第54話 INVASION
ランドバハド。
ここには~使いと呼ばれるジョブがあり、それぞれのジョブが助け合いながら生きている。井野宮天十の言霊使いやトーテムの死霊使いなどはこちら側出身のジョブということになる。
そして、言霊使いがランドバハド側ということは言霊使いの元となっている地獄、獄界と言われる場所もランドバハド側に位置している。天使がアークラセル側に位置しているのとは逆なわけだ。
ランドバハドは技術がかなり進歩しており、とても近代的だ。それこそ地球の日本の都市以上には近代的で未来チックでSFだった。
あたり一面が高層ビルで囲まれており、空には空飛ぶ車が走る道路がデータによって作られている。
そんなランドバハドに一台の一機のロボットが降り立った。
『・・・・・・』
ランドバハド中央広場にある大きな公園。
近代的とはいえ、子供の遊び場をなくしてはいけないと判断したこの国を治める者が作ったなんでもありの公園だ。とても広く、自然に溢れており、遊具やボール遊び出来るぐらいのグラウンドなどなどがあり、アナログも大事にしている国だった。
その公園に降り立ったのだ。
幸いにして平日の午前。子供たちはみんな学校に行っているため、公園には誰もいない。
『・・・・・』
ロボットは何も言わない。
しゅっとした形ではなく体、腕、頭などが大きく、丸く、ずんぐりむっくりとした形だった。ただ、目立つものとしてその胴体の胸の部分には大きく、『正』と書いていた。
見る者が見れば一瞬で気付いたであろう。数年前、この世界を壊そうと、正義で溢れる世界にしようと画策したあの事件。1人の悪魔の子が境界に身を投げ入れることで救われたその事件を。
その時使われた『正義軍』という団体のロボットと同じ構造で、同じ見た目だったのだ。
『フシュー・・・・・・』
空気を吐き出す。
そこまで大きくないロボットといえどもさすがに空を飛ぶ車の運転手はその異様さに気付く。
なんなのだ、あれは、と。
ロボットは背中に大きなパイプをつけており、そこから何かがひっきりなしに溢れだしているのである。無色ではあるものの煙に似たその何かを目に捉えることは容易だった。
「なんだあれは・・・」
空飛ぶ車に乗った運転手がそう呟いた。
しかしそれもまた見るモノが見たら気付いたであろう。圧縮され、視覚化された正の力であるということに。次の瞬間、サイレンのような音があたりに鳴り響く。
『緊急事態発生、緊急事態発生、道路など全てに道を表示します。その通りに進み避難してください。繰り返します・・・・・・・・・』
その警告の通り空飛ぶ車に乗っていた運転手のデータで出来た道に矢印が表示される。それにしたがって移動しろということだろう。
運転手はそれに従い移動を始める。
「なんだか数年前の事件を思い出すなあ・・・」
嫌な予感を感じながら運転手は走り去っていった。
そして時を同じくして、錬金術師アークセルフと死霊使いトーテムがランドバハドに到着した。あたり一面が高層ビルで満たされている中、異様なものがそびえたっていた。
まわりの超巨大ビルよりも少し小さいぐらいのロボットがそこにいた。
「あの正の文字・・・あの天使やはり正義軍から援助を得ているのか?」
「たぶん違うでしょ。無理やり奪ったというのが正しいだろうね。天使と正義軍なら実力差半端ないだろうし、天使が援助を受ける必要もないしね」
ただ、とトーテムが区切る。
「正義軍の正の力に対する執着や研究は異常だ。そこに目をつけたんだろうね」
正の力を世界に充満させるためにはそのための道具が必要だ。天使がわざわざ現地に赴いて正の力を発し続けてもいいが、それなりの時間と、一度それをしたら次に出来るまで時間がかかってしまうという点が問題だった。
それを解決したのがあのロボット。正義ロボだ。
