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桃農園

 今日からのチラシの準備が段取りよく終わった。開店まで少し時間があるので、幸仁は休憩室で向日葵が朝入れてくれたコーヒーが入るマグボトルを口にした。

「おい、佐山」

 自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには、いつもはあまり見せない険しい表情をした最上店長が立っていた。

「はい」

 サボるなと注意されるのかと思い、幸仁は身構えた。

「今から少し付き合ってくれんか」

 店長の雰囲気がいつもと違うなと幸仁は思った。店長のこんな表情はあまり見たことがない。サボっていると注意する時の表情とも、売上不振で部長に怒られている時の表情とも違う。

「今からって、店はどうするんですか」

「チラシの準備は終わったんだろ」

「ええ、まあ、終わりましたけど」

「じゃあ、後はみんなに任せておけばいい」

「今からじゃないとダメなんですか」

「ああ、今すぐだ。少しでも早い方がいい。あまり時間がないんだ」

 店長は幸仁に目を合わそうとせず、視線を少し下げて言った。

「はい、わかりました」

 幸仁は納得してなかったが、お世話になっている最上店長には逆らえない。

「悪いな」

 店長が幸仁の肩をポンポンと叩いてきたが、その時も店長は幸仁と目を合わそうとしなかった。

「一体、どこに行くんですか」

 幸仁が訊くと店長は下唇をつきだした。店長が困った時にする表情だ。答えにくいことのようだ。

「う、うん、そうだな、まあ、ちょっとドライブだ。ここから十分くらいのところに行くだけだ」

 店長と一緒に行く場所で、ここから車で十分で思い当たるのは、このホームセンターショーマンの本社くらいだ。

 幸仁がショーマンの本社に行ったのはこれまでに二回だけだ。一回目は正社員にしてもらうための面接試験の時で、その時も店長の車で連れて行ってもらった。二回目は採用が決まってから手続きのために一人で行った。

 なぜ、今から本社に行くのだろうか。本社の人間から自分のことで、店長は何か小言でも言われているのだろうか。しかし思い当たることはない。どこかに転勤だろうか、それにしては店長の様子がおかしい。転勤くらいなら普通に話してくれれぱいいことなのにと幸仁は思った。

「用件は一時間くらいで終わりますかね」

 幸仁は探りを入れて訊いてみた。

「う、うーん、そ、そうだな。そんなもんかな」

 店長はまた下唇を突き出した。

「わかりました」

 幸仁はマグボトルのフタをした。

「終わってから昼飯に旨いもんでも食いに行くか。奢ってやるよ」

 店長が無理矢理笑みを張りつけているのがわかった。

「何か大事なことなんですか」

「行けば、わかるよ。じゃあ、行くか」

 店長が車のキーを右手に持ってチャラチャラと鳴らした。

 それから車に乗り込み出発したが、車の中で店長との会話はなかった。車のラジオから明るく透き通る女性の声が流れていたが、その内容は幸仁の頭には入ってこなかった。幸仁は店長の顔を覗き見たが、信号で止まった時もずっとフロントガラスに顔を向けたまま、幸仁の方を見ようとはしなかった。

 車は大通りから左折し、道幅の狭い片道一車線の道を進んで行った。本社とは反対方向だった。今から本社に向かっているわけではなさそうだ。どうでもいいや、幸仁はそう思い、外に広がる田畑をぼんやりと眺めた。店長は車で十分と言っていたが、すでに倍の時間が過ぎていた。

 窓の外を眺めていると、幸仁にとって懐かしい白い建物が見えてきた。車はその建物の前を通り過ぎて、その奥にある駐車場に入っていった。店長は無言のまま空いているスペースにバッグで車をとめた。

