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百合の母達が子等に乞い願う~オリジナル  作者: なるるん
Side-Answer~子供たちの答え
2/3

01:話し合いで解決してみよう!?




「よし」


 しばらく考え込んだ後、少年はゆっくりと口を開いた。


「わかった」


「ホント!?」

「やった~」


 はしゃぐ母二人。


「ちょ!」


 複数の理由で顔を赤らめた少女が、非難の声を上げる。


 それを制して少年が続ける。


「とりあえず、同棲したい、ってところまでは、わかった」


「ぇ~」


 テンションを下げる母二人。


「母さんたちが同棲するのは、勝手にすればいい。ただし、俺はここを出て一人暮らしをさせてもらう。孫とかなんとかって話は却下だ却下。あり得ねえ」


「あ、あたりまえじゃない。そうしてもらえると助かるわ」


 少女は顔の赤いまま、援護する。


「ふっふ~んだ」


 得意げに腰に手を当てて少年の母親が言う。


「あなたが一人暮らしなんて、出来る訳ないじゃな~い。家はどうするの~。いくら安いアパートでも家賃なんて払える訳ないわよ~? それに~あなたの学校、アルバイト禁止でしょ~? そんなので生活なんて出来る訳ないのよ~」


 おっとりのんびりではあるが、諭すように語り掛ける母。


「そ、それは……」


 少年に算段があった訳ではない。常識的に考えて妥当な結論だろうと出しただけだった。


 少年は考える。何かいい手はないか。


 友人の家に泊めてもらう?


 ずっとは無理だよな。数人の友人をローテーションで……いや、だめだ。迷惑すぎる。


 どこかでテント生活? 通報されて捕まるのがオチか。


 当然、お金がなければホテルなども無理。


 ネットカフェなんかも同様だし、宿泊はおろか、深夜の利用もできない。


 あれ? 詰んでる?


 そうだ!


「車だ。寝る時だけは車の中で寝る様にしよう。それなら家の中に居なくて済むから気兼ね無いだろ」


「トイレはどうするのよ~」


「近くの公園に行く」


「春と秋はいいけど、夏と冬は地獄だと思うわよ~?」


「ぁ……」


 エンジンをかけなければ、車の中の空調は使えない。エンジンをかけると燃料の消費もあるし、騒音にもなってご近所迷惑になる。


「……」


「お部屋はね~、二人一緒のお部屋にしようと思うの~。そこでね~、愛を育んでもらうの~」


「大丈夫!任せて!母さんたちが手取り足取り腰と!レクチャーするから!」


 母二人、やる気満々である。


 頭を抱えて見つめ合う子供二人。


 どうするよ、これ。


 知らないわよ、あんた何とかしなさいよ。あんたの母親でしょ?


