第34話 SHORT STORY
次の日の昼。俺は今、シルバーウルフの拠点に来ていた。もちろん、リーダー代理と話すために。
「大丈夫か」
「えぇ、すみません。仲間が死んだことにうろたえてしまって」
それは当然のことだと思う。当然。俺はタツヤに会ったこともないのでなかなか悲しみというのが湧いてこなかった。これも当然。・・・・なのだろうか。
「それにしたっておかしい話だな」
「えぇ、夜の病院にこっそりと忍び込むなんて・・・。これは暗き蝙蝠の仕業でしょうか?」
なぜリーダー代理がそのようなことを言うのか。これも当然のことであり、しょうがないことだと俺は思った。タツヤには親がもういなかった。なので祖父祖母が病院にきたんだ。もちろん俺らは謝った。
「いえ、タツヤが好きなことをできたのならそれで幸せです」
そのようなことを言ってくれた。もちろん暗き蝙蝠を襲ったというのは秘密にしてある。その後、病院の患者さんたちからたくさんの情報をもらった。いや、噂を勝手にきいたというとこか。
夜、女の影が病室から出て行ったと。
それはまぎれもない真実なのか、まぎれもない偽りなのかは俺には判断ができない。何しろ俺は見ていないのだ。しかし一番疑われるのが暗き蝙蝠のメンバー。タツヤにメンバーを襲われているし当然の結果だと思った。しかしそれは偽りだと思う。
「それは違うよ。暗き蝙蝠がそんなことするわけ・・・・」
「どこにそんな証拠があるんですか!」
「!!」
突然の大声に驚くことになった。これも当然。まったく当然が多すぎてまったく新鮮なリアクションができないな。なんて軽く考えたり。事の重さを分かってないわけじゃない。ただ人が死ぬことに実感できないんだ・・・・と言ったら俺は普通の高校生だっただろう。普通の高校生として当然。
「確かに証拠はないけどさ。でも暗き蝙蝠が簡単に行動に移るかな?」
「考えづらいですが・・・それいがい一体なにが・・・・」
俺は異常な高校生だ。死には少し慣れすぎていた。異常な高校生として当然。当然のような感情だった。なにせ俺は異常、非日常、不可思議。どれにも慣れているのだから。当然・・・・ね。
〇
俺は暗き蝙蝠の拠点を訪れた。もちろんリーダー代理と話しに。
「あたしらは知りませんね・・・。昨日はあたしらも違う病院にいたんで」
「違う病院?」
「あぁ、昨日メンバーが刺されたんでその様子うかがいに」
「そうか」
そういえばそうだったなと実感する。これで証拠はとれる。病院に行って確認をとればいいのだ。だがこれで余計に分からなくなった。完璧に。それこそ簡単に。
「あーあ・・・・」
俺は途方に暮れていた。何も手掛かりがつかめない。まるで雲をつかもうと空に手をのばすように。まったく意味のない行為。まったく手ごたえがない行為。
「あの・・・・井野宮さん?」
「ん?」
俺に話しかけてきたのは梨菜だった。暗き蝙蝠の一員であり、俺が暗き蝙蝠の中で最も中のいい女の子だ。しかし顔立ちは幼く。背は低く、髪もショート。どこか幼さが残る少女でおとなしかった。
「どうしたんですか?溜息なんかついて?」
「いや、なんでもないよ」
「溜息つくと・・・幸せが逃げてしまいますよ」
俺はそういうのは信じないんだがな。梨菜が言うと信憑性がでてくる。いや、癒される。
「悪い、悪い」
「誰に謝っているの・・・?幸せに対して?」
「幸せに謝るとはなんとも幸薄そうな男だな」
俺にぴったりだった。そしてこんなゆるい会話は毎回なので慣れてはきてる。なぜかどんなときでさえ梨菜は俺と雑談しようとしてくる。そんな梨菜には俺も心を開いている。
「ところで井野宮さん」
「まさかの話題変更だが聞いてやろう」