世界の空気を取り込み、不要なものを排除しつつ、正の力だけを取り除きそれを圧縮して放出する。負の力のみを排除し、正の力を排出することによって世界を正の力で充満させるというものだった。
「いくぞ、死霊使い」
「僕の能力、機械相手だとあんまり意味ないんだけどなあ」
「なら安心しろ」
錬金術師が正義ロボの少し隣を指差す。
死霊使いは目をこらすとそこには何かがいる。
「あれは・・・」
「白い羽。恐らくジェスとかいう天使の部下かなんかだろうな」
天使まではいかなくとも、天界に住んでいる人。天人。白い羽は天使のと比べると貧相で輝きも少ない。頭に輪もない。しかし人間より明らかに強いはずだ。
天使ほどではないにしろ、天界に住んでいる以上その体は天使細胞で構築されているからである。
「油断は出来ないな」
それと同時に錬金術師は手を練成する。計6本になった腕それぞれに銃を持ち、相手に狙いを定める。錬金術師といえども技術までは練成できない。
ここからは自分の技量次第のため、慎重に行わなければならないのである。
「この距離からその拳銃みたいなので届くの?」
「中身は実弾ではないし、この銃も俺の想像で出来ている。元よりこの世界の常識は通用しない」
そして発砲する。
6つの銃からそれぞれ弾が飛び出し、相手に向かって飛んでいく。天人はそれを察知したのか咄嗟に体を動かし、弾を6つともかわした。いや・・・。
「あの動きだとかわせて3発。2人いるうちの1人は防御壁のようなものを出す能力なのか?」
何か薄い膜みたいなものが全体的にあのロボットを覆っていると分かる。
そこまで強い壁ではなく、錬金術師の銃弾で破れる程度の強度らしい。先ほどは天人を狙って撃ったため、ロボット自体に危害はないと判断されただけかもしれないが。
(あれぐらいの大きなロボットを全て覆うためには薄くしなければ無理なのかもしれないな)
錬金術師はそう考える。
ということはやはり天使より大幅に実力不足ということなのだろう。ジェス本人が出てこないのはなぜか出て来れない理由があるのか、舐められているのか、それともあえて出て来ないのか。
目的が分かっているにも関わらずどこか謎が多い天使だ。
「しかしやはり相手の翼が邪魔だな」
6本の腕で標準を合わせながら錬金術師が呟く。
地上からでは空にいる天人はとても小さく見える。あちらもなんだか作戦会議しているみたいだが、その声はここまで届かない。
こちらの声も恐らく聞こえていないと思われる。聞かれてまずいことを話しているわけではないが。
「君、空飛べないの?ほら、あの言霊使いだって僕と会った時、空飛んでたよ。飛ぶと言うよりは大きなジャンプだったけど。錬金術師と言霊使いって似てるんじゃないの」
「全く似てはいない。形だけの翼なら俺も作れるからな。でも、飛び方が分からないんだ」
言霊使いは有形、無形問わず現実にすることが出来る。もちろんその声が届かなければ意味がないのだが、ほとんど制限がない。
だからこそトーテムと会ったときも翼を作るのではなく、飛ぶという行為そのものを作り出していたのだ。対する錬金術師は違う。
有形的なものしか作れないため、どうしても翼を作る必要がある。
「しかし生憎俺は翼なんて使ったことないからな。この銃だって使い方が分からなければただのガラクタだろう。案外不便なんだ、俺の力は」
「ってことはやっぱり僕がやらなきゃいけないんだね・・・」
すごく嫌そうな顔をしながら何か準備をする死霊使い。
霊を使うとどうにも疲れてしまうらしく、なるべくなら多数の霊を使いたくないのだそうだ。とはいえそんなこと言っていられる場面でもない。
目の前で行われているのは地味であるものの立派な侵略なのだ。
「まあ、使わなくてもいいかどうか一応試してやるよ」
そう呟くとまたもや6つの腕で銃器を扱い、発砲する。今回はバズーカのようなものまであり、その中からミサイルも飛び出している。
そして狙いは天人ではなく、ロボットそのものだった。
