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元主人公、今は脇役願望。  作者: 花澤文化
終章『再び終わる物語』
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第56話 INVASION③

「少年・・・」


 錬金術師は空を見る。

 そこにいたのは井野宮天十だった。モラルとアンジェが消えたあの爆発の時に姿を見せなくなった井野宮天十。あれから月日が立ち、すでに高校3年生という年齢になっていた。ただ、高校には出ていないのでその実感はあまりない。

 心なしか背は伸び、髪も伸び、体つきもかなり変わっている。どこで何をしていたのかは知らないが間違いなく、強くなってはいるだろう。


「高校生としては失格だがな」


 そう言いながらこの場を一度任せ、火のない場所へと移動を始める。

 死霊使いはいいところで現れた天十に対し、若干納得いかないような顔をしていたが、そのまま錬金術師の後を追い、走り去って行った。





「錬金術師のおっさんにトーテム、久しぶりだな」


 遥か上。

 黒い羽を広げて移動を開始する錬金術師と死霊使いの姿を見ていた。俺がいない間、地球だけでなく、この世界をも守ってくれていたのだろう。

 それに・・・俺の友達のことも気にかけてくれていたのも知っている。

 勝つためではなく、巻き込まれたときに逃げ切れるような技術を教えたことも。最初から戦いに巻き込もうとは思っていなかったことも。


「・・・・・」


 目の前のロボットを睨む。

 そのロボットの後ろから天人が現れた。どうやら先ほど天人を下に吹き飛ばしたことに対し怒っているらしい。それでも俺はひるまない。


「よくも我が妹を!」


 妹。

 恐らく下に吹き飛ばされた天人は妹だったのだろう。この高さから地面に叩きつけられたんだ。死んではいないものの、戦闘不能になっているだろう。

 話によればこの2人は天使の細胞を移植した天人らしいが・・・。

 残った天人は空高く飛び、そして俺を指差す。


「俺の愛を受けろ!」


 倒れてくる高層ビル。

 しかしやはり天使ほどの力は出せないのか俺自身をあやつることはできないらしい。出来るのであればとっくにあやつられているだろう。

 いや、元々ラーエイの愛は人には向かないものだったか。

 この数カ月の間色々と調べてきた知識を探る。

 倒れてくるビルはどうでもいい。そもそも移動が遅く、一歩が狭い地上を歩く人間にならこの手の攻撃、有効かもしれない。

 ただ、空を飛んでいてちょこまかと素早く動ける俺には通用しない。

 すぐにそのビルの範囲から外れる。


「俺の愛はそんな生ぬるいものではない。弾けろ」


 そう言うとビルが爆発、したように見えたが違う。ビルそのものが分解され、その部品1つ1つが破裂したのだ。最初に考えたことは地上の事。

 人間より遠くを見る事ができるその目で地面を見ると、あたりに人はいない。どうやら錬金術師や死霊使いも逃げ切ることができたようだ。

 ならば、考えるのは俺の身の安全だけでいい。

 マントのような羽を自分の体に巻きつけ、体全てを覆う。そして自分にしか聞こえないような小さな声で「『堅』」と呟く。自己暗示に似たそれは確かに効果があったようで全ての部品を弾き続ける。


「な・・・」


 相手の天人の驚く声が聞こえる。

 大方、自分に効果のないものだとばかり思っていたのだろう。自己暗示というのは言霊抜きにしてもそれなりに効果のあるものだ。

 攻撃がやみ、俺はその羽をまた広げる。天使のふわふわで一枚一枚が鳥の羽のようになっている翼と違い、どこか光沢がありグライダーを思わせる形の黒い翼。

 それはまるで悪魔の翼だった。


「俺の愛を受けろ!受けろ!」

「言ってる事が気持ち悪いんだよなんか・・・」


 あの時はグラマラスな天使ラーエイだからそれっぽく見えたものの、こうして気性の荒い男が使うとどうにも馴染まない。

 しかし物による攻撃というのは俺、言霊使いは弱かったりする。言霊は言葉だ。その言葉が聞こえなくともある程度の効果はあるが、その言葉を聞く事ができる生き物という相手の方が一番戦いやすい。

