新たな人生の始まり
夜の闇…。俺はただひたすら歩いていた…。俺が磯部の家から逃げ出してから1週間くらい経つ…。服もボロボロで風呂にも入ってない…、食事もろくに採ってない…。膝の骨折は治ったが歩き続けてるせいで足が痛い…。「見つけたぞ。大柳仁平」俺の目の前に現れたのは賞金目当てと思えるチンピラ8人くらい…。それがわかり俺は構える。「間違いないようだな。勝負じゃあ~。」チンピラが襲いかかる。今は戦って切り抜けるしかない…。俺は疲労困憊しながらもチンピラを返り討ちにしたが後ろから一人がナイフを振るい俺の肩が切れた。俺はその一人を殴り倒した。「うぐっ!くそっ!」肩から出血し激痛が走った。「その体では戦えないな。」新たな賞金目当てが3人くらい…。勘弁してほしい…。「うるさい奴らだ…。どっか他の場所で喧嘩してくんないか?」今の声の主は白髪かかった髪をしたおっさんだった。「なんだぁ?おっさん」「それはこっちのセリフだ。わしの眠りを妨げた。」それからおっさんは俺の方を向き、「お前怪我をしておるのか。」「どけおっさん!」一人が殴ろうとしたときにおっさんは一瞬で12発以上のパンチを喰らわせた。「どうする?やるか」このおっさん…できる!?「覚えてろ!」賞金目当ては逃げ去って行った。「傷を見せろ。」「えっ!?」俺は少し戸惑った。「このままでは出血多量で死んでしまうぞ。」少し安心したのか?俺は倒れかかりおっさんが支えた。「大丈夫か?」「少し…疲れただけです。」「この先に古い空き家がある。そこで手当てしよう。」
空き家に連れられた俺は手当てしてもらい久々に食事をとり、風呂にも入った。「そういえばお前の名前聞いてなかったの。」おっさんは俺に問う。少し戸惑いながら「俺は大柳。大柳という。」名字だけ名乗った。「確か手配書にも同じ名前があったな。でも奴は稲妻の力があるらしい。まあお前は普通みたいじゃから違うじゃろう。まあ今日は寝るがよい。追われてたら寝れんじゃろう。」おっさんの言葉に従って俺は体の力を抜いて目を閉じて眠りについた。1週間ぶりの睡眠だ…。
次の日。目が覚めるとおっさん…いや、命の恩人の姿はなく置き手紙があり読んでみる。『大柳君へ。逃げてばかりの人生なんぞはつまらん。もし生き方を変えたいと思うのなら一歩踏み出してはみないか?わしは横浜バス停前にてお前を待つ。ボロボロの服では目立つじゃろうから着替えを用意した。』恩人のことが気になったので俺はそこに置いてあった紫のセーター、ブルージーンズ、黒い革ジャンに着替えて空き家を出た。手紙に書いてあった地図を頼りに俺はバス停へと向かった。バス停に着くと恩人は本当に待っていた。「よく来たな大柳君。」「あなたの言う人生が気になります。」恩人と一緒に俺はバスに乗って行った。東京に着いた。「ここって!?」「東京じゃ。近頃の人間は世界の中の狭い範囲の中で生きておる。」広い世界ということかな…?恩人は料亭に行きたいようだが道がわからんとか…。仕方なく俺は近くにいたスーツの男に声を掛けた。「すみません。」「はい。」男の姿に少し驚いてしまった。なぜなら男は多分俺と歳が近いと思ったからだ…。「えっと…。この名前の料亭知りませんか?」「それなら。」俺達は男に料亭に案内してもらった。「ありがとうございます。」俺は男に礼を言った。「まあいいさ。」男は俺に名刺を差し出して去っていった。名刺を見ると『博人。15歳』と書いてあった。15で会社員とはあまり聞かないな…。「さあ入るぞ。」恩人と共に料亭に入った。恩人の話では最近パートで美人姉妹が働いているとか?「いらっしゃ…仁!?」驚きが隠せなかった。