第15話 SEA
「いえいえ、そんなことありませんよ」
「謙遜なんてしないでよ!モラルさんすごいね!」
「頭すごくいいじゃない」
はいこんにちわ。井野宮天十です。いやぁー、暑い。まだ6月でしょう?なのにここまで暑いと7月、8月がどんなことになるか心配だね。ほんとこのジメジメ感は好きになれない。
そしてもう一つの心配事、モラルのことだが・・・・なぜかすっごくクラスに馴染んでいた。たぶん俺より友達多いな。
「まったく・・・・・・・・・・・・」
するとモラルは友達との話を終えて、俺のところにやってきた。あ?何の用だよ。
「どう?すっごく馴染んでるでしょ」
「あぁ、そうだな。ほんと、驚いた」
「ふふん、でしょでしょ」
何が言いたいのだろう、こいつは。なんだ、このお前より馴染んでるぜみたいな勝ち誇った顔は。でもそれもしょうがないだろう。成績優秀、スポーツ万能、優しくて明るい。そんなやつだった。しかし俺は運動神経は悪いし、頭もよくはない。この違いが圧倒的な差になっているんだ。
「じゃあ、あたしはご飯食べてくるね」
「おぅ、行ってこい、行ってこい」
俺は立ち去ったモラルを見送ると、自分の席に弁当を広げた。
「モラルちゃん大人気だねー」
「あぁ、そうだな」
真苗未央が間延びした声で話しかけてきた。ていうかお前もう弁当食ったのか?はやすぎるだろ。そういえばこいつ昔からそんな感じだったよな。
「俺は弁当食うけどお前は?」
「私はお弁当食べちゃったから井野宮君が食べるのを見てる」
「・・・・・・あのなぁ。食べるところを見られるのは落ち着かないんだけど」
こいつはわかってて言ってんのか?いや、違うな。こいつならきっと弁当食べてるところ見られても動じないだろう。
「そうなの?ごめんごめん」
「いや、謝らなくていいんだけどさ」
ま、こいつとの会話が一番和むんだよな。どこぞの熱血バスケ少年より、どこぞのおかしい委員長より、毒舌パソコン部部長より、モラル・・・・・・より?いや、あいつはカウントしないでおこう。
「それにしても暑いねー」
「ほんとにな。こんな気温で体育なんてやりたくねぇよな」
「あれ?体育なんてあったっけ?」
「例えの話。今日は体育ないよ」
こんな普通の会話が一番だとは思わないかい?思わないとか言わないでくれ。思うだろうさ。
「午後の授業もがんばろー!」
「俺はできることなら休みたい・・・・」
人間は熱に強くないんだな。だからといって寒いのに強いわけでもない。どうにかしてくれ。
〇
「じゃじゃーん!これなーんだ?」
「あん?」
志野野辺がすごいテンションで話しかけてきた。今は放課後。俺は完璧に帰ろうかと思って席を立ったときだった。
「正解は・・・・・・・・・・・・・・・・・」
タメるな。腹立つ。
「海へ行こう!海まで移動料金タダ券!!!!!!」
移動料金がタダになるだけかよ。
「お前それ有効期間が7月の14日から8月の23日までだぞ。まだかなり日数があるじゃないか」
今はまだ6月。なんでこいつこんなテンション高いんだよ。
「いや、真苗と委員長も誘おうかと思ったら、今からテンションあがっちゃってー!」
体、もたねぇぞ。あと、どんだけ待てばいいんだよ。
「まぁ、いいや。それ券何枚あんの?」
「6枚だけど」
「残り2人は俺に任せてくれないか」
「いいけど、最高に美人なのを頼むぜー」
「分かってるって」
もう誰を誘うのかは決まっていた。あとはOKしてくれるかどうかだ。
「今日は帰るか」
「お前帰るの?」
「あぁ」
「じゃあ、俺も!って俺は部活だった」
「お前、それワザとか?」
何回そのオチを見たか!もううんざりだし、飽きたわ!!!!
「じゃあな」
まぁ、こんな感じで一日が過ぎていく。いい毎日だ。決しておもしろいわけじゃないが、それぐらいがちょうどいいんだよ。
〇
「こんにちわ・・・・久しぶりです・・・・寮長・・・・・」
「あぁ、最近顔見せないから死んだのかと思ったぞ」
やべぇ・・・・・寮長怒ってるよ。背が高く、長い緑がかった髪をポニーテールにしている。服はなぜか毎回エプロンを装備している。
「えーと、すみません。ちょっといろいろとあって」
「そんなに私に会いたくなかったとはな。残念だ」
どうしたらこの拷問から解放されるんだろう。永遠に終わらないものってあるよね。こ〇亀とかさ。まだ宿題も残ってるわけだし、時間を無駄にはできない!
「寮長!俺、さっきからお腹痛くて!」
「じゃあ、私の部屋に来い。看病してやる」
「実は昨日から寝てなくて、フラフラなんです!」
「じゃあ、私の部屋に来い」
「行ったらどうなんだよ!!!」
思わずツッコンでしまった。この拷問は1時間以上続いたとさ。
「あぁーだりー」
寮長の説教をおえた俺に体力など残されてはいなかった。
「あんた、なんかやつれてない?」
「なんでお前がいる!!?」
「だってお隣さん同士仲良くしなきゃね」
そんな気、微塵もないだろうに。ここは俺の部屋。俺はソファの上で力尽きた。
「俺はたぶん今から寝るわ」
「そんなこと予知しなくていいわよ」
くっ!こいつなかなか帰ってくれない。いつもなら「あぁ、そう、おやすみ」と言っていなくなるのに・・・・。
「お前、俺に用があんだろ」
「よくわかったわね。用というほどじゃないんだけど・・・・・・」
「海が見てみたい」
「は?」
そりゃ、あっけにとられるさ。驚いたね。
「一度でいいから海が見たかったの!きれいなんでしょ」
「あぁ、まぁ」
そういや、こいつ海見たことないのか。この世界に来てまだ間もないんだししょうがないよな。そしてちょうどよく志野野辺がくれた券もある。
「いいぜ。連れてってやるよ。夏にな」
「ほんと!やったー」
こいつもこんな喜び方するんだな。見た目は中学生ぐらいだし、本当にそれぐらいの歳なのかもな。というかお前、よく高校生になれたな。俺が試験官なら「だれだ。ここに中学生を連れてきたやつは」って言うよ。
俺はこのときはまだあんなことになるだなんて思ってなかった。そう、まさか俺の思考がダダ漏れだったなんて・・・・・。
このあとモラルに目いっぱい蹴られました。
第3章開幕ということです。
目指せ!100章!!大分無理ですね・・・・。
タイトルは海という意味です。
でわ