「着いたぞ、ここだ」

 店長がエンジンをとめてフロントガラスに顔を向けたまま口を開いた。その声は掠れていた。

「店長、病院に何の用があるんですか」

 建物には『駿河総合病院』と壁に緑の文字で大きく書いてある。ここは幸仁と向日葵が生まれた病院だ。

 店長はしばらく車から降りようとはせず、フロントガラスに顔を向けたままだった。

「誰かのお見舞いですか」

「ああ、そうだ」

 店長はまだフロントガラスに向いたままだ。

「誰なんですか」

 店長はしばらく口を開かなかった。幸仁はじっと店長の横顔を見た。すると、店長の目が潤んでいるのがわかった。

「店長、誰なんですか」

 幸仁がもう一度訊いたが、やはり店長からの返事はなかった。よく見ると店長の分厚い下唇が震えていた。そして、どんぐりのような大きな目から大粒の涙が頬を伝った。

「フン、フフン」

 店長の鼻を啜る音が車内に響いた。幸仁は今のこの重苦しい雰囲気に耐えられなくなった。車から降りようかと思って、ドアのレバーに手をかけた。

「あそこが五一〇号室だ」

 店長のその声は微かに震えていた。幸仁が店長の方を見ると、店長は建物に向けて太い人差し指を向けていた。幸仁は店長が指をさす方向に視線をやった。

「五一〇号室ですか」

 首を傾げながら幸仁がそう呟くと、店長が勢いよく助手席の方に体を向けた。真っ赤になった目で幸仁をじっと見つめてきた。店長は急に幸仁の右手を両手で握った。分厚くて汗ばんだ手が幸仁の右手の自由を奪った。

「親父さんだ」

「親父さん?」

「そうだ。親父さんが、今ここに入院している。だから、今から見舞いに行こう」

 親父は怪我でもしたのだろうか、それとも病気だろうか。店長の様子を見ていると軽いものではない気がする。幸仁の心にズシンと重いものがのしかかった。しかし、はいそうですか、と言って親父の見舞いに行く気にはなれなかった。

「俺と親父はもう他人なんで、見舞いに行く義務はないんです。それに親父も俺に見舞いに来られても気分が悪いだけでしょうから、治るものも治らないですよ」

 幸仁は五一〇号室の方に視線を向けたまま言った。

「今はそんなこと言ってる場合じゃない。お前と親父さんは誰がなんと言っても親子なんだよ。血が繋がった親子なんだ」

 店長の目は血走り、幸仁の右手を握りつぶすくらいの力で握りしめていた。

「店長、とりあえず冷静になってください。それと、ちょっと痛いんで、この手を離してもらっていいですか」

 幸仁は自分の心が大きく揺れているのを隠すために、意識して平坦な口調で言った。

「あ、あー、悪かった。スマン」

 店長は幸仁の手を解放してからズボンの太もものところで手の汗を拭いていた。

「店長、親父がここの病院に入院していることはわかりました。けど、俺は見舞いには行きません。せっかく店長が誘ってくれましたが、やっぱり俺は親父とは二度と会いません。ほんと、すいません」

 幸仁は頭を下げた。

「会うだけでも、会っておけ」

「いえ、会いません。店長だけで行ってください。俺は、このままここから歩いて帰ります」

 車から降りようと助手席のドアのレバーを引いた。ドアを押して開けると外のムシムシした空気がボワーッと車内に入ってきた。車から左足を地面に着けたところで、幸仁の右肩に重たいものが載っかった。店長が幸仁の肩を右手で抑えつけていた。

「もう、長くないんだぞ」

 店長の声が震えていた。幸仁は振り向いて店長の顔を見ると、店長の顔はグシャグシャになり、目から涙がポタポタと落ちていた。

「長くない?」

 幸仁は呟くように訊いた。

「そうだ。親父さんは末期のガンで入院している。親父さんの意識があるうちに仲直りしておけ。もう時間がないんだ。縁起でもないことを言うようだが、今、親父さんに会っておかないと、二度と会うチャンスがないかもしれないんだぞ」