 細かな部品にわけて攻撃されると1つ1つ言霊であやつるのは厳しいものがある。だからこそ強化するのは自分の方、というやり方だったのだ。

 羽を使って天人に急接近。

 声が聞こえる程度まで移動する。咄嗟に相手は耳をふさぐものの、この距離で完璧に音を塞ぎきることは不可能。


「『吹き飛べ』」


 その声を聞いた天人は先ほどの天人のように地面へ落下。

 ものすごい音と共に地面に激突した。

 やはり天使なんかとは比べ物にならない。耳を咄嗟に塞いだということは俺の存在を教えられていたのだろうが、ここに来るとは思わなかったみたいだな。

 俺の目線はロボットへと移動する。


「・・・・・」


 正義ロボ。

 相変わらず忌々しい姿だ。見た当初はずんぐりむっくりといった感じで愛嬌のある姿だと思っていたが、今ではそんな感情なんか湧かない。

 思い出すのはただただ数年前の事件だけだ。


「ルナ・・・」


 思わず呟く。

 そしてそれだけじゃない。もう二度とあんな思いはしたくないと思っていたのに、またしても俺は大事な人を失ってしまった。

 モラル。

 俺たちをかばうために消えてしまった天使。

 どうやらその能力は真苗に移動されたみたいだが、どうにも実感というのが湧かない。地球に戻ればいつものようにモラルがいて、そして志野野辺が笑っていて、委員長がふざける。それを見て真苗が困りながらも笑っている。

 そんな光景がまだあるのだと信じてしまう。


「・・・・・」


 だからこそ俺は脇役がよかったんだ。

 こうして自ら行動することなく、何もしないで風景に溶け込む。今、俺が行っていることを他の人に任せていればこんなこと、考えなくても済んだのに。

 それなのに・・・。

 その立場は、俺じゃなければ嫌だとさえ思ってしまう。今までの思い出は全て俺の中にある。それを簡単に他の人に任せればよかっただなんて言うことはできない。

 ロボットを見る。


「1つ目、撃破する」


 手を握りしめて、拳を作る。

 ロボットを攻撃するのに言霊は必要ない。ただただ力に任せて殴ればいい。それだけで物というのは壊れてしまう。壊すのにはこの悪魔細胞による体だけでいい。

 拳をぶつける直前だった。

 不意に声が下からして、拳を止める。


「あっぶね・・・お前はそそくさと先に行きやがって、いいからはやく降りてこい」


 下で何事か叫んでいるのはこのランドバハドにて鍛冶屋、機械修理など様々なことをするお店を開いている鍛冶師ガノンだった。このランドバハドではとても有名な鍛冶師であり、数年前俺もお世話になった人だった。

 今まで数カ月姿を消している間、俺はランドバハドと地獄にいたのだ。

 ガノンにはこのロボットの解析などを昔頼んでおり、今回もそれについてお願いしていたのだが、何か分かったのだろうか。

 地上に降り、ガノンの前に降り立つ。


「少しは人の話を聞け。あのロボットはな・・・おっと、そこにいるのはトーテムか?」


 少し離れた位置に死霊使いのトーテムと錬金術師がいた。

 久々な姿。

 本当に長い間見ていなかった気がする。


「やあガノン。今日もごついね」

「余計なお世話だな。そこにいるお兄さんは誰だい?」

「この死霊使いの仕事仲間みたいなものさ」


 お互いに自己紹介をしている。

 どうやらガノンはトーテムのことを知っていたらしい。さすがの顔の広さだ。


「それでガノン。あのロボットには何かあるの?」

「トーテム・・・俺には触れないのか・・・」


 一応久々の再開ではあると思うのだが。

 そんなセリフに昔、初めてあったときのような視線をトーテムは向けて来た。


「何を勘違いしているのか分からないけれど、僕たちはこの世界を救うために動いているわけであって君を助けたわけではない。君の友人とやらに関しても戦いが有利に動くなら、と巻き込む気満々だったんだ。君にそうフレンドリーに接される理由はないよ」