 いや、いや、半分はあんたんとこのお袋さんだろう。


 目と目で語り合う二人。意外と相性がいいのかもしれない。

 何に、同じ絶体絶命の境遇に置かれてシンクロしているだけかもしれないが。


 進展の無い話に策を練るためにいったん、クールダウンしよう。


「ちょっと、二人で話し合いたい。席を外してくれるか?」


 少年が提案する。


「いいわよ~。じゃあ、母さん達、晩御飯のお買い物に行ってくるから、その間に若い二人でごゆっくり~。うふふ~」


 仲良く腕を組んで連れ立って出てゆく母二人。


 残る子供二人。


「……どうすんのよ」


「……いや、どうしたもんかねぇ……」


 少女が母親たちが座っていたソファに移動して、向かい合わせになって話し合いを始める。


「あなた、彼女とか居ないの? 彼女のトコに転がり込むとか?」


「いねぇよ、そんなもん。そっちこそ彼氏の二~三人居るんなら、そこに身を寄せるとかできないのか?」


「二人も三人もって、無茶苦茶言わないでよ。一人だって居ないわよ!」


「いや、その見た目、スタイル……彼氏居ないとか、あり得なくね?」


「な、なによ。そんなコト言ったって何も出ないわよ」


 どストレートな誉め言葉に若干顔を赤らめる少女。意外と態勢が無いらしい。


「今日、初めて会ったけど、すっごい美人でビックリしたもんな。普通だったら一目惚れして落ちてもおかしくないレベル」


「だ、だから、そんなコト言ったって何もでないわよ!」


 さらに赤みを増した頬を膨らませて返す少女。


「だからこそ、さ。こんな美人さんと一緒に暮らすなんて、俺も自制心を保つ自身が無いし」


「そこは素直に認めるんだ……」


「ああ、だからこそ。俺が一人暮らしすれば、母さん達は同棲できるし、あんたも、他人が一人居ても女だけならまだ、気楽だろ?」


「そこも、否定はしないんだね。母さん達のこと」


「ああ。母さんには幸せになって欲しいからな。今日も『会って欲しい人が居る』って言われた時は、てっきり新しい旦那を連れてくるものだと思ってたからなぁ……」


「まさか、女性の恋人を連れて来るとは思わなかった、と」


「コブ付きとも思ってなかった」


「コブって言うな」


 シュガースティックの空き袋が飛んできたが、空気に押されてへにゃへにゃとテーブルに落下した。


「あなただってコブじゃない」


「……不毛だ」


「うん。建設的な解決案を考えましょう」


「そうだなぁ、母さん達を悲しませずに納得させつつ、俺たちも納得できる解決策、か……」


「んー…………」


「なあ、あんたん家のコト、聞いてもいいか? っと、その前にこっちの話をした方がいいか……」


「そうだね。情報が少なすぎるし、情報交換ってコトで。そっちからどうぞ」


 少年が、自分の母との暮らしについて少女に打ち明ける。


 母が自分を身ごもり、産んだ経緯。

 働きながら自分を育ててくれたこと。

 惜しみない愛を与えてくれたこと。

 ちょっと天然で間延びしたしゃべり方とか、安らぎを覚えていること。

 そんな母親を尊敬していること。

 父の存在については母に秘匿されていること。


 話していて恥ずかしいとは思いながらも少年は一気に語り終える。


 少女もからかうような指摘はせず、うんうんと頷きながら笑顔で聞き入っていた。

 少年が話終えると、今度は少女が話しはじめる。


「以下同文」


「は?」


「いや~、ほとんど同じだな、って、ちょっと可笑しくなっちゃった」


「そ、そうなのか?」


「うん。あ、でも、わたしの母さんは天然って言うよりは、おっちょこちょいって感じかな。しゃべり方はあんたんとこのお母さんと違ってテキパキハキハキしてる感じだし」


「ああ、そう言われてみると、そっちの母娘は、似てるな」


「そっちはあんまり似てないね?」


 クスリと笑う少女。


「こっちは反面教師、的な?」


 はは、っと少年も笑みをこぼす。


「でも、それ以外の境遇って言うか、環境?そういうのはほとんど同じかもね」


 少女が天井の明かりを見上げつつ、感慨深くつぶやく。


「そんな二人だから、気が合ったって事かな……」


 少年も、そのつぶやきを拾うと、少女と同じ場所を見ながら、つぶやき返す。


「何時から付き合ってるとか聞いてないけど、母子家庭の母二人、意気投合って言うか、支え合ってきた、とかかもね……」


 つぶやきで会話を続ける二人。


「……」

「……」


 わずかな静寂。



 リビングには外部の音が少しだけ届いて来る。


 自動車の走り去る音。


 カラスの鳴き声。


 布団を叩く音。



 そんな平和な生活音が(かす)かに聞こえて来る。


「ねえ!」


 平和をぶち壊して、少女が前……少年に向き直って言う。


「あなた、恋人居ないのよね? 好きな人とかも居ないのよね!?」


 勢いに押されて、少年も少女を見つめながら返答する。


「お、おう。居ない。うん、居ない居ないっ!」


 何度も強く肯定する。


「わたしに一目惚れしたんだよねっ?」

「え?いや、それは……」

「一目惚れしたんだよねっ!?」

「……いや、だから……」

「わたしもあなたに一目惚れした!ことにするから!」

「ぇぇ……」


 ナニイッテンダコイツ?


 少年は引き気味にソファにより深く沈む。


 それに対して、少女はテーブルに手を着いて、前のめりに続ける。


「母さん達の幸せを考えるなら、わたし達が折れるしかないじゃない?」

「それはそうなんだが」


「部屋が同じってのは断固拒否すれば大丈夫よ」

「そ、そう?、かな?」


「ん。さすがにソコは譲れないってコトで。もちろん、色々とルールは作らせてもらうわよ」

「あ、ああ……」


 あれ?


 なんか雲行き、怪しくない?


「それに、さ……」

「お、おう?」

「…さっきの話聞いて、さ」

「……おぅ」

「なんか、他人のような気がしないな、って」

「…………そっか」


 二人、また深くソファに腰掛けて天井の明かりを見上げる。


「前途多難だぞ?」

「うん。わかってる。えっとね、それじゃ……」


 母親たちが買い物から帰ってくるまで、二人は『情報交換』を続けた。

 主に、お互い自身の事について。


 やがて、母二人が帰宅し、子供二人の話し合いの結果を伝えた。


 母二人は抱き合って大喜びした。


 母娘の引っ越しもスムーズに、四人の生活が始まった。


 子供二人の主張で、さすがに部屋は別々にしてもらったが。


 数年後、結局、二人は一つの部屋で暮らす事になった。



 いや、三人で。



 百合の母達の乞うた願いは遂げられ、仲睦まじい両親の隣で可愛い孫をあやす二人の祖母の姿は可憐でさえ、あった。







<了?>







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