~A DECLARATION OF WAR~
「えげつねぇよな。お前」
「アンジェ。そのような汚い言葉を発するのはやめなさい」
天使界。
一切の汚れがないこの場所でいつものようにアンジェとモカが机に座り、話しあっていた。食後の会話、というところだろう。
しかし今回はその場にもう1人だけ天使がいた。
「いいんだ、モカ。アンジェの強みはそこからもでているからね」
天使の中で唯一の男という性別を得ているもの。
それがこの天使だった。
「んで、ジェス。お前昨日何をやったんだ?」
昨日とはもちろん銀色の闇の時である。
「別にいくつかの記憶を抜き取っただけだよ。都合のいいようにね」
一部の記憶を抜き取った。それが昨日ジェスという天使がやったことであった。
「そんならよぉ、あの言霊使いからモラル自身の記憶とか抜き取ればよかったじゃん。そうすれば奪還するのは簡単だろう?」
「心にも思っていないことをいうなよ、アンジェ。それじゃあ君が納得しないだろ」
「まぁね」
にかっと笑う。
アンジェのやりたいことはあの言霊使いを倒したうえで奪還するというもの。記憶を抜き取るとアンジェとジェスによる天使同士の戦いが勃発しそうである。
無駄な争いを好まないジェスはそう配慮したのだ。
「でも、君たちが負けたときは好きにやらせてもらう。もう戦える天使は君らと僕しかいないからね」
「負けねぇよ。今度こそ殺す」
「うん。で、モカ。君はどうなんだい?」
常に目を閉じ、笑顔を浮かべている天使モカ。
彼女もまた静かにうなずく。
「はい、もちろん倒します」
それを見たジェスは満足したようで、席を立ち、そのまま自室へと戻っていった。
その後ろ姿を見てアンジェは静かに呟く。
「聖天使ジェストラリオ。恐ろしいね、相変わらず。ま、あいつにも負けねぇけどな」
「だからそれをやめなさい。身内で戦うなど汚いですよ。その戦いをおこさないためにジェスは記憶の一部だけを抜き取ったのですから」
「わかってるって・・・」
「それならばいいのですが。アンジェ、時間がありません。私たちも動くことにしましょう。3人しかいない中、次に言霊使いと戦うのは私たちです」
「ああ、ついにきた。再戦だ。あんときは邪魔されたからなぁ・・・。次こそ殺す。絶対殺す。今までの分まで殺す。殺しつくして満足いったらまた殺す。行こうぜ、モカ。人間界に」
〇
「で、その子は誰なの?」
学校になぜか梨菜と登校することになった俺は聞きたいことを全て聞いてもスルーされるという事態にもめげずに話しかけていた。そうして何も情報が得られず教室に行くとなぜか梨菜までもついてきたのだ。
え?同じクラスなの?という疑問もあったが気にしない。今はまだHR前の自由時間ではあるし。まぁ、うちの学校は他クラスに入ることを禁じてはいるのだが。
「えーと俺の友達の梨菜だ」
そう言うと肩をたたかれる。
めっちゃ笑顔。
「あーごめん、嘘。梨菜ちゃんだ」
肩を強めに叩かれる。
めっちゃ笑顔。
そういうことではなかったらしい。しかしどうも同学年の女子の名前を呼び捨てするのに抵抗があるんだがなぁ。
こっそりと耳打ちする。
「おい、梨菜ちゃん」
「ちゃんってなんか・・・こう・・・いいですね」
「いや、そういうことじゃなくてだな。こいつらの前でもやらなきゃだめなのか?」
俺のまわりには今、真苗、志野野辺、委員長の3人がいた。
「はい、駄目です」
「・・・・・・」
しょうがなく、みんなに向き直る。
「えーと、嘘だごめん。友達じゃない。俺の彼女の梨菜ちゃんだ」
「よろしくお願いします。みなさん」
にこっと笑う梨菜ちゃんはとても満足げではあったのだが、俺はどうも釈然としない。
俺が登校中に聞いて、わかったことは1つだけであった。
銀色の闇以来、なぜか暗き蝙蝠の面々がストーカーされているみたいなのだ。一般人にあまり暴力を振るわないため、撃退もできずに困っているのだとか。
やんわりとアピールするために誰か男にたより、付き合っているふりをしていれば大丈夫なんじゃないかという暗き蝙蝠の一員の発言でこうなっているらしい。
梨菜ちゃんとしてはあまり気がすすまないらしい。そもそも好意的なストーカー。すなわち好きすぎてしょうがないタイプだったら効果的かもしれないが、もし、シルバーウルフのように腕っ節の強い誰かに狙われているのだとしたらそれは意味がない。
梨菜は後者だと思っているらしく、不思議な力を持つ俺を頼ってきたというわけだ。
それじゃあ付き合っているふりをしている意味もないと思うんだけど。
ちなみに梨菜も昨日のことをあまり覚えていないらしい。一部一部の記憶を抜き取られているような気がするんだよなぁ。不思議。
「な、な、な、付き合っているの?」
真苗が動揺しながら席に座っていった。
