第51話 CONFERENCE
爆発事故があった。
その爆発事故はとても不思議で奇怪だった。とある学校の下、地面部分にその爆発でえぐれた場所があるというのにその上に建っている学校は無傷だったというのだ。一切の傷がついておらず、まるで爆発がそこであった後に学校が再び戻って来たような、再び建ったような感じだ。
それだけでも不思議だというのに、爆発の理由が分からないのだ。いくら探しても爆発物の証拠もない。まるで異能である。
さらに肝心の死傷者であるが、死人は一切出なかった。重傷人は出たものの、一命をとりとめたそうだ。あれだけの大きな爆発がありながら結果はそれで済んでいる。どういうことなのか調査中ではあるが、とてつもない時間がかかりそうだと発表していた。
しかし表に出ない情報があった。
表に出ず、一定の人数の人にしか分からないこと。
それは。
死んだ天使、2人。
○
「ふむ、どういうわけか少年はいないみたいだな」
梨菜、志野野辺、木野白の前で偉そうに椅子にだるそうにもたれかかるやつれた刑事のような風貌の男。場所はとあるカフェだ。3人は目の前に座る大人に対してあやしいという視線を投げかけていた。
「なんだ俺を信用できないのか?」
「できないできる以前に・・・今の話を聞く限り私のことストーカーしてたのおじさんってことですよね・・・?それで信用しろと言うのも難しいと思うんですが」
ばっさりと言いにくいことを言えるのは当事者だからか。
どこかのほほんとした印象を受ける梨菜ではあるがこれでも暗き蝙蝠の一員である。それ以前に元々そういう性格の可能性もあるのだが。
「それにな・・・」
木野白が静かに口を開く。
「目の前にいるあなたが錬金術師だなどと・・・信用する方が難しいでしょう」
少し低めの声で木野白が言う。
敬語を使っているもののどこか警戒しているらしく、その言葉は少し刺々しかった。しかし目の前の錬金術師は「そうかそうか、そりゃそうだ」とあくまで落ち着きながらうんうん頷く。
「まあ、1つ1つ説明してやる。その前にお前らおじさんとか敬語とかはやめてくれ。苦手なんだ。俺には鈴山アークセルフという名前が・・・」
「ぶっ」
3人のうちだれか。
それとも3人ともかは分からないが、誰かが噴き出したような音を出す。3人は静かに・・・。
(す、鈴山アークセルフ・・・?)
(な、なんなんでしょうね・・・。なんというか最近流行りのキラキラネームというやつでしょうか)
(ま、なんにせよ。やはりあの年齢ぐらいになるときついものがあるな)
「お前ら好き勝手言ってるが・・・なんというかあの少年の友人と言うだけはあるな。ほんと」
錬金術師最高地位を持つアークセルフは静かにテーブルの上にあったコーヒーに口をつけた。
「まずは何を説明しようか・・・そうだな。俺たちの世界アークラセルについて話そうか」
3人を順番に見る。
「待ってくれ錬金術師」
木野白がそこでストップをかけた。この3人の中で頭がいいのは間違いなく木野白だ。残る2人のためにもわかりやすいように疑問をなげかけていくつもりなのあろう。
「なんだ、暗き蝙蝠リーダーよ」
「あなたがその情報をどこで得たのかは知らないが、その名前はあまり使わないでもらえると助かる。それで、だ。あなたの世界・・・とはどういうことだ」
他2人もうんうん頷く。
「ここは地球という世界だ。それは分かるな?でもこの世には他に2つの世界がある。そのうちの1つがアークラセルだ。錬金術師や霊媒師など職業の後ろに師という言葉がつくものだけで構成されている。簡単にいえば異世界というやつだな」
そう言って錬金術師は手を前に出す。
「《花》」
そう言うとその錬金術師の手から花が生み出される。
「すごい手品だな」
わかっているのかいないのか志野野辺はそう呟いた。
「これが錬金術師。これでもまた信用できないというのなら後にしてくれ。後でお前たちが言ったものを全て生み出してみせよう。だからとりあえず今は信用してくれ」
そうした方が話は進みやすい、と錬金術師は言った。
3人は頷かなかったものの否定もしなかった。とりあえずは認めるということだろう。
「そしてもう1つ。ランドバハドという世界がある。そこは職業の後ろに使い、だとか遣いがつくものたちで構成されている世界だ。お前たちの友人の少年もこちら側だな」
「あ、あの・・・」
黙っていた梨菜が口を開く。
「て、天十さん・・・井野宮さんはなんの力を持っていたんですか?」
「・・・・・なるほどな。あの少年誰にも話していなかったのか。あいつの力は言霊使い。口にした言葉が全て現実になるというものだ。そんなありえない力だからこそそこまで燃費はよくないがな」
なんでも現実にはならない。
人間には容量と言うものがありその範囲を超えてしまう力を使うとその人物自体が死んでしまう。
「言霊使いについては本人から詳しくきいたほうがいいだろうな。それでだな。その3つの世界には世界の狭間という特殊な空間が間にあることによって均衡を保てているし、お互いを認識することもなく過ごせている。すなわち世界の調整機能だな」
「それが・・・なんだというのだ?」
「お前たちも見た事があるかもしれないが、天使というやつがいてな。3つの世界に共通して繋がっている天界に住んでいるやつらだ」
志野野辺と木野白は思い出す。
確かにそのようなやつがいた、と。銀色の闇で戦ったそれぞれの相手を思い出す。
「そいつらの1人、ジェスという天使がやろうとしていることはその世界の狭間を正の力、天使の力で満たそうということなんだ」
「そうなると・・・どうなるんですか・・・?」
「幸せになる」
はあ?と間抜けな顔をさらす3人。
「まあ、最後まで聞け。どんなことであろうと幸せに感じてしまうんだ。ガムを踏んでもラッキー今日の不運はこの程度で済んだ。車に轢かれて病院に運ばれても死なないだけラッキーだった。3人が轢かれそのうちの1人が死んで残り2人が助かってもラッキー1人死んだおかげで助かった。そう言いながら常に笑い合う世界。それがあいつの目指すところだ」
今の話を聞いて3人は身震いする。
全てを幸せと曲解する世界。そんな恐ろしいことにはなりたくないとだれもが思うだろう。
「そういう世界にする理由は天使が住みやすいからだ。それだけ。あいつにとって居心地のいい世界にしたいだけのために世界の人を犠牲にするつもりなのだ」
「なるほどわかった。幸せとは人それぞれだが、それは普通じゃない。それぐらいなら私たちにも分かる。だが、なぜそのことを私たちに話す?」
木野白が不思議そうに問う。
「別にお前たちに伝えたかった理由はなんとなく、だ。ただ、このままだと間違いなく井野宮天十は死ぬだろうな」
そのセリフを聞いた3人は目を見開き、その錬金術師を見る。
「あいつが今どこで何をしているのか知っているのか・・・?」
志野野辺が錬金術師を睨む。
「知りはしない。ただ、検討はつく」
そう言ってまた順番に3人を見る。
あの爆発から2週間近くが経とうとしている。学校はあの事件が起こってから1週間後には再び再開されていた。ただし、全てが元通りというわけではない。
傷を負った学生は今も病院だし、それに・・・。
井野宮天十とモーラ・ルーレトの消息不明。それが大きかった。
「井野宮天十はすでに1人で動いているはずだ。その計画を中止するためにな。なんであいつが?なんて言わせないぞ。あいつはすでに能力で世界を救っている。その時問題になったのも世界の狭間に正の力が充満したことだったんだ」
錬金術師は文献からあさった事実を淡々と話す。
「その時は世界の狭間に負の力を投げ入れることによってなんとか中和した」
「そ、そんなことが・・・」
「その時は天界の逆にある地獄。そこから悪魔を1人世界の狭間に投げ入れたんだ。もちろん世界の狭間には何もない。ただ負の力を放出し続けるだけの人形になる」
それが悪魔ルナ。
今なお生き続け、負の力を放出している存在。
「あのときは正義軍とかいうわけわからない連中が相手だったらしいが、天使は別格だ。あいつは戦っている最中に死ぬか、最終的に自らを狭間へ投げ入れるだろう。悪魔の力言霊を使って」
「な、なぜ井野宮くんはそこまでして・・・」
「ただ単に前の再来のような事件だから・・・という理由もあるが、最大の理由はモーラ・ルーレトの死だろうな。復讐だよ、簡単にいえば」
その言葉に驚いたのは後半ではない。
モーラ・ルーレトの死の部分だ。
「あいつは天使だ。最後の最後お前たちを逃がした後、死んだのさ。綺麗にな」
「そ、そんな・・・」
「俺たちのクラスメイトだぞ・・・?」
あまりにも身近なところでの出来ごとに唖然とする。
「受け入れるのに時間がかかるのは分かるが、話はここで終わりじゃない」
「その通り。むしろここからが本題だ」
きいたことのある高めの声。
錬金術師のおじさんの後ろには金髪の少年が立っていた。
「遅いぞ、死霊使い」
「情報のほとんどは僕が持ってきてるんだ、それぐらい甘く見てほしいなおじさん」
3人が言葉を発する前に死霊使いのトーテムは、
「お、きたきた」
と笑顔で言う。
カロンコロンというドアを開く音。そこにいたのは休日なのに制服を来た・・・。
「あ、みんな」
真苗未央だった。
「な、なぜ君がここに・・・?」
「簡単だよ」
木野白の質問にトーテムが嬉しそうに答える。
「モーラ・ルーレトは死ぬ間際に君たちをテレポートさせただけではなく、自らの能力自体もテレポートさせたんだ。自分の能力の価値には気付いていたんだろうね。この先、何かをするためには必ず必要になる、と。素晴らしい判断だよ」
そこで区切り、
「そのテレポート先が君だ、真苗未央。君が空間転移の天使の生まれ変わりだよ」
なんのことか分かっていない真苗は小さく首をかしげてから気まずそうに少しだけ笑うのであった。
昨日に引き続きです。
読んでいただければ幸いです。
ではまた次回。