 幸仁は自分の体が熱くなっていくのがわかった。呼吸の仕方がわからなくなり、口にする言葉が浮かばない。頭が真っ白になり苦しくて思考することが出来ない。気づいたら、店長の手を振り払い、助手席のドアを大きく開けて外へ飛び出していた。

「おーい」

 店長の声が耳に飛び込んできたが、それを無視して病院の駐車場を走って出ていった。振り向くことは出来ず、何も考えることが出来ず、ひたすら走った。

 子どもの頃に見た親父の笑顔とさっきの涙を流す店長の顔が頭から離れない。それを振り払うために走り続けた。しかし走っても走っても親父と店長の顔が交互に頭を過る。二人の顔が頭から消えるまで走り続けるつもりだったが、苦し過ぎてついに立ち止まった。膝に手をあて、地面に向かってゼェーゼェーと喉の奥から激しく息をした。汗と涙がポタポタとアスファルトに落ちた。親父が末期ガン。なんでなんだ。親父はいつも強くて威張ってて頑固でムカつく親父でないとダメなんだよ。

 さっき、店長といっしょに親父の見舞いに行くべきだったのだろう。頭ではわかっているが、幸仁はベッドに横たわっている弱々しい親父の姿を見るのが怖かった。

 走ってきた道を振り返って見た。目の前に田んぼが広がり、その奥に駿河総合病院の白い建物が見えた。

「ウォー」と病院に向かって叫んだ。

 そこから重い足を引きずりながら歩いた。どこをどう歩いてきたのか記憶にないが、顔を上げると目の前に懐かしい景色が広がっていた。市民プールと公園だ。小学生の頃に友達から聞いた話を思い出す。父親にここに連れてきてもらって、キャッチボールをしたり、プールで泳いだりしたと、月曜日の休み時間に自慢気に話す友達が羨ましかった。幸仁は親父にこういう場所に連れて来てもらったことはなかった。

 親父は仕事ばかりしていた。親父に連れて行ってもらった記憶は親父が経営するスーパーミウラが契約している農園ばかりだった。朝早くから軽トラックに乗せられ、いろんな所に連れて行かれた。一番印象に残っているのは桃を栽培している塚原農園に連れて行ってもらった時のことだ。あの時は楽しかった。親父が格好よかった。もうあの頃には戻れない。


「今日、これから行く塚原農園さんはお前の爺ちゃんが見つけてきた農園だ。そこの農園の桃は甘くて美味しいんだ。幸仁も今日は収穫体験をさせてもらってから、美味しい桃を腹一杯食べさせてもらえ」

 親父は軽トラックを運転しながら助手席に座る幸仁の坊主頭に大きな手を置いた。

 あまり冷房の効かないガタガタ揺れる狭い車内だったが、親父と一緒にいるその空間はなぜか心地よかった。高速道路に入ると軽トラックのエンジンは激しい音をたてて苦しそうだった。車内にまで響くエンジン音のせいで、幸仁も親父も自然と声が大きくなった。何が面白かったのか覚えていないが、二人そろって車内で大笑いしたことを覚えている。

 軽トラックはその後、高速道路を降りて川沿いの道を走っていった。徐々に道幅が狭くなり、窓から見える景色は緑が深くなっていった。幼い幸仁はガタガタと揺れる助手席で深くなっていく緑を眺めた。明るい時間帯なのに、緑がだんだんと深くなり、周りは薄暗くて、映画の世界のような少し不気味な感じがしたが、親父が隣にいることで、恐怖心はなく幸仁は冒険しているようなワクワクした気分になった。山道を抜けると急に青空が見えて視界が開けた。軽トラックのフロントガラスから陽が差し込み、日差しの向こうに塚原農園の看板が見えた。

 駐車場に軽トラックを入れ、エンジンを切ってから、親父は「幸仁、お疲れさん、着いたぞ」と言って、左手を伸ばし首の後ろを軽く揉んでくれた。その大きな手が心地よかった。逆光で親父の表情は見えなかったが笑っているのはわかった。