なんというか反応があれすぎて変に誤解してしまうじゃないか。俺のことが好きなのか、と。
ガラっという扉の音。
「おはよう」
そこにいたのはモラル。
「昨日遅かったじゃない。無事だったのね」
「まぁな」
お互いにやにやしながら相手と話す。
「んで、この子は?」
「どうもこんにちは。井野宮さんの彼女です」
「いや、名前言えよ・・・」
「あんた彼女いたの!?」
今度はモラルが非常に動揺している。
そこで俺はすかさず耳打ち。
「モラル。これは彼女のふりだ。何かがきているかもしれない。後で打ち合わせな」
そう言うと安心したように息を吐き、
「わかったわ」
と言った。
チャイムがなり、HRの開始を告げる。
梨菜はでは、また。といい、教室に戻っていった。やはりクラスは別々らしい。
やっと俺が求めていた日常が戻ってきた。
しばらくは非日常に関わらなくて済むだろ。
そう思い、俺はカバンの中から教科書を取り出そうと手を伸ばす。
パチンッ
その時だった。綺麗な指ならしの音。その瞬間、クラスの俺以外の人間が消え去った。
「なっ・・・!」
「落ちつけよ。ここでやるつもりはない。今日は事実を伝えにきたんだ」
思いっきり後ろを見る。
「天使・・・・・!」
「アンジェだ、よろしく」
「モカです、よろしく」
2人の天使がそこにいた。
1人は身長が低く、見た目こそ子供っぽいが浮かべている笑顔は残虐。殺すことに飢えているようであった。もう1人はそれなりに身長が高く、見た目も大人っぽい。目を常に閉じていて、口元はうっすら笑っている。
そう、俺とモラルが海で襲われた相手だ。
「何しにきた」
「事実を伝えにきた。なぜ我々がモラルを狙うのかの本当の理由を」
「それを聞いたらあなたも私たちにモラルを手渡してくれることでしょう。無益な争いは避けたい。それが私たちのリーダーの願いですから」
モラルを狙う本当の理由・・・。
「それともう1つ。あんたの秘密を調べた」
「俺の秘密・・・?」
「言霊使い。あんた過去に何かと戦っているだろ」
「・・・・・・・さぁな」
思い出したくもない過去のこと。最近こそ夢に出なくなったがくやんでいることは事実。その言葉は俺の奥底に強く刺さった。
「クラスメイトのことは心配するなよ。これも空間移動の一種でね。モラルほどできないし、詳しく言えばこれは空間移動ではない」
そう区切ると、アンジェはまた残虐な笑みを浮かべる。
「お前が救い損ねた女の話をしてやろう」
「なっ・・・」
「なんでそれを知っているのか、という顔だな。まぁ、お前が戦意喪失すんのは避けたいからよ。リーダーとあんまし意見合わないんだよな。だって戦いは多いにこしたことはないじゃん?」
「なんでお前がそれを・・・!」
「リーダーからきいただけだがな。んで、言霊使い。俺はお前をあれからレプリカと呼んでないんだぜ。悪魔よ」
「悪魔じゃねぇって何度言えば・・・」
「俺は正式にお前を俺の敵と認識した。それはすでに偽物じゃない。本物の敵だ。だから言霊使い。次会うときが決着のときだと考えておけ」
それはもうすでに肝に銘じている。
それより・・・。
「お前らはなんでモラルを狙う」
「簡単だよ。モラルの能力は純然たる天使の技じゃない。前にあいつが天使化のことを知らなかったとき、記憶を奪っているからと説明したよな。それは嘘だ。あいつは天使化ができないんだよ」
「なっ・・・」
「テレポートして『逃げる』技がよぉ・・・前向きな天使の技だと思ったかよぉ・・・。ま、それについてはお前が詳しいはずだろ?気絶させない拷問道具を持つお前が」
「じゃあモラルも・・・」
「厳密には悪魔じゃないがな。悪魔の力を取り入れた天使というところか。そんなものが我が天使界に知れ渡ったら悪魔に落ちぶれた天使がいると話題になるから、俺達はあいつを回収しようとしてるんだよ」
「で、回収したらどうするんだ?」
「殺す。殺して二度と外に出ないようにする」
「アンジェ。それは言わない約束ですよ」
「だからぁ、俺はこいつと戦うのが好きなんだっつの!ここでモラルを助けるために回収とか言って俺と戦わない展開になったらどうすんだよ!っと・・・。それともう1つ。殺す前に利用させてもらうことがあるがなぁ」
「お前・・・それを俺が許すと思うのかよ」
「思わない。だから楽しい」
にやぁと嫌な笑み。
梨菜の笑いと比べると違いが分かる。ここまで笑顔が残虐に見えるのかと。
「今夜、8時にこの教室にこい。今度こそ決着をつける」
そう言うと天使2人は消え、教室はいつもの日常に戻っていった。
タイトルは宣戦布告ということで。
昨日に引き続き連続してあげることができました。明日からはまた少し投稿速度が遅くなるかもしれません。
ではまた次回。