「相変わらずだなあ」

「あとトーテムって呼び捨てにするな」


 そう一言呟いて、ガノンの方を見る。

 視界の端ではこんな時によくそんな軽口叩けるな・・・と呆れていた。


「あの正義ロボ、破壊した途端に中にある正の力を噴出し、一瞬にしてこの世界、ランドバハドに充満すると危険な量をまき散らすように出来ている」

「・・・・・でも確かあれは取り込んだ空気から正の力を抽出するんだよね。今直ぐにあのロボット内にそんな正の力があるとは思えないけど?」

「正確にはそういう機能もある、という話だ。正義ロボにはもう1つ機能があり、そちらの方がどちらかといえば主な機能だろうな」


 そう言ってガノンは俺の方を見た。

 俺も知っている。正義ロボの主な機能であり、隠れた機能を。


「操縦者の正の力の吸収、だろ?」


 俺がそのことを告げた。

 あの正義ロボには空気から正の力を吸収するだけでなく、あのロボットの操縦者の発する正の力を吸収する機能まであるのだった。


「それって・・・さっきの天人たちの正の力が吸われ続けてたってこと・・・?」


 驚いたトーテムの質問にガノンは答える。


「ああ、天使じゃないにしろ、あそこまで手ごたえがない理由はそれだろうな。天使細胞の力の源、正の力を吸われ続けていたからだろう」

「でも、正の力は天使からしてみれば活力のようなものだよ。それがなければ弱るだけではなく、死んでしまう。それは天使細胞を移植したあの天人たちだって同じことだよ」


 トーテムはこう言いたいのだ。

 それではまるで負けるために戦場に出ているようではないか、と。正の力を吸われ続けているのを知っていて、戦いを挑むということはそういうことだ。

 そこで今まで黙っていた錬金術師が口を開く。


「それか、その機能自体をあの天人を知らなかった、ということかもしれないな」


 一番知りたくなかった事実。

 しかし、あのジェスという天使はそれぐらいやりかねないというのが本音だった。同志である天使をあっさり殺したジェスは。


「だからこそあえて天使細胞を移植したのかもしれない。それこそ多くの正の力を発するように」


 ここにいる一同が目をそらして、下を向く。

 そしてゆっくりと気を失っている天人たちを見た。


「ま、とにかく、そういうことだ。あれを破壊するのは駄目だな」

「でも、だからといってあのままにしておいたら24時間以内に充満してしまうんじゃないの?」

「そうだな」


 ガノンはあっさりと頷いた。


「だから、あのロボットをここに置かれた時点でこちらの圧倒的不利が決まっていたんだ」

「すでに失敗の可能性がないように動いていたのか・・・」


 錬金術師が驚愕する。

 あのジェスという天使、あまり目的に縛られないように見えたが。

 どちらかといえば、目的を達成するための過程を楽しむタイプであり、目的が達成できなくてもそのハラハラ感を味わっているといえばいいのだろうか。

 だからこそここまで露骨な策を用意するとは思わなかった。いや、そんな策を前に俺たちがどういう行動をとるのか、それを楽しんでいるのかもしれないが。


「・・・・少年、あまり取り乱さないな」

「え?」


 錬金術師のおっさんに話しかけられる。


「・・・・・その姿、やはりというかなんというかすでに人間ではなかったんだな」

「直球だなあ、まあもう気にしているような段階でもないけどさ」


 とはいえ詳しく話している時間もないだろう。

 おっさんもそれを分かっていたのかそれ以上追及してくることもなかった。ただ・・・。


「少年、変なことは考えるなよ」

「変なことって?」

「・・・・・・・・・それはお前が一番分かっているはずだ」


 そう告げると話を戻す。

 分かっている。変なことというのは、ルナと同じ道を辿るということのことだろう。

 分かっている。

 分かってはいるのだ。


「で、あの機械はどうやったら止めることができるの?」

「そうだなあ、それこそ俺ら鍛冶屋が解析うんぬんをしなければ分からないことだろうなあ。24時間以内に出来るかは不安だが、できるだけやってみよう」

「ということは、俺たちは・・・」


 俺はトーテムと錬金術師のおっさんを見る。

 俺たちはその間、他の世界へと行けばいいわけか。そこでロボットの活動を止めれば・・・いや、天人を倒したとしてもそのロボットを壊せず放っておくしかないということはそれも意味がない・・・?

 なら・・・。


「俺たちはジェスを止めればいいのか」

「そういうことになるな。恐らくジェスは地球の方にいるだろう」


 全ての元凶。

 あいつを止めなければ、あのロボットを止める術を見つけて止めたとしても次なる侵略が来るかもしれない。その前に元凶を止めなければならない。

 それに対しては反対がない。

 そしてあいつは間違いなく、地球に来る。それこそ、俺の友人を中心とした地域を狙って来るに違いない。殺し損ねた俺を狙ってくる・・・そう思う。


「では一度地球に戻ろう」


 こうして俺は久々に地球に戻ることとなった。

 その手段はもちろん、テレポート。真苗のテレポートは初めてのはずなのにどこか懐かしい、そんな気持ちにさせる。モラルが最後に残してくれた希望。

 俺はそのためにも必ず世界を救わなければならない。

 今度が最後だ。

 三度目はない。

 数年前と同じように、脇役ではいられなくなってしまったけれど。


「2回目で、そして最後だ」

最近そこまで間があかずに投稿できていますが、明日は投稿できないかもしれません。


読んでいただきありがとうございます。

次回ももしよければよろしくお願いします。

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