 軽トラックから降りると、親父よりも真っ黒な顔をしたおじさんとおばさんとお兄さんがまっ白な歯を出して迎えてくれた。その隣で白くて大きな犬が吠えていた。

「社長、遠いところまで足を運んでいただいてありがとうございます。今年もよろしくお願いします」

 真っ黒な顔のおじさんが親父に右手を差し出した。

「こちらこそ、いつも美味しい桃をありがとうございます」

 親父はおじさんに右手を出しておじさんと握手した。それからしばらく、親父は農園のおじさんと難しそうな話をしていた。その親父の姿がかっこよかった。

「社長の息子さんですか」

 おじさんが親父の後ろに隠れるようにして立っていた幸仁の顔を覗きこんだ。

「ええ、息子の幸仁です。今日は、わがまま言って、息子を連れてきて申し訳ありません」

「いえいえ、私たちも社長の息子さんに会えるのを楽しみにしてましたよ」

 おじさんが幸仁の顔を見て目を細めた。

「幸仁、いつも美味しい桃をうちの店に納品してくれている塚原さんだ。挨拶しなさい」

 親父が幸仁の背中を押して前に出した。

「こ、こんにちは」

 緊張してしまい、俯いたまま小さな声しか出せなかった。親父みたいに胸を張ってかっこよくは話せなかった。

「幸仁くん、今日は桃の収穫を手伝ってくれるんだってね。本当に助かるよ。頑張ってくれな」

 おじさんが中腰になり、幸仁の頭を撫でた。

「はい、頑張ります」

 幸仁は恥ずかしかったが、出来るだけ胸を張ってからペコリと頭を下げた。

「手伝うというより、我々は邪魔になるだけかもしれませんが、今日はよろしくお願いします」

 親父は幸仁の頭に手を置いて、おじさんに向かって頭を下げた。幸仁も一緒に頭を下げた。

 それから、おばさんに桃の収穫のやり方を教えてもらいながら幸仁は桃の収穫を手伝った。しかし、桃を傷つけてしまったり、落としたりして、手伝ったというより、親父の言う通り邪魔をしただけかもしれないと子ども心に思った。けど、農園の人たちは、すごく優しかった。収穫が終わってから、幸仁は白い犬と野原を駆け回って汗まみれになった。

「幸仁くんも休憩しましょうか」

 おばさんが幸仁を呼びに来ると、白い犬はおばさんに向かって飛び跳ねていった。

「サクラ、幸仁くんに遊んでもらってよかったわね。だけど、幸仁くんはこれから休憩だからね。遊ぶのはもうおしまいよ」

 おばさんが白い犬の胸の辺りを撫でながら言うと、白い犬は「ワン」と吠えておばさんの前にお座りした。

「サクラ、今日はいい子ね。幸仁くん、お父さんは先に家の中で休憩しているから、幸仁くんもそろそろ休憩しましょうか」

 おばさんがそう言って歩きはじめた。幸仁は「はい」と言ってついて行った。サクラもおばさんの横を歩きながらついて来た。

「幸仁くん、今日は遠いところからありがとうね」

 おばさんは歩きながら幸仁に顔を向けて真っ黒な顔をクシャっとして笑った。幸仁は照れてしまい言葉を返すことなく笑みだけを返した。おばさんに連れられて塚原農園の家に上がると、冷房がきいていて体から汗がスッと引いた。

「おお、幸仁も来たか。ここに座れ」

 親父が自分の隣に敷いてある座布団を手のひらで叩いた。親父とおじさんたちはテーブルの周りに胡座をかいて座っていた。

 幸仁は「うん」と言って親父の隣に正座した。

 目の前の大きな皿の上には艶々と輝く桃が丁寧に並べられてあった。幸仁は座った途端にゴクリと喉を鳴らした。おばさんがその様子を見てニコリと笑った。幸仁は恥ずかしくて俯いてしまった。