天人が気付く。
片方の天人がロボットの前まで移動し、手を伸ばす。恐らくあいつがこのロボットに防御壁を張っている天人なのだろう。それでも煙がもくもくと出ているのは一部分だけ防御壁に穴をあけているのかもしれない。そこに錬金術師が気付いた。
(狙うならあそこか・・・?いや、あまりにも遠すぎるし、高すぎる。空を飛べる奴はこっちにいないし、死霊使いの霊も物には効きにくい。あの天人を倒すしか手段はないのか)
そう考えている間に発射した全ての銃弾が防御壁にぶつかり、消えていく。やはり先ほどとは強度が違う。恐らくあのロボットに危害が加わりそうになると強度を増すようにしているらしい。
なぜそんな回りくどいことをしているのか。恐らく、あの正の力が充満するまで守るためだろう。
(正の力がこの世界に危険になるぐらい充満するまで約24時間。その間ロボットをずっと守る必要があるから無駄な消費を避けているのかもしれない)
とはいえ、相手は天使細胞の使い手。
その気になればフルで24時間守り切る事ができるのかもしれない。
(だからこそ舐められている今がチャンスだ)
そう判断する。
なにより幸運なのはあのロボット自身が攻撃してくる気配がないことだろうか。攻撃機能が備わっていなければいいのだが、それもまずないだろう。
だから今のうちに天人を倒し、無防備なロボットを壊す。それが目標だ。
「出来たよ」
死霊使いトーテムのまわりにはなにやら不気味な魔法陣や蝋燭、それに藁人形みたいなものまである。何に使ったのかは分からないが、とりあえず何かが終わったらしい。
「僕たちが空を飛べないのなら相手に降りてもらうしかないよね」
そう言った瞬間から、天人がじわじわと降りて来ている。
何か行われた気配はない。ただただ、天人自らゆっくりと地上に降りて来ているのだ。どうやら天人の意思ではなく、何かのせいで空を飛べなくなっているらしい。
「ほら、あれあるでしょ?何か肩が重い、誰かに手が置かれているみたいだっていう心霊現象。あれの強化版みたいなものだよ。それであの羽自身に負荷をかけているのさ」
錬金術師はその説明をきき、絶対くらいたくない攻撃だな、と思った。
どうにもこの死霊使いの攻撃、何度見ても慣れない。
よく目をこらせば、霊感のない人間でも見えるほど濃い何かが天人の羽にまとわりついている。それを見て錬金術師は身震いした。
相変わらず気味の悪い奴だ。
昔の今も死霊使いへの評価は変わらない。
「腕6本のおっさんの方が気持ち悪いと思うけどね」
その反応に対し、死霊使いがそう返す。
確かになあ、と錬金術師が頭をかいたところで、
「お前か俺の羽何かをしたのは・・・!」
天人が怒りも隠さずそう話しかけてくる。
地上に降りて来て、同じ立場。すでに相手の場所による優位は失われている。それに相手は後ろのロボットを守りながらの戦闘だ。すでに場の優位はこちら側に傾いたと確信した。
「それでも勝つのが私たちだよ」
しかしもう1人の天人がそういう。
ここまで来てもなお、勝つ自信があるらしい。恐らく男の方が実戦担当で、女の方が防御壁を作る側なのだろう。バトルでの負担は明らかに男の方へ寄るはずだ。
「もう1人多く配置してもよかったんじゃないのか、お前らの頭は」
「ジェス様を馬鹿にするんじゃねぇよ、おっさん。ジェス様は俺たちを信じたからこそ2人にしているんだ。その信頼を裏切るわけにはいかない」
「その通り。私たちはここを死んでも守らないといけないから」
少女の天人がそう呟くと同時2人の翼が光り出す。
輪がないため、分かりにくいがあれは天使化のようなものなのだろう。すなわち、臨戦態勢ということだ。錬金術師、死霊使いも同じように構える。
ここでランドバハドを守るための戦いが始まった。
他の小説と同時進行していますが、しばらくの間これだけ書いていこうかなと思っております。
ではまた次回。