03:計算式の定義が間違っています
「ふむ……」
顎に手を当て、テーブルに肘を付いて少年が思案している。
少女も胸の前で腕を組んでどう返答したものかと頭を悩ませている。
「そうだ、えっと……美里さん、だっけ?」
しばし後、少年が何か閃いたらしく、顔を上げて母親の恋人の名前を確認する。
「うん、美里だよ」
「美里さんと俺の子供なら、母さん達の望みにもっと近付けられるんじゃないかな?」
「は?」
「え?」
「え~?」
少年の、斜め上のアイディアに固まる女性三名。
「えっと、何でそうなるのかな?」
母親の恋人、美里が少年に問う。
「理論的な血統の考え方だよ。ええっと……」
少年はソファから立ち上がり、リビングにある化粧棚からメモ帳とペンを取って来る。
「俺の母さんを『α』、見た事ないけど、俺の父親を『β』として……」
メモ帳に記入しながら説明をはじめた。女性陣は身を乗り出してそのメモに注目する。
「美里さんを『γ』、相手の男性を『δ』とすると……」
少年はメモ帳に『α+β』『γ+δ』の記号式を記入する。
「俺が『α+β』で、えっと、アカネさんだっけ……」
「うん」
「アカネさんが『γ+δ』で、俺とアカネさんの子供は『α+β+γ+δ』になるよね」
うんうん、と頷く女性陣。
「美里さんと俺の組み合わせの場合だと、俺の『α+β』と美里さんの『γ』で、『α+β+γ』になって、血統の混ざりを減らすことができるだろ? 母さん達の希望からすると、俺とアカネさんが結婚した場合『義理の母親同士』ってだけで『親戚』にしかなれないけど、俺と美里さんが結婚すれば、義理とは言え『母と娘』って形で『家族』になれるってのもあるぞ? これなら『同棲』じゃなくてちゃんと『同居』になるだろうし」
「恋人を息子に寝取られることになっちゃうわ……」
「雪枝さんが、わたしの義母……」
「いや、ちょっと待って、それはそれで他にも色々問題あるでしょう?」
女性陣三人、母、母の恋人、その娘、それぞれの反応があるも、中でも娘のアカネが激しく反応する。
「お母さんが結婚するのはいいとして、同い年のコが義理の父親になるなんて、それは正直勘弁してほしい。それに、お母さんの年齢で子供産むのって、負担が大きくて危険じゃない?」
「私まだアラフォーだし!まだまだ行けるよ!」
娘に反論する美里はこのアイディアに乗り気味の模様。
「だいたい、結婚とか子供とかって、お母さんとコイツって、別に好き合ってる訳じゃないでしょ? そんなのダメよ倫理的にダメダメよ」
「理論的には良いと思うが……」
「論外!」
「じゃあ、やっぱり、アカネにお願いするしか無くなっちゃうけど?」
「それもイヤ!」
「え~。じゃあ~、どうしたら良いの~? あ。そう言えば、言い忘れた事が~」
「何?」
「さっき、わたしと美里の相手が『β』と『δ』って書いてたけどぉ、実際は……」
「ちょっと、雪枝さん、それは内緒……」
「同じ人だから、どっちも『β』なのよぉ~」
「あっちゃ……言っちゃった」
「それって、つまり、俺とアカネさんは……」
「母親違いのきょうだい、ってこと……?」
「論理的にも倫理的にもアカンやろ!!」
「認知してもらってないから、バレなければセーフ!」
「いやいや、いやいや、いや」
「いやいや、いやいや、いや」
結局。
アカネと雪人は、父親が同じの『実の姉弟』と判明したため、論点は美里と雪人の婚姻に絞られた。
アカネが『弟が父親』と言う不思議な関係性に悩んでいる間に、三人で話が進められた。
雪人が『妻美里と母の不倫』を黙認する前提で、美里と雪人が結婚と言う流れで決まった。
アカネも結局『姉弟なんだから一緒に住んでも問題ないよね……』的な結論に至って、なし崩しに合意。
「ホントに、こんなおばさんをお嫁さんにしちゃって、よかったの?」
雪人の年齢のこともあり、実際の婚姻にはまだ時間がかかる。ただ、美里の年齢を考えると子作りは早いに越したことはない。
ベッドに並んで腰掛けて座る美里と雪人の二人。ただまだその距離は少し遠い。
「まあ、仕方ない、って言い方は気分が悪いかもしれないけど。母さんの望みでもあるしね」
「……マザコン?」
「言わんでくれ」
「んふふ。じゃあぁ、母さんと~、結婚、するぅ~?」
何故かもう一人、この場に並んで座るのは、雪人の母、雪枝。
ここに居ないのは美里の娘のアカネだけ。
「……その前になんでココに居るのか、教えて欲しいんだが?」
「決まってるじゃな~い。愛する恋人と、愛する息子が結ばれるのよ? ご一緒しなくてどぅするのよ~。それにぃ~、雪人ちゃん、こういうの、初めてでしょ? ちゃんと出来るように、お母さんがお手伝い、してあげる~」
母親同伴で、初体験……?
正直、母親と同年代の、年上の女性相手に緊張せず上手く立ち回れる自信など無い。あたふたして暴発するのが関の山だろう。
目的さえ達すれば、それはそれで構わないのだろうけれど、恥をかきたい訳でもない。
スマートにこなす事ができるなら、それに越したことはない。見栄もあるが、ここは大人しく年長者、経験者の指導を仰ぐのも、アリだろう。
「……よろしくお願いします」
ぺこり。
「じゃあぁ、最初にぃ、お母さんがお手本、見せるからぁ~、よぉ~く、見ててね~。アカネちゃんも、こっちにいらっしゃ~い」
呼ばれて、寝室の中へと入ってくる少女。
「いや、なんでアカネまで!?」
「アカネちゃんだけ仲間外れなんて、可哀想だもんねぇ」
「おほん。後学のために見学させてもらうわ」
アカネは恥じらいながらベッドサイドに座り込む。
「さあ、じゃあ、はじめるわよぉ~」
「雪枝さん……」
なんとも。
母に指導されながら。
母の恋人と。
そして、その母の恋人の娘であり、自分の姉でもある娘に、見守られながら。
初めてを経験し。
さらに、母の、母の恋人の願いを叶えるべく。
繰り返し、繰り返し。
そして。
時を、経て。
かくして。
百合の母達の乞うた願いは多少、形を変えてではあるが、みごとに遂げられ。
仲睦まじい姉弟の隣で可愛い子・孫をあやす母と祖母の姿は可憐でさえ、あった
……って、めちゃくちゃややこしいわっ!
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そして。
裏なろう原版からR-18要素をそぎ落としたら、半分くらいの量に落ちてしまった罠。
てか、まぁ、こっちがオリジナルで、R-18部分を足したのが裏なろう版だから仕方ナス。
今回、出戻りで、各所推敲して微修正していますが、本編内容は、当時のママ。
バドガからこっち読んだヒトは、何事かと思うだろうな(・・;