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元主人公、今は脇役願望。  作者: 花澤文化
第7章『天使降臨』
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第49話 SPECULATION

 夜8時。

 言霊により、なんとか学校に侵入できた俺とモラルは時間通りに学校の教室に来ていた。まだ誰もいないみたいである。

 ちなみに梨菜は俺の住んでいる寮に引っ越してきたらしく今は寝ている。余計な心配もかけたくはないし、俺は何事もなくあの寮に帰るつもりだからだ。ここでやられるわけにはいかない。

「時間通りだな」

 目の前に急に現れたのはアンジェとモカ。

「お前らは空間テレポートとかできないんじゃなかったのか?」

 それはモラルが司るものであり、こいつらはできないはず。しかし今、実際に目の前に急に現れてきた。これはテレポートの一種なのではないだろうか。

「今のは道具をつかったもんだよ。天界とどこかを結ぶ場所。天界の一部の場所からしか移動できないし、かなりのエネルギーを使うできそこないだ」

 そう言うとアンジェは指をパチンと鳴らす。

 すると教室は崩れ去り、広い草原に変わっていた。

「な・・・」

「こうやって移動すんだ。ここは天界の外れ。ここで何しようが誰にも聞かれない。逆に助けは求められないという意味でもあるがな」

「お前ら罠をしかけたりしてないだろうな・・・」

「んなことしねぇよ。俺達もここに来るのは初めてだしな」

 そう言ってアンジェはあたりを見渡す。

「さて、んじゃさいっこうのバトルにしようか!言霊使い!」

 アンジェとモカはお互いに光を溜める。

天使化エンジェリング

 2人が同時に叫び、光は広がった。そこにいたのは・・・。

 天使。

 白い羽に光る輪のついた天使であった。もう何度も見た姿。それでも俺はその光景に目を奪われる。天使がどういう人物かなんて関係ない。ただただ神々しい存在を崇めるように、1つの宗教のように、俺の目は綺麗な天使に奪われていた。

 もちろん呆けている時間はない。急いでモラルを見た・・・が、なぜかとても不機嫌になっている。何が気に食わなかったのかは分からないがケンカしている場合でもない。

「モラル」

「わかってる」

 ぶっきらぼうにそう吐き捨ててモラルはこちらを睨んでいた。モラルの機嫌をとるのはこの闘いの後だ。ここでは一瞬の隙でさえ死に繋がる。

 俺らは構えて、相手の方を見た。

 ここからは完全に勝負。実力勝負。

「いっくぜぇええええええええええええええええええええええ!」

 アンジェは手を伸ばし、それを龍に変化させる。口を開け、こちらを狙うそれはニセモノなどではなく本物なのだろう。

「右7メートル先にずれろ」

 俺はしかしただただそうつぶやいた。

 それだけで龍は俺の横に曲がり、あたらず、地面にぶちあたる。

「ほう・・・」

 アンジェはさらに笑顔になった。

 俺の言霊は再び使えることになったとき以来、このように文章で相手を操作することが可能となった。俺自身のメモリ容量が増えた、ということなのだろう。

 まだ死ね、などというでかい命令はできないがそれでも戦いやすくなった。

「相手の右から衝撃波」

「がっ!」

 言うや否や相手はふっとび地面に落下。

 地面にぶつかることでその衝撃を殺すことができたみたいだ。

(かわせなかった・・・。やつの言霊は聞いたやつがいた場所にのみ適用されるはず。でもはやすぎてかわせなかった・・・・・)

 何を考えているか分からないが、少なくとも驚いているのだろう。アンジェという天使は目を見開き、こちらを睨むように見ていた。俺があれから何もしてないとでも思ったのかよ。

 何もしてないけど。

 やったことは能力を探し、見つけただけ。なくなった能力が魂の奥底から引き出されたような感じ。そのおかげで俺は能力が再び使えるようになっているのだ。どういう仕組みなのかは分からない。けれど、前より体に馴染んだ、という感じだろうか。