「今年の出来もよさそうですね」

 親父が日に焼けた顔から白い歯を覗かせていた。

「はい。おかげさまで、今年も美味しくて甘い桃ができましたよ」

 おじさんは胸を張った。

「じゃあ、遠慮なくいただきます」

 親父はそう言うとすぐに、皿から桃を一切れ爪楊枝に刺して口に放り込んだ。咀嚼しながら何度も頷いて、「うん、やっぱり旨い」と言って、おじさんに笑みを向けた。

「いくらでも切りますから、腹一杯食べて帰ってくださいな」

 おばさんは陽に焼けた顔をクシャクシャにした。

「幸仁も食べてみろ。甘くて旨いぞ」

 親父が幸仁の坊主頭をくしゃくしゃと撫でた。

「うん、いただきます」

 幸仁も皿に手を伸ばし、桃を一切れ爪楊枝に刺して口に入れた。口に入れた瞬間、甘さの中に微かな酸味のある果汁が口いっぱいに広がった。これまでに食べたことのない最高に甘くて美味しい桃だった。それから幸仁は遠慮することなく腹一杯桃を食べた。

「父ちゃん、僕は桃が大好物になった」

 幸仁は帰りの軽トラックに乗り込む前に親父の顔を見上げて言った。

「そうか、それは良かった。俺はスーパーミウラを大きくする。将来はそれを幸仁が継いで、この美味しい桃をお客さんに届け続けてくれな」

 親父は嬉しそうな顔をして、幸仁の坊主頭をクシャクシャと撫でた。

「うん」と元気に返事をした。


 思い出しただけで、あの時の桃の甘さと微かな酸味が口の中に広がる気がした。同時にあの日の軽トラックの中で幸仁に見せてくれた親父の笑顔や農園の人と話しているカッコいい親父の姿が頭に浮かんだ。

 親父とは塚原農園以外にもブドウ農園やイチゴ農園、田植えや稲刈りにも連れて行ってもらった。幸仁の幼い頃の親父は仕事で忙しそうだった。

 親父に公園やプールに遊びに連れて行ってもらった記憶はないが、代わりに、農園などに連れて行ってもらった記憶は楽しいものばかりだった。

「幸仁という名前は周りの人を幸せにできる人間になってほしいと思って名付けたんだぞ」

 親父が塚原農園へ向かう途中、高速道路を降りてから軽トラックの中で話してくれた言葉を思い出した。

「周りの人を幸せにする?」

「そうだ。幸仁にはまだ難しいかな」

 親父がフロントガラスに顔を向けたまま言った。

「そんなことないよ。ちゃんとわかってるよ」

 幸仁は口を尖らせて言った。

「そうか、それならいい。今から行く塚原農園の人たちは、自分たちの収穫した桃を食べた人たちに幸せを感じてほしいと思って、一生懸命に桃を育てているんだ。幸仁もそんな農園の人たちの心を感じてほしいんだ。心のきれいな優しい人たちばかりだからな」

 あの日、塚原農園の人たちは幸仁に優しく接してくれた。甘くて美味しい桃も食べさせてくれた。親父の言う通り、塚原農園の人たちといると幸せな気分になれて、楽しい時間を過ごせると思った。親父は幸仁にも塚原農園の人たちのように、周りの人を幸せにする人間になってほしかったんだろう。

 やはり、店長といっしょに見舞いに行くべきだった。なぜ素直になれなかったんだ。これからどうしたらいいんだ。今から店長に電話して謝ろうか、それともこのまま職場に戻って仕事をしようかと頭を悩ませた。しかし、結局そうする勇気は持てなかった。幸仁は今日はこのまま早退させてくれと職場に電話をした。

 夕方まで、そこら中を徘徊した。どこをどう歩いたのか記憶はない。家に着くと、向日葵が「おかえりなさーい」と抱きついてきた。幸仁は、はじめて向日葵が抱きついてくるのを払った。

 向日葵は目を丸くして、幸仁をじっと見ていた。向日葵には親父が入院してることは絶対話せない。




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