その美人姉妹は義姉さんとドラちゃんだからだ!?「何だ?知り合いか?」「はい…。」少しの沈黙の後に恩人は気を利かせたのか、ドラちゃんを指名してトイレに向かった。今日は義姉さんは休みらしい。「仁…よかった。会いたかった…。」「ここで会うとは思わなかったよ…。」ドラちゃんはこれまでの経過を話した。私立の高校に行きたいが家計が苦しく働かざる得ない状況らしい。多分俺がバイトを続けても難しいだろう…。俺は恩人に命を救われここまで来たことを話した。そのとき下の階から大きな物音と悲鳴が聞こえた。「何だ!?」俺が驚くと恩人も 「さあ?ただ事ではないようじゃが…。」と続けた。「皆さん。下へは行かないでください。」店の人は俺達に言った。「どうしたんだ?」恩人は問う。「今店の女の子が嫌がらせされてまして…。」「男性の人達はどうしたんですか?」ドラちゃんが問う。「それが皆さん…厨房へ…。」店の人が言うと俺もドラちゃんも呆れてしまった。「お酒に酔われた客が暴れて手がつけられないもんで…。」「ここはお前の出番じゃないのか?」恩人は俺に聞いてきた。少し悩んで俺は下へと向かった。「やめてください。危ないですから…。」店の人は止めようとしたが「仁なら大丈夫ですから。」ドラちゃんは店の人を止め、「あいつはただの少年ではない。あんな酔っ払いなぞ素手で充分。」恩人も続けた。下に来た俺を見た途端女の子は逃げ出して酔っ払いは俺に襲いかかる。俺はしゃがみ、酔っ払いに飛び蹴りを喰らわせた。酔っ払いは倒れ、「さすがだな。」恩人は言う。「さすがね仁。」ドラちゃんは笑っていた。「ありがとうございます。では店の後始末がありますのでこちらで。」それから俺とドラちゃんと恩人の三人で飲んだ。(俺とドラちゃんは未成年だからジュースだが。)
一週間後。俺はある会社の前にスーツを着て会社を眺めていた。「今日からお前は社会人としてスタートするのじゃな。」恩人の言葉は俺にとって祝福に聞こえた。あの後俺は博人からもらった名刺を頼りに会社に面接を受けて見事に内定したのだった。面接はかなり緊張した…。『大柳仁平って今ニュースにでてますが?』「よく間違えられます。」『あなたは今15歳ですが?』「私は少しだけ東京で過ごして決めました。私は家族の為もありますが私自身会社員という仕事をやってみたいと思ったからです。」『サッカー部を中退されてますが?』「1日も練習を欠かさずに少し無理な練習をした結果、膝を怪我してしまいましたのです。」といった感じだ…。「もう一つ理由があってな。俺はここである男が来るのを待つ。」俺は恩人に言った。「ある男?」「俺の兄を殺し、俺の人生を歪めた男だ。」「では復讐のためにか?」「復讐でもない。俺は男として奴と決着を着けたい。」それから俺は恩人から「才能を磨き、拳にとらわれない視野を広げる。」ということを教わった。「それが今のお前のすべきことじゃ。大柳仁平。」何故俺の名を!?「わしは気づいてが手配犯が本当はどんな奴か…それを調べたかったんじゃ。安心しろ。誰にも言わん。」恩人が言った後、「仁。うちに帰って来てよ。」あれからドラちゃんは何度も俺に説得していた。「そろそろ帰ってやったらどうじゃ?」恩人が勧める。「そうだな…。あなたには本当にお世話になりました。」「これはせんべつじゃ。」俺は恩人から赤い装甲をもらった。こんなの着ることあるのか?まあもらおう。「さらばじゃ。」恩人は去っていった。俺は頭を深々と下げた後「さて。帰るか。俺達の家に。」俺はドラちゃんと一緒に磯部の家に帰った。今日から俺は学生を捨てて社会人、サラリーマン、会社員大柳仁平としての人生が始まった。