「いいぜぇ!お前!さっこうだよ!」

 今度はアンジェが距離をつめてきた。

 肉弾戦。

 相手がパンチを出すと、それを言霊でつくった壁で受け止め、蹴りを出すと足につくった言霊の鎧でガードする。それを高速で繰り返す。

 ここはいちいち文章を言っている暇はない。イメージで補い、一言ですます。

「ちぃ!」

 しかし相手は天使。

 ただの人間じゃないとはいえ、俺が天使相手に肉弾戦で勝てるわけもなく。

 ガードする手が追いつかずにガードし損ねる。それが俺の体にあたろうとする。

「!?」

 しかしその攻撃は俺に当たらず、その代わりに俺の体は空中に移動していた。

 テレポート。

 モラルだ。

「なに!?」

 相手の真後ろ。これは・・・もらった!

 落ちていく速度に身を任せて思いっきり・・・殴る!

 ガッ!という音がするもその拳はもう1人の天使モカに受け止められていた。

「2対2だということをお忘れなく」

「だとするならお前も忘れんなよ。2対2だってことを」

 後ろ。

 モカの後ろには先ほど俺に攻撃を当て損ねたアンジェがすでに構えていた。姿勢を低くして思いっきり腕を引いている。いつでも攻撃可能の状態。

 連続でテレポートはつかえない、俺の力だけで・・・。

「目の前、腹の部分に壁!」

「ふっ!」

 腕にひねりをくわえたそれは容易に俺の言霊を砕いた。元からパワーアップしたとしてもやはり天使には叶わない、ということかそれともこいつの叫び声がでかすぎるせいでうまく作用しなかったのか。

 言霊というのは相手に聞こえなければ意味がない。パワーアップのおかげで味方に攻撃がくらうなどということはなくなったが、それでも主な攻撃方法は言葉をぶつけることだ。

 天使たちに耳を塞ぐ事はできない。その瞬間天使化は解けてしまう。そこが唯一の救いか。

 ただ、やはり言葉。こちらが言葉を紡ぐ前に防がれてしまえばそれまでなのだ。

「はっ・・・はっ・・・」

 言葉を使う分俺の疲れはすでに限界まで来ていた。能力を持っているとはいえ、人間ではない者たちについて行けるほど体力や技術があるわけではない。

 しかし銀色の闇で一度能力に頼らずに戦ったおかげか、前よりも体がスムーズに動くようになっている。天使によっておこされたあの抗争のおかげで俺がパワーアップするというのはなんだか皮肉めいているようではあるが。

「前の戦いの時のキズがまだ癒えてねぇのかよ。バテるのがはやすぎだぜ」

 お前らと同じにするなよ。

 そう言おうとするも、相手に待つという選択肢はないのかこちらが休む暇なく攻撃をしてくる。俺にそれを防ぐ方法はない。言霊を貫通する攻撃が高速で何発も。特殊な攻撃では無い。ただただ、力任せに殴っているだけ、それが俺にはありえないほどの脅威となる。

 言霊の壁で全て防ぎきれるのならばいいが、一発一発がその壁を壊してくるならば、壁の生成が追いつかない。所詮言葉。またもやそこで弊害が出ている。

 それでも今、五体満足でいられるのは俺の代わりにモラルが攻撃を防いでいるからであった。天使化できないとはいえ、天使。人間以上の動きを見せている。

 分かっていた事だが、この闘いは恐らくすぐに終わるだろう。長引くものではない。これは総力戦だ。

「モラル、ありがとう」

「お礼は後でいいわっ・・・!」

 相手は天使化した天使だ。モラルでも厳しいものがあるのだろう。

「手加減する気はねぇよ」

 アンジェは腕を大きく広げる。すると出来たのは氷、巨大な氷柱である。

 アンジェはその広げた腕を振る。

「・・・・くそ」

 やはりその何本もの氷柱がこちらに襲いかかる。壁で防げないのなら、攻撃して砕くしかない。攻撃して砕くしかない、というのも実は難しい。

 一斉にくるいくつもの対象を砕くということも難しいことなのではあるが、こればっかりは自分の技術でなんとかしなくてはいけないと言わざるを得ない。ただでさえこのような状況なのに自分で我がままを言って集中力を切らしてしまうほど愚かでは無い。

