願い
もし、一つだけ願いが叶うとしたらあなたは何を願いますか?
過去の私はその問いに、なんと答えたのだろうか。
服を着ながら考える。
そもそもこんなことを考えるのは彩が変なことを言い出すからだ。
先程のことを思い出しながら心のなかで文句を言う。
「ねぇねぇ!もし一つだけ願いが叶うなら何にする?!」
3つ下の彩はいつも急に質問を投げかけてくる。
「一つだけ、かぁ難しいなぁ…そういう彩は?」
「私はね!一択!一生かかっても食べきれないぐらいのお菓子がほしい!!」
元気よくそう答えた彩にこれが若さか…なんてショックを受けながら彩らしいなと思う。
「いいね。それ」
「でしょでしょ!パフェとかークッキーとかーチョコとか!まるで天国みたいじゃない?」
パフェはお菓子なのかと心の中でツッコミを入れながら私は何がいいかと考える。
すると彩がなにか思い出したかのようにしまったという顔をした。
「あ!ごめん言うの忘れてた!店長がお客さんだって〜」
「まったく…それを先に言ってよね。ありがとう。」
どうやら店長から預かった伝言のついでにそんな質問をしたらしい。
質問を先にするのもどうかと思うが…とにかくいかなければ。
「質問の答え考えといてねー!」
後ろから聞こえてくる声に手だけで合図をする。
たしか昔も誰かにこんな質問をされた気がする。
いつも通り仕事を終わらし、あらためて考える。
ぱっと思いつくのはお金とか、彼氏とか、誰にでも思いつくようなものだ。
しかしお金なんて今の稼ぎで十分だし彼氏も今は必要ない。
(困ったな…欲しいものがない。)
ショッピングに出かければブランドのバックだとか、可愛いアクセサリーだとか、欲しいものなんて腐る程思いつくのに今はなにもない。
(そういえばいつからそんなものが欲しくなったんだっけ)
ブランドのバックなんてつい数年前は考えもしなかった高級品だ。一つあるだけで十分だと思っていた。
それが今やあれも欲しいだのこれも欲しいだの己の欲はとどまることを知らない。
そんな自分が醜く思えてしまうほどに。
(あ、そうか私が欲しいものって…)
少し考えれば答えのでる話だった。
一つだけ願いを叶えるのだから欲しいものでなくても良いのだ。
すると、タイミングよく仕事を終わらした彩がきた。
「決まった?」
「うん」
「ほんと!なになに?」
「綺麗だった頃の自分に戻りたい、かな」
まだこの世界を知らない夢と希望を抱いていた自分。
すると彩は目を丸くして言った。
「え!今のままでも十分綺麗だよ?」
彩のその素直さに少しだけ救われた気がした。
「ありがとう」
「いいよ〜それよりさ!さっきの客の愚痴聞いてー」
いつも通り話し始める彩。
まだ綺麗だった私は何を願ったのだろうか。
そんなことを思いながら汚く染まった空を見上げた