04:そして少女も乞い願う
母二人が土下座で『孫を作って欲しい』と頼み込んできた。
少年と少女は絶句するしかなかった。
かと、思いきや。
少女がおもむろにソファから立ち上がると、二人の母の横に並んで同じように土下座して言った。
「雪人くん、お願いします、わたしと結婚して子供を作らせて下さい」
「……」
少年は、ますます絶句することになった。
一体、何が、どうして、どうなって、こんなことになってるんだ?
「あんた、さっきは何も知らない風だったじゃないか……」
少年の言う通り。
先ほどは少女も『こちら側』に居たはずだった。
「さっきのはお母さんの台詞に繋ぐための演技よ……実は、ね……」
少年の疑問に少女が顔を上げ、語りはじめる。
実は、わたし、ずっと前からあなたの事……雪人くんの事、知ってたの。
知ってた、と言うか、お母さんから知らされていたと言うか、ね。
お母さんから聞いた話だと。
それこそ、産まれて間もない頃から、雪人くんの『映像』と一緒に過ごして来たの。
雪人くんのお母様……雪枝さんが撮影した雪人くんの映像を、産まれた時からずっと見てた、って。
もちろん、赤ん坊の頃の記憶がある訳じゃなんだけどね。
ずーっと雪人くんの映像を見ながら『この子がアカネのお婿さんになる人よ』『アカネはこの子のお嫁さんになるの』って言われ続けてたの。
そりゃ、幼い頃のわたしは画面の中の男の子に、特に何の感情も無かったわ。
小学生の頃は、そんなお母さんの話を真に受けてなくて、ただ漫然と見せられてただけだったんだけど。
段々とお母さんの言ってる意味が理解できるようになって来て、ちょっと意識し始めたの。
一番衝撃的だったのは、雪人くんが初めて……その……えっと、初めて一人で……した時のこと。アレを見て、ものすごく興味が沸いて……。
「ちょっと待てえええええええ」
途中までおとなしく話を聞いていた雪人が声を上げる。
「母さんがさかんに俺の事撮影してたのは知ってたけど、盗撮までしてたのか!?」
「してたわよ~雪人ちゃんのお部屋にいくつか隠しカメラセットしてあるの~」
しれっとネタばらしする母・雪枝。
「てゆーことは、何だ。あれか……アレもコレもソレも全部……」
「一応~、ある程度は~、編集して~イイところだけ~」
「イイところって何だよ!」
「雪人ちゃんの~、しゃ」
「言わんでいい!!」
母親の台詞を強引に遮る雪人。
「はぁ…はぁ…」
違う意味で興奮気味の雪人。
「悶えてる雪人くん、素敵……」
本来の意味で興奮気味のアカネ。
「やかましいわっ!」
さらに興奮する雪人。
自室を隠し撮りされていて、その映像を他人に、しかも女の子に見られていた。
雪人は自己の痴態を思い出して悶絶する。
ぐるぐると周る思考の中、無断でそれを見られた事に対する怒りが込み上げてきた。
「……よし」
その怒りはしかし、相手が女性、しかも一人は自分の母であり、その恋人とその娘であることから物理的な暴力と言うカタチには直接辿り着かず、別のカタチを形成する。
「じゃあ、俺にも見せてもらおうか。あんたが見たのと同じものを!」
目には目を、歯には歯を、だ。
「え~?わたしも~?」
「母さんはいらん!」
実の母親のソレなど、見たくはない息子心。
母二人は経産婦であり、当然のごとく経験はあるから、男性のそれについても認識、認知はあるだろう。
話の流れからすると少女はまだ未経験であり、己を他人だけでなく身内にも曝したことは無いに違いない。
それが、どれだけ恥ずかしい事なのか、解らせて復讐したい。
雪人はそう考えた。
「え? え? ここで、雪人くんに見せればいいの?」
上気し赤らんだ頬で嬉しそうにアカネが言う。
「そんなご褒美もらっちゃっていいのかしら♪」
自己の胸を掻き抱き、くねくねと身体を揺らして悦に入るアカネ。
「…………」
罰を与えたつもりが、甘々の飴を与えたのだと気付いて雪人はまた絶句することになる。
そんな雪人を、ある意味置き去りにしてアカネが着ている物を脱ぎ始めた。
「……ちゃんと、ちゃんと見ててね。雪人くんのを観ながらいっぱい練習したから、とっても上手なの♪」
下着も脱ぎ去って、アカネは深くソファに腰を下ろすと、自身の真実の渓谷をさらけ出す。
本末転倒も甚だしい、とは、言え。
あまりにも突然の展開、とは、言え。
雪人にしても、健全な、男子。
男の子。
決して、男の娘では、無い。
だから。
「っ、ごくり」
固唾を飲んで。
アカネの、アカネ自身の。
アカネ自身が演じる、痴態を。
観察。
するだけで、収まるハズも、無く。
囃し立てる外野、母、ふたり。
その存在が、囃し立てるだけでなく、焚き付け。
指導と言う名のおせっかいも、加えて。
とうとう、一線を越え。
「あぁ、夢が、叶ったわ……」
希望を叶えたアカネが、悦に入る。
「ええ、これで、夢が叶う、わね!」
「うんうん、よかったぁ~」
歓喜する、百合の母たち。
雪人も、もちろん、まんざらでは、無く。
さらに。
「でも、でも、まだ、まだ、もっとぉ~、確実にするためにもぉ~」
確実に、正しく、新しい、真の家族となるべく。
母、ふたり、子、ふたり。
一戦、二戦、三戦、と。
繰り広げられる、宴が。
続く。
つづく……。
そして―――――――――――――
百合の母達の乞うた願いは遂げられ、仲睦まじい両親の隣で可愛い孫をあやす二人の祖母の姿は可憐でさえ、あった。
<了?>