丘の上の共闘2
撃ち落とした鳥人間が街の中心部付近で大人たちに囲まれている。榴弾装填まで25秒。
数名の悲鳴が響き、武器を持った大人が鳥ににじり寄っていく。20秒。
鳥はムクリと上半身を起こすと俺を見た。15秒。
マーカーが鳥に合い、収縮を始めた。鳥が大人たちから武器を奪い、大人たちを攻撃し始める。10秒。教会の窓に子どもたちが映った。猫耳の女の子もいる。修道女たちが避難させたのだろう。
鳥を囲むように大人たちが広がると、バサリと羽を広げた鳥が飛び上がる。5秒。マーカーが外れてしまった。
先ほどよりも高い高度で鳥が周囲に半透明の膜のようなモノを出現させ、今度は両腕を上に向けた。大人たちの放つ追撃は膜で弾かれている。盾のようなモノなのだろう。榴弾の装填は終ったが位置が悪い。ただ狙うだけでは阻まれてしまうだろう。貫徹できるかも分からない。
鳥の上空に先ほどよりも大きな火球が出現した。よく見れば膜の上部に穴が開いている。魔法を撃つために開けたのか。じわじわと大きくなる火球を見て、
砲身を鳥の上空へ向けて動かすと、鳥頭にマーカーが出現した。風の影響なのかマーカーが大きすぎる。絞りには時間がかかるか。大人たちが絶えず下から攻撃してくれて、鳥の注意を引いている。もう少し頑張ってほしい。
いくつかの建物の上からも攻撃が始まった。土塊のようで鳥の直下の大人たちが退散している。鳥頭の大きさにまでマーカーが小さくなった。火球が10メートルを超え、なおも大きくなっていく。大人たちの攻撃は効いていないようだ。
だが、鳥人間の膜を下半分に集約させる事には成功している。
「~~~~~~、~~~~~~~~~~~! ~~~!」
『くらえ!』
ドッ! という詰まった音とキーンという金属を叩いたような高い音が響いた。榴弾は排煙があるようだ。
放たれた榴弾が教会を越え、鳥人間に近づく。鳥人間が火球を下に動かし始めた。今さらだが榴弾って火球にぶつかったら爆発しちゃったりするのだろうか。
俺の心配をよそに榴弾は鳥人間に直上から当たったようで爆発が起こった。数秒遅れでブワッ、ドッ! という音が聞こえてくる。特大火球は次第に小さくなり消えていく。結構大きな爆発だった。煙が晴れたら鳥人間を探さないとな。榴弾を再度装填してっと。
『砲身が破損しました。再装填に失敗しました』
ぇ? ……えええ!? ああ、本当だ! 木製の砲身にヒビが入ってる! 榴弾1発で割れるとか聞いてないよ!? 無機物だからか痛みも感じなかったし……って直るのか、これ?
『改修が可能です。改修分岐を選択してください。口径/貫徹力/同時発射数』
修理みたいなものか? 今の俺とそれぞれの分岐先のホログラムが出現した。どれを選んでも外観は変わらないようだ。口径と貫徹力は分かるが、同時発射数って砲身数1でどうやって撃つんだ?
『同時発射数が選択されました。改修まで3000秒――』
――え? 選んでな……キャンセルできねー! 数秒見たら選んでしまうの、どうにかならないのか……。
『なりません。改修まで2988秒です。2987……2986……改修完了まで全ての行動が制限されます』
ブツンと意識が途切れる一瞬で「答えるんかぃ……」と意味も無くツッコミを入れていた。
「これが私たちを助けたと? ……ふむ。にわかに信じがたいが」
「ホント。でっかいドーンの後、なんか形変わった?」
「形?」
「昨日は木だった。今はカチカチ?」
「ほぉ……?」
なんか騒がしい。覚醒すると俺の周囲に10人ほど見知らぬ大人がいた。鳥人間と戦っていた大人たちと同じ服装に見える。ノピと修道女もいるな。ノピと話していた20代前半のキツネ耳女性が俺を覗き込む。砲身を覗こうとするので動くと「おぉっと?」と変な声が出ていた。ブロンドのポニーテールに琥珀色の目、170センチメートルほどのスタイル抜群なパンツルックだ。尻尾がブワっと広がった。上半身の胸当てに徽章がある。棒線1本に星1つ。他の大人たちは少し小さいのが付いている。階級章なのか?
『階級システムを導入しました。あなたは一等兵です。命令に準じた行動は補正されます』
「いっ! ったぁ……」
『砲身に触れたモノから魔力を徴収しました。魔力を蓄積/充填できます』
うぉ!? 急にウインドウが出てくるから砲身をビクつかせてしまった。ブロンド女性の頭にぶつかってしまったが不可抗力だ。
階級システムねぇ。一等兵って偉いのか分からん。語感は下っ端だが。
砲身が金属光沢を帯びている。砲身の真ん中にVと星が1つある。発射方向、ではなさそうだ。一等兵の階級章だろうか。同時発射数を選択したはずだが砲身は1つだ。
「誰かが操作したわけではないのだな。あれほどの火力を有した自立型魔導機甲兵装か……」
「壊しちゃうの?」
「いや、そういうわけではないのだが……持ち上がるか? ……ふむ。分解も試してみなければ――」
「ヤダ!」
「――あぁ、すまない。まだ何も決まっていないんだ。言語を理解しているように見えるが、はてさて」
キツネ耳女性の目引きで男たちが俺を持ち上げようとしたが動かせなかった。ノピが不安そうにしている。分解というワードが出た時、ノピの叫びもあり俺はビクついてしまった。
意味深な笑みを残してキツネ耳女性たちが去ると、ノピと修道女が近づいて来る。
「ありあと」
「ありがとうございます」
返礼に砲身を揺らして見せると半信半疑だった修道女も驚いたようだ。ノピの小さな手が俺の砲身に乗せられる。あぁ、撫でてるのか。細かい感覚は無いんだ。でも温かