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元主人公、今は脇役願望。  作者: 花澤文化
第7章『天使降臨』
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第50話 NEXT

 どうする。

 俺はそう思った。この状況をどう打開するか。そういった問いだったはずなのに、今では今この瞬間の戦いをどうするか、どうやって相殺するか、などという狭い意味に変わっていった。そのことも自覚している。だが、どうすることもできない。天使とただの言霊遣いでは容量も、強さも、スタミナも違いすぎる。俺はただの人間なのだ。


 そう今ではな。


 何かの声が聞こえたような気がする。今では・・・。心の奥底に響く言葉。しかしその言葉の正体を俺は知っている。確か、最初にこいつら天使と戦ったときも言われたのだったか・・・。悪魔のレプリカと。偽物の悪魔だと。そう、今の状態ではそうなのだ。今では人間だから、そう言われても仕方なかった。

 声・・・その主は恐らく負の力。悪魔の力。この声に身を任せればきっと俺はレプリカじゃなくなる。こいつら天使にも互角に戦える。しかし・・・その時俺は俺でいられるのか。

 そしてそれを呼び覚ました結果どうなるのか。天使が正なのだとしたらそれとは真逆の負の力。その力がこの世界のどのような影響を及ぼすのか見当もつかない。

 もう、何も分からない・・・けど・・・。


「天十!」

 モラルの大声により、気付く。

 目の前に氷の柱が迫って来ていることに。歯を思いっきり噛みながら体を大きくのけ反らせる。ギリギリだ。モラルに教えてもらわなければ確実に串刺しだっただろう。

「すまん!」

 そう言って一言謝ってから俺も氷柱を作り出す。

 それぞれが相殺し合う。氷柱と氷柱がぶつかりあい、とんでもない音が響く。ただ、削られた氷柱は力を失い地面に落ちる前に消えてしまった。

 これらのものは全て幻想。全て言霊によって創造されたものだ。

「戦いの最中によそ見とは・・・・随分と余裕じゃねぇか」

 苛立たしげにアンジェが俺を睨む。

 別によそ見をしていたわけではないが・・・集中していなかったのは事実。この命がかかっているような戦いで俺はいったい何を考えていたのか。もう何も思い出せない。

 俺は手を前に出す。

「《溶火マグマリアル》」

 そう呟くと地面からマグマが噴き出す。その勢いはだんだん強くなり・・・アンジェとモカを覆う・・・前に。アンジェがそれらを全て凍らせた。マグマを凍らせた、というよりはマグマを発動させた言霊自体を凍らせたといった印象だ。

 俺はまた舌打ちする。これでも駄目なのか。

「アンジェ・・・分かっていますね」

「ああ・・・昔のあいつならばマグマを生み出すことすらできなかったはずだ・・・。あいつの中で確実に何かが起こっている・・・でも」

 アンジェは羽をはばたかせて、一気に距離を縮める。

 そして悪意に満ちた笑顔を見せて・・・。

「勝つのは俺だ!」

 そう、叫びながらの殴打。

 力任せによる殴り合い・・・かと思ったがこちらが打ち込む隙間がない。くそ、このままではいいように殴られているだけではないか。適当に手を伸ばすものの、それは相手に届かない。

 さすがに無理だと判断したのかモラルが空間転移で少し後ろに転移させてくれた。攻撃の手が届かなくなった今を狙って体勢を立て直す。

「おい、お前どういうことだ」

 しかしそんな隙を狙うまでもなく、アンジェは攻撃してこない。

「どういうこともなにも、タッグ戦だろうが。お前のパートナーが何をしてくるのか分からないが、それはすでに了承していることのはずだ」

 俺の懸念はたくさんあるが、そのうちの1つがモカの能力だった。あいつはさっきから何もして来ていない。能力を発動せずアンジェの手助けを物理的にしているだけだ。

 それが発動して2人で襲いかかられた時、俺は生きていられるだろうか。

 しかしそんな思考を中断せざるを得なくなるほどアンジェは大声で叫んだ。

「天使の殴打だぞ・・・!お前は人間のはずだ!さっきはある程度流されていたが今の殴り合いは確実に一発一発がヒットしていた!なんでだ!なんでお前は骨折1つ・・・痣1つ出来ていないんだ!」

 そう言われて気付く自分の体の異変。

 あいつは痣1つとは言っていたものの、あちらこちらに殴られた跡はあるし、痛い。できるならこのまま病院に行ってしまいたいぐらいだ。でも・・・どこもそれ以上傷つけられていなかった。

(あの様子じゃ手加減をしたわけでもない・・・だとするならばおかしいのは俺の体か・・・!)

 何が起きたのか分からないが、俺の体はどうやら人間から少しずつ離れて行ってしまっているらしい。

 その様子にアンジェが笑う。

「くくく・・・ならこれで人外同士の戦いというわけだよなあ。モカ」

「はい」

「本格的に参戦しろ」

「いいのですか、アンジェが1人でやりたがるかと思っていましたが」

「いい、全力を出せ」

 言われてモカは静かに目を開き・・・。

「了解しました」

 そう呟いた。

 まずい。何かが来る。そう思った瞬間また俺の奥底から何かの声が響く。


 使え。


 そう聞こえる。低い低い声だ。そして聞こえてくる位置もまた低い。下の方からきこえてくる声。それはまさに地獄からの声だった。


 使え。悪魔の力を解放しろ。


 ひどく頭が痛い。

 思わず顔をしかめる。だが声は聞こえ続けている。


 拷問道具としての本来の力を取り戻せ。


 そんな声に対して俺は自然と語りかけてしまっていた。

 その力を手に入れれば俺はこの状況を打開することができるのか。モラルを守り切ることが出来るのか。それならば・・・俺は・・・。


 手を伸ばせ。掴め。その手にこの力を。


 手を伸ばす。

 戦闘中だったはずだが、まわりの声は聞こえないし、まわりは見えない。でも俺は死んでいない。攻撃を受けているわけではないようだ。ということはこの空間にいる間は外の時間は止まっているということなのだろうか。

 そんな分析ももうどうでもいい。ここで勝たなければならない。俺は・・・俺はモラルを守らなければならないんだ。絶対に。

 手を伸ばす。

 もう少しもう少しで届くんだ。俺の指が何かに触れる・・・その直前。ズドンという重みを体中に感じることにより、無理やり元の世界に戻されてしまった。

「な・・・なんだ・・・」

 重い。重力が強くなったみたいだ。重力が体を潰そうとしている。そうとしか思えない力に俺は思わず床につっぷす。天使たちも俺ほどではないにしろ、片膝をついて腹立たしげに叫んだ。

「この感じ・・・!ジェスか・・・!」

 ジェス・・・?聞き慣れない言葉だが・・・。名前か何かだろうか。

 しかし天使が知っているという事はその仲間・・・なんだろうがなぜ一緒に天使までもが地面にはりつけられているのだろうか。仲間割れ・・・とかか?

「うん、そうだよ。そんなに睨まないでよ、アンジェ」

 天使たちと俺たちのちょうど中間に現れたジェスという人物。しかし一目でこいつは天使だと分かる。茶髪に白い服装、あからさまだ。しかし何が決定的に違うかといえばそのジェスは男だった。

 天使はどうも女の人しかいないものだと思っていたがそうではないらしい。

 そもそも俺は天使に詳しいわけでもない、例外みたいなものが存在していてもしょうがないだろうとは思うのだが、どうにもそれが気になってしょうがない。

 他と同じではない要素・・・それはどうしても強者だと想定してしまう。

「君とははじめましてだね、井野宮天十くん」

「・・・・・お前は・・・」

 誰だ、と尋ねるまでもないのだろう。

 モラルを狙っている天使の1人に違いない。そして明らかに他の天使よりも上だ。他の天使がこの重みから逃れられないところを見ると確実に。

「ジェスという。よろしく」

 男の天使、ジェスは笑顔で手を差し出してくる。

 だが今俺は重力によって手足を動かすことすらできない。こいつ皮肉のつもりか・・・?

「ああ、ごめん。気を悪くしないで。この重力はすぐに解くから。安心してくれていいよ」

 そしてまた笑う。どうにも天使らしくない、というか目の前のアンジェぐらいしかまともに戦っていないからてっきり他のやつも好戦的だとばかり思っていたのだが。

 いや、好戦的ではないからといっても油断はできないだろう。

「今日は君たちに僕の思惑、すなわち天使の思惑を教えようと思って来たんだ。てっきり歓迎されるかと思っていたけどどうやらそうではないみたいだね」

 思惑。

 すなわち天使の目的のことだろう。それは確かに知っておきたい。こいつが嘘を吐くかもしれないが・・・どうにもそういう気配がない、というか嘘を吐きにわざわざここまで来たわけではないと考える。それすらも作戦の1つかもしれない線はあるが。

「モーラ・ルーレトが僕たちに必要だったのは嘘じゃない。それこそ躍起になってまでこちら側に引き入れる価値のある天使だ。アンジェやモカが頑張ってくれたことに意味はあるんだよ。そこだけはどうか分かって欲しい」

 そうやって頭を軽く下げる。

 だが、重力が強まり、身動きが取れない今そうやって謝られても馬鹿にされているとしか思えない。それはアンジェたちも同じだったらしくものすごい勢いで睨んでいる。

「こうやって拘束して・・・謝る気ゼロみたいだなジェス・・・」

 アンジェはすでに怒りが抑えきれないみたいだ。

 戦いの邪魔をされた挙句、こうして屈辱的なことをされればそれは怒るというものだ。

「頭は下げたけれど謝った覚えはないなあ。それで話を戻そう」

 まだ何か言いたげなアンジェに背を向け、こちらのほうを振り向く。

「モーラ・ルーレトの入手は前段階、すなわち準備の段階だったんだ。我々が目指すものはその先にある。そういえば君も思ったことはないかい、敵の目的の主なものって大体がさあ・・・」

 そこでこちらを見る。

 重みで辛く、声も出しにくい中俺はなんとかかすれながらも言葉を発した。

「世界征服・・・世界に対するプラスの力・・・正の力を『解放』する天使による世界・・・」

 天使の力を正の力と呼ぶのは恐らく俺ぐらいだろう。ちゃんとした固有名詞があったり、天使たちは天使化なんて言葉を使っていたりするし。でも分かりやすさの上で正の力というのはいい表現だと思う。

 それに対する負の力。世界はその2つの力が均衡しているからこそ安定しているのだ。

 そこを正の力だらけにするということは天使にとって住みやすい世界になるということだ。具体的に他の人にどんな影響が起こるのかは分からないが・・・。

「正の力・・・か・・・」

 小さく呟く。

 前、俺は一度世界を救った時、そのときも正義がどうとか言っていたやつと戦ったっけ・・・。思えばあの時もすでに世界は正の力に溢れていたのかもしれない。

 さりげなく先ほどセリフに『解放』という言霊をのせてみたのだが、この重みはとれない。俺の言霊が通用しないレベルということだ。

「それが目的。でもこの世界には天界、地獄、そして他にも3つの世界があるのを知ってる?まず1つはこの地球。そしてもう1つは僕たち天使と密接に関係している世界、そして最後が・・・井野宮くん。君が以前救った世界だ」

「な・・・」

 スケールが違いすぎる。

 地球だけかと思っていた・・・でも違う、こいつはそれ以上のことをしでかす気だ。

「その世界間の移動のためにモーラ・ルーレトの空間転移が必要だったんだ」

「・・・・・・お前・・・・なぜそんなことを俺に話す・・・」

 目的をばらして・・・まるで止めてほしがっているようじゃないか。

「なんでだろうね・・・うーん、まあ、理由が思いついたときに言うよ」

 そう断言して少し浮かぶ。

「僕の話を聞いてくれたお礼だ。君たちにプレゼントをあげよう。もちろん頑張ってくれたモカ、アンジェにもだ」

 そう言って浮かんだジェスは手を前に出し、力をためる。

 掌に光が収束していた。嫌な予感がする・・・とてつもない正の力・・・。

「僕は万物をあやつる天使。これぐらい造作もないよ」

 笑顔でそういう。

 俺は何をするつもりか分からなかったが、アンジェとモカ、モラルは気付いたみたいだ。

「くっ・・・!こいつこの俺たちと校舎ごとここらへんの地を消すつもりだ!」

「は・・・?お、おかしいだろ・・・だってここは校舎じゃなくてアンジェやモカが用意した空間のはずだろう・・・?」

「万物の天使に不可能はないよ」

 そう言って手を叩きつける直前・・・モラルがこちらを見てくる。恐らく空間転移を使うつもりなのだろう。この校舎をまるまる移動させる転移。モラルも天使だありえないことではない。

 だが、モラルは静かに・・・。

「あなたたちだけを移動させる」

 そう言ったのだった。

 たち・・・?ここには俺しかいないはずだが、天使たちも助けるつもりなのかなんて間抜けなことを考えている間に光が瞬く。モラルは小さくありがとうと言った気がした。

 そのことに思わずお前はどうやって逃げるんだ、と聞く事を忘れてしまっていた。







「お、重い・・・・」

 梨菜たち一行。

 校舎につき、井野宮天十を助けようと行動していたのだが、重みによってその歩みを止められる。

 この時点ですでに闘うべき相手がとんでもない化け物なのだと理解した。自分たちの抗争なんて不良のケンカにすぎないと思い知らされる。

(でも・・・!助けなきゃ・・・!)

 そう思った梨菜。

 しかし直後。ふわふわと浮かぶ綺麗な光が梨菜の胸へと入って行った。

「え・・・」

 そして光。瞬き。






「志野野辺、木野白・・・そして暗き蝙蝠梨菜・・・。なるほどな。空間転移で逃がしたのは井野宮天十だけではないということか。やれやれ・・・そしてあいつがいないみたいだが・・・」

 無精ひげに帽子、そしてコートをきた人物がそこにはいた。

 遠くを見ると校舎は残っているもののその地面が大きくえぐれている。パトカーや救急車の音でとてもうるさい夜だった。

「どうやらけが人ゼロというわけにはいかなかったみたいだな」

 帽子を深く被る。

「梨菜とやらを追っていてよかったぜ・・・まあ、ストーカーと思われていたみたいだが」

 男は静かに呟く。

「ここからだ、な」


お久しぶりです。

前も書いたかもしれませんが、そろそろ終わりになります。


最初に書いたものなので思い入れがあるのですがそれがまだ完結していないってどういう・・・。頑張ります。


読んでいただけたら幸いです。

ではまた次回。

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