当たっても十分に危ない。そんな弾がものすごい勢いで帰って来たのだ。

 もちろんそんなこと予想できなかった梨菜は体がかたまり、動けない。

 しかしその中で頭だけが回転していた。


(避けなければ・・・!)


 何が起こったのかも分からないまま、梨菜は天使の残滓、テレポートを発動。

 一瞬にして消え、銃弾をかわし、元の位置より少し前に現れる。

 危なかった、危なかったがその瞬間に頭に激痛が流れた。先ほどの比ではない、体も軋み、動きが鈍くなる。あまりの痛みにそのまま倒れてしまうかと思うぐらいだった。


「・・・・・・なっ・・・・!」


 鼻血だ。脳に負荷がかかっているのだろう。

 気を失いかける。


(駄目・・・っ!)


 咄嗟に手元にあったナイフを自分の手に突き刺した。貫通はしていないものの鋭い痛みが流れる。


「あああああああああああああっ!」


 叫びながらも正気を取り戻した。

 頭痛はまだ強いものの、なんとか留まっていた。

 ようやく立ち直るものの、しかしふらふらになりながらも目の前を見ると、顔のほんの少し前に拳が迫っているではないか。


「え・・・」


 唖然。

 梨菜は頭痛などに気をとられ、相手がどの程度の位置まで迫って来ているのか判断できていなかった。笑顔のジェスが拳を思いっきり振りかぶる。

 顔に一撃。

 それは人間に殴られるより遥かに痛く、せっかく取り戻した気をまた失いそうになる。

 数メートル廊下を吹き飛ぶ。

 そのまま一番端の壁にぶちあたった。


「がっ・・・!」


 肺の空気が全て出る。

 あまりの衝撃に息が出来ない。


「僕は触れたものをあやつれるんだ。無力化するだけじゃない。相手に跳ね返すことだって出来る。それで、どうだい?天使の拳は?」


 そう余裕で話しかけて来た。


「君がナイフを自分に刺したときはお見事と思ったけれど・・・負荷が大分来ているようだね。それが限界。人間が天使の能力を使用するなんておこがましいってわかったかい?」


 答える力はもう梨菜になかった。

 凄まじい負荷と顔にくらった一撃で体ほとんどに力が入らない。頭は揺れ、視界はぶれる。たった数撃。たったそれだけで見事に戦闘不能に追い込まれてしまった。

 数か月修行をした。

 強くなったつもりだった。

 それでもこんなに差があるのだ。

 立ちあがれない。足が震える。うっすらとジェスらしきものが見えるも気を失う直前。

 しかし・・・。


(・・・・・・・そのナイフ・・・・・・・・・)


 拳銃を構える。

 震えている。照準も合わなければ、ジェスがどこにいるのかもうっすらとしか分からない。

 それでも今まで考え続けてきたものを試さなければならない。

 少しの可能性しかないが、相手に少しでもダメージを与えなければならない。


(・・・・・相手なら・・・・・)


 相手ならきっとこの時点でかなり余裕でいるはずだ。

 それこそ自分にとどめを刺すためにゆっくりと近付いているだろう。今までの相手からそこまで考察する。位置はなんとなく予想がつくが、後は自分が拳銃の引き金を引けるか。そして・・・。


(もう一度だけ・・・・・・・)


 もう一度だけ能力を使えるか。

 梨菜は今回の件に関して一番関係が薄い。命をはるまでもない要件かもしれない。それこそ志野野辺や木野白に任せていればいいことなのかもしれない。

 それでも梨菜は命をかける。

 自分のチームのために命を懸けてくれた人を命を懸けて救うために。

 発砲。

 またしても乾いた音が響き渡る。

 それをジェスは余裕で見ていた。

 すると目の前でその銃弾が消えた。それでもジェスは笑みを崩さない。


(僕への攻撃はどんな方向からでも確実に防げる・・・・・!)


 だが、次の瞬間血を吐いたのはジェスの方だった。


「が・・・・・」


 なぜ?とは思わない。

 ジェスは消えた弾がどこにいったのか即座に理解したからだ。いや、理解せざるを得なかったというのが正しいだろうか。


(ほんとは・・・・脳にテレポートできればよかったんですけどね・・・・・)


 最後に消えたあの弾はジェスの体内にテレポートしていた。

 もうテレポートする場所も思うように選べなかったため、賭けのようなものだったが吐血しているということはそれなりにうまくいったのかもしれない。

 ひどい頭痛。

 もう何が何だか分からない。自分の脳がどうなっているのかも分からない。

 しかしもう気を失う寸前なのか、全ての事が遠のいていった。


「なるほど・・・・・バレてたみたいだね・・・・・・」


 そう梨菜はこう判断していた。

 触れた、の範囲はもしかしたら体表だけなのではないか、と。体内への攻撃は修復できないのではないか?と。そう判断した。

 銃弾を消して体内に現れるという攻撃は現れるまで相手には触れない。しかし現れると同時に攻撃になる。だから有効だと判断した。

 そして全てをあやつれるのだとしたら傷や怪我でさえも簡単にあやつり、治してしまうのではないか?と思っていたのだが・・・なんとなくあのナイフを抜かない理由を考えてみたのだ。

 そう、体内にまで及んだ怪我は治しにくいのではないか?それがバレないようにあえて刺したままにしているのではないか?そう考えた。

 それは全て憶測であったが概ね当たっていた。

 ジェスの天使細胞は触れたらあやつれるという体表にほとんど位置しており、体内にはそこまで強い天使細胞はなかったのである。だからこそ体内の攻撃は治りにくい。

 今回の銃弾もどこかの内臓を押しのけ、現れた。その傷や中に入った銃弾をを治すのには時間がかかるのである。


(恐らく・・・予想通り・・・このヒントをみんなに伝えないと・・・!)


 そう思った瞬間気を失ってしまう。

 ジェスはそれでも笑っていた。しかし先ほどよりかは余裕がない。いつ目が覚めるかも分からない梨菜を放っておく事はできない。ここでとどめを刺すつもりなのだ。

 ガラスの割れる音が響く。

 梨菜が倒れていた近くの窓から鎖のようなものが飛び出してきた。それが梨菜に巻きつくとそのままその窓の外へ。誰かが2階から梨菜を引き上げていったようだ。


「なるほどねえ」

 

 そう呟きながらも笑っており、2階へとつながる階段へと足をかけていく。

 自分が傷つくのも、死ぬのも怖くはなかった。ただただここにいるのは今までと違い、自分に一撃を加えられる人間が集まっている。

 その事実がジェスに笑みを作らせていた。

少し間があいてしまいました。


読んでいただきありがとうございます。もしよろしければ次回もよろしくお願いします。

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