銀色の闇eleventh 第47話 IMPORTANT
「なぁ、モカ。アルって強いのか?」
天使界。そこには天使たちが集まり日々暮らしている。そんな中、天使アンジェが天使モカに対して質問した。単純な強さの質問。
「あなたは知らないのですか?アルミトルスの力を」
モカは驚いたようにアンジェを見るがその目は開かない。開いたところを見たものはいないとまで言われるほど柔和な笑みを常に浮かべている。
「知らん」
「本当にそういうのに興味ないのですね・・・」
モカは呆れつつも先生のように説明を始める。
「アルは『感情』の天使です。それはすなわち感情を操るのです。怒り、喜び、哀しみ、楽しみ。もっと言うと憎しみ、妬み、敵意でさえも操れてしまう」
「ん?というとどういうことだ?」
「あなたが敵意をもってアルを攻撃したとしても感情を塗り替えられて敵意を消されてしまいます。攻撃ができなくなるのです」
そうなれば相手の攻撃を受けるのみ。動こうとしても敵意が湧かない。それほどに戦闘において恐ろしいことなどなかった。
「でも攻撃されたらその度に敵意を持つぞ」
野蛮ですね・・・と言いつつもその質問は予測していた。
「アルはその度に塗り替えます。敵意を消し、別の感情を刷り込むこともできるのです」
「ほー・・・なら楽しくない時アルに頼んだら楽しくしてくれんのか。そいつはいいな」
「そいつは地獄、の間違いでしょう」
「?」
アンジェは本当に何がなんだかわからないような顔をする。
「感情を操るだけで記憶を操るわけではないのです。相手からされたこと、憎むべきこと、全てを記憶しているのに感情が楽しくなってしまい攻撃できない」
そこで、モカは区切る。
「それほどまでに辛いことなどないでしょう。親の仇と酒を交わしたり、パーティーすらもできる。でもそれは思った以上に地獄ですよ」
モカはアンジェに聞こえないように囁く。
「彼女は天使というより悪魔に近いのです・・・最強ならぬ最凶。私もあまり戦いたいとは思いませんね」
「なんか言ったか?」
「いいえ、何も」
〇
「剣が振るえない・・・!」
木野白は驚いていた。先ほどまで斬りたい、仲間の仇を、弄ばれた憎しみをぶつける気でいたのにそれができない。記憶はあるのに敵意が湧かない。
「今の感情はどう?無にしてみたけどさぁ・・・もしよかったら他の感情もいれてあげるよ」
「なんだ・・・貴様は・・・」
目の前にいる天使は天使化により最大限の力を出せるようになっている。もちろん天使化など知らない木野白からしたら人間びっくりショーにしか見えないのだが。
「はい、お試しサンプル『哀しみ』」
アルミトルスがそう言うと木野白の目からは涙があふれてきていた。
「な・・・なんで・・・」
「あれれー?なんで泣いてるの?何がそんなに悲しいのかな?」
「くそっ・・・!」
木野白は急いで涙をぬぐうも、止まらない。涙が邪魔で前が見えない。何度も何度も目をこする。
「無駄だと思うよ。しかもほら」
天使は蜘蛛の巣から抜け出した。完全に不意をつかれたため、結界がゆるんでしまったのだ。
「こんなに簡単に抜け出せ・・・た!」
蹴りを放つ。涙をぬぐっていた木野白はそれをモロに受け、吹き飛ぶ。
「がぁ・・・!」
肺から空気が出る。軋む体。ダメだ・・・これは意味がわからない。そう思っていた。未知との遭遇は予想以上に木野白の精神を削っていたのだ。
体が勝とうとしても心が負ける。折れる。ボロボロだ。
「それが『弱気』だよ。もっとも僕の能力がいらないぐらいには君の心も傷ついてると思うけどね」
にやにやと笑いながら再び蹴りを放つ。
「がっ・・・ぐっ・・・!」
なんとか歯を食いしばり、耐えてもそれが長くは続かない。体は人間。天使とは違う。人外の攻撃を受けた人間は簡単に折れてしまう。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「どうしたの?・・・・・・・君のもう1人の仲間、えーと男、だね。その子、僕の仲間に勝ったみたいだよ。すごいよね、天使という不確かな存在を利用するなんて」
木野白にはそれが志野野辺だと分かったが言っている内容が分からない。天使の存在を利用?まったく思いつかない。
「でも、君には無理だ。こうして僕の不思議をくらい、不思議になる。それすなわち天使を信じたのと同じことなんだよ」
「・・・・・・」
「後ろだね」
後ろに蹴りを放つと剣を弾いた。
木野白は会話の間に後ろから鎖を張り巡らし、剣で攻撃しようとしていたのだ。
「無駄だなぁ・・・無駄。君の感情は手の取るように分かる。蹴りの攻撃を受けたから敵意が回復したみたいだけどさ、僕は操るだけじゃなくて感情を見れるんだ」
「・・・・・」
「君からの敵意が最も高い時。それが攻撃する時だよ」
「・・・・・」
木野白はまだ諦めなかった。ひたすらに袖から鎖を伸ばし、張り巡らす。どこから来るかわからない攻撃のはずなのに不思議なことに天使には分かってしまう。
ならば、こちらも何も考えない。
「・・・・・!?」
アルミトルスをかすったのは木野白の剣。何も考えない、相手にあてることすら考えないことによって感情の起伏をなくしたのである。
「お前・・・」
「どうした・・・そんなもんか?」
「生意気」
ぐん!とスピードを上げて羽を広げ距離を詰める。再び攻撃だ。この時、木野白は死を悟った。どうあがいても勝てない。だから最後の悪あがきを見せた。
「あとは・・・頼む・・・」
木野白が頼んだ相手は誰だったのか。それは分からない。しかし・・・。
いつまでたっても蹴りがこなかった。
木野白が顔をあげるとそこには必死に攻撃している天使の姿が。でも木野白までは届かない。
「・・・・・」
「な、なんだよ!これ!」
蹴りを出しても拳をだしても何かに弾かれ木野白まで届かない。それは何か。銃弾だ。ゴム弾。貫通力より威力を重視した試験用の弾。
「『超音波』参ります」
そう言って助けに入ったのはかつての仲間。
「よ、どうしたずいぶんとボロボロじゃないか」
そう言ってくれたのはクラスメイトでシルバーウルフのリーダー。
「お久しぶりです、リーダー」
信用した代理。
「後でいろいろと謝りたいことがあります」
そう言ったのは敵対していたはずのチームの代理。
「っつーわけだぜ、委員長」
そして最後にクラスメイトで異能持ち。天使と唯一対抗できる存在。
「井野宮・・・天十・・・」
最強の布陣がここに揃い、いよいよクライマックス。
というわけで次回でいよいよ銀色の闇編が終わります。
ほんと月日的にもすごく長くなってしまいました。
ちなみに次からは恐らく、今までの2倍ぐらいの文章量になってしまうかもしれませんが、ご了承を。
ではまた次回。