「乳がんってあるじゃないですか」
「女子の口からそんな言葉が日常会話で出てくるとは思わなかった」
梨菜は純粋なためどんな言葉がどういう人に言ってはダメなのかがわからないのだ。これでも本人は恥ずかしがりやでそして真面目な雑談だと思っている。女子として当然なのかは知らないが。
「あれって男の人でもなるんですかね?」
「乳がんがか?うーん、なるんじゃないの?詳しくないからわからないけど」
昔どこかで見たような気がする。ていうか俺は乳がんにかかってないのになぜそんな言葉を調べたのだろうか。自分で自分がわからない。
「お医者さんになんて言うんでしょうね?」
「なんて言うんでしょうね?って・・・乳がんなんですけどって言えばいいんじゃないか?」
「でもまだ乳がんってわかる前の段階でしょ?」
「・・・・・・あぁ、そうか」
一応梨菜は俺の1,2歳下なのだが。なぜだろう、学力的に差をつけられてるように思うのは。
「じゃあ、なんかしこりがあるんですけどとかかな?」
「でも男の人が乳がんになるなんて話あまり聞かないですよね?だから男の人は言いづらいんじゃないかと思って」
「あー、そうかな?かかったことはないからわからないけど、そうなのかもしれないな」
「だとしたら言いやすい言葉っていうのを考えてあげたらいいんじゃないかなって思ったんですけど」
「何かいい案があるのか?」
「はい、でも私の勝手なイメージですけど・・・」
「それでもいいよ」
「『すんませんっす、オイラ乳にしこりがあるんすけど』」
「お前のイメージってそんなんなの!?一人称がオイラってどういうことだよ!」
謎だった。
「『あー、乳がんですね』」
「それは医者か!?適当すぎだろう!何をして乳がんだと分かったんだよ!」
患者の謎なら医者も謎だった。
「『はやく治さないとあと寿命1年ですよ、逢原さん』」
「名乗ってないのになんで名前知ってんの!?寿命も!なに!死神と契約でもしてるの!?死神の目でも持ってるの!?」
「『それはぎりぎりですな、井野宮さん』」
「医者の口調のまんまかよ!」
役に入りきっている。確かこいつ中学で演劇部だったな・・・。それで何かと演じたがってたのか。
「『でははやくあっしのしこりとってくださいっす』」
「一人称が変わってるーーーーーー!!!」
安定しないキャラだ。そしてこれはコントか?俺はなんでツッコんでるんだ・・・。
「おい、梨菜。俺にも何か役をくれ。どうせだったら一緒にやるさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「どんだけ迷ってんだよ!迷惑なのか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなことないよ」
「迷惑なんだな、迷惑なんだな!」
意外とひどい年下だった。
「じゃあ、井野宮さんには・・・乳がん患者やってください」
「ハードルたけぇ!あの一切キャラが統一してない人物をやれと!?」
「一人二役は大変なので」
「じゃあお前が患者やれよ!」
もはや乳がん関係なかった。というかこいついい案があるとか言ってたけど・・・ダメだったな。
「『今日はどうしたんですか?』」
「そこから!?できれば戻りたくないんだけど!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『す、すいませんっす、お、オイラち、乳にし、しこりがあるんすけど・・・』」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なぜそんな冷めた目!?理不尽だ!」
やれと言ったのはお前だろう!