 問題はあの氷柱には耳がないということだ。言霊は原則として聞こえなければ意味がない。だからここであの氷柱を防ぐためにはあの天使自体に言霊をぶつけるしかない。この氷柱を全て違う方向に飛ばせとかそういう命令を。

 ただ、そこまでの容量が自分にあるのか。相手を操るというのはそれこそ相手の全てを俺が握るということ。そこまでのことができるのか不安だし、申し訳ないがもう1つの理由がある。

 相手の天使がうるさい。叫ぶのだ、いちいち。それが俺の言霊を届きにくくしている。さらにいえばあの氷柱もうるさい。出来あがるときもパキパキと音を出していたし。

 もちろん、自分の身体能力を上げるなどという都合のいいことも出来ない。それは俺の容量を超えるものだからだ。ではどうするか、非常に迷うところではあるがやるしかない。

「『二丁拳銃ダブルガンリアル』」

 そう呟くと俺の手には2つの拳銃が握られていた。あの錬金術師がやったときはちゃんとした銃の種類なんかも決めていたのかもしれないが、俺にはそんなの分からない。だから適当だ。

 それでもきちんと発砲できるのが錬金術と言霊の合体がなせるものなのかもしれない。

 やることは氷柱の先。とがった部分を全て砕く事。発砲音が連続する。これで突き刺さることはなくなったのかもしれないが、まだかもしれないという範囲だ。残りは・・・。

 氷柱が分断される。

 綺麗に割れた氷柱は俺らに当たることはなく、地面につき、そして消える。

「なるほどな」

 相手の天使の1人、アンジェがにやりと笑う。

 俺の目の前には剣を持つ、モラルがいた。

 『ソードリアル』。錬金術に言霊を混ぜて作成したそれをモラルに持たせた。今までは1人の戦闘が多かったが今は違う。人間なんかよりも強く、高貴な存在、天使が味方にいるのだ。

「正直、錬金術師のまねごとまで出来るとは驚きました。ただ、所詮真似ごとであり、錬金術師そのものも我らからしてみれば下級職。その劣化版をぶつけられたところでどうにか出来るとは思えませんが」

 目を閉じている方、モカが指摘する。

 確かに一時しのぎでしかない。

「『氷柱アイスリアル』」

 しかし俺は負けない。

 次に作ったのは氷柱だった。

「吸収して強くなる、ということですか」

 正直気がかりなのはあのモカとかいう天使だ。アンジェの能力、はなんとなくわかる。想像したものを具現化するようなものなのだろう。俺とは違い膨大な容量を持っているようだが。

 だが俺の死などを直接想像しないあたり、そこまでのことはできないのか。それとも面白がってそのようなことをしないのか。

 だが、モカの方は不明だ。肉弾戦には出て来たものの、その後はアンジェの後ろについているだけ。何か戦闘向きではない能力なのだろうか。

「いけ」

 氷柱を飛ばす。戦いが始まってまだ数分しか経っていないが、体の限界はもうすぐそこまで来ていた。





 梨奈は何かを感じ取っていた。勝手に動く足の行先は恐らく、あの天十がいる学校のはずだ。何かを感じ取っただけでなく、梨奈は何かを理解していた。

 自分をストーカー被害にあわせ、天十に近づかせた人物の思惑を。

 また、同時刻、志野野辺もまた走っていた。

 そして木野白も。

 この2人も、何かを理解していた。理解しかけていた。

サブタイトルは思惑、という意味です。


またもや久々の投稿になってしまいました。次はもう少しだけはやく投稿したいと思います。やっぱりバトルものは難しいです。


ではまた次回。

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