「え?誰が同じセリフでやれって言ったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ごもっともだった。正論だった。当然だった。これじゃ俺は他人に責任をなすりつけている最低野郎だ。
「『では調べさせてもらいます』」
「お、今回はまともだな」
「『全身がんだらけです』」
「『そうですか・・・』ってえぇええええええええええええええ!?」
「『寿命はあと3年でしょう』」
「まだそんなにあるの!?全身がんだよ!なんでさっきより寿命ながいんだよ!」
ていうかこれ絶対楽しんでるだけだろう。乳がん関係ねーもん。診てもらった時点でがんだもん。俺はがんそのものだったもん。
「『とりあえず治療に必要なものは・・・生肉、ドス〇ンポスの頭、火竜の爪・・・』」
「おーい!お前それアウトだろ!狩ってこいってか!」
「『とりあえず支給品として、のど飴』」
「扱いがひどい!鼻とのどの通りをよくしてどうすんだよ!」
「『嗅覚で相手を探る・・・・』」
「俺って人間じゃないの!?」
「『いいから早く狩ってきてくださいよ。まったくこれだからアウストラロピテクスは・・・』」
「哺乳類霊長目ヒト科!?」
「あれ?それって人もじゃなかったっけ?」
「急に素に戻ったな・・・。動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・サル目・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種だ」
「『うーん・・・まぁいいですな』」
「諦めた!ていうか医者に戻ったよ!」
自由なやつだ。というかこのネタどこまでひっぱるんだよ・・・。
「『というか治療すんの?しないの?しないんだったら出てって』」
「つめてぇ!医者が患者につめてぇよ!」
絶対にいけない対応だった。
「『治療します、してください』」
「『じゃあ、とりあえず・・・密林に入ったらこんがり肉食べて・・・』」
「なんのアドバイス!?俺今から密林いくの!?」
「『装備はボウガンで仲間が敵に斬りかかった瞬間に通常弾発射。相手の動作を許さなくする』」
「普通にうざいやつだよ!たまにいるぜ、そういうの!」
しかもそういう時に限って拡散弾やら強い弾を使いやがる・・・。なぜモンスターに使わない。
「『クーラード〇ンクの効果きれた!やべぇ!やべって!誰かくれ!』」
「なんかあるあるネタになってない?」
「『はぁ?お前モド〇玉は!?ふざけんな!ちゃんと持って来いって言っただろ。まったくほらやるよ。早く受け取れ。あれ?ちょっと、どこに行くの?はやく俺の近くでボタン押せよ。じゃないと俺身動きとれないんだけど、なぁちょっと!』raigerは力尽きた」
「最悪だー!!でもたまにある!ていうか名前ライガーっていうんだ・・・」
なんだこの話題。やってるやつじゃねぇとわかんねぇぞ・・・。
「『さぁて剥ぎ取るか・・・。っておい!大剣で吹き飛ばすなよ!まったく・・・・っておい!またかよ!もういい加減にしろよ・・・。はぁ・・・ってまた!?』バンッ!」
「またまた最悪だー!大剣で結局剥ぎ取れないまま清算場面かよ!」
なんだか悲しくなってきた。
「『さーて狩りに行こうぜ!ってちょいまってて。お菓子とってくる。・・・・・・・・・・さーてやるか!あれ?何これ?でかい樽と小さい樽?小さい方はなんだかシューって音が・・・』raigerは力尽きた」
「ライガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
まさかの裏切りだった。爆弾仕掛けられていたとは・・・。
「『モンスターみっけ!これを倒せば・・・・。ちょっとラン〇スタ邪魔だな・・・。まぁ、ラン〇スタごときで俺は止められまい。えっ?麻痺?』raigerは力尽きた」
「ライガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
悲しくてしょうがなかった。説明すると麻痺で動けなくなったうえ、主力モンスターにやられたと。
「『まぁどれもこれも私が昔やられたことなんだがね』」
「医者ぁあああああああああああああああああ!」
その医者は陰湿ないじめにあっていたに違いない。なぜ俺は助け出さなかったのか・・・。悔やまれる。
「『例えが分かりづらかったかね?ならポケ〇ンで例えようか』」
「医者ぁあああああああああああああああ!!」
仕事しろという意味の叫びだった。
「『今まで草むらでかなりの確率で会っていたのに、そのモンスターが欲しいと思って草むらに入るとなかなかでてこない』」
「医者ぁああああああああああああああああああ!!」
それは精神的な問題じゃなかろうか。そしてモンスターって言うな。
「『んで?どこの治療から始めようか?』」
「忘れてた!俺今悲惨な状態だったのか!」
「『うーん、久々にゲームやりたくなったから他のところいって』」
「こんだけ待たせといて!?」
「『CLANN〇Dでも見てれば?』」
「泣くわ!そんな軽い気持ちで見れるか!」
また方向がマニアックだった。確かにあれは泣けるいいアニメだ。
「うん、やっぱり井野宮さんと遊ぶのは楽しいや」
「そうか?」
でもやはり嬉しかった。楽しいといわれることは嬉しい部類に入るだろう。しかし今回はまったく進まなかったような気がする。雑談小説にいつからなったんだよ・・・。って何の話をしてるんだ、俺は?
今回はショートストーリー。
意味はコントです。
まったく話の進まない回でしたがどうでしたでしょうか?
書いてるうちに面白くなってきたのは秘密です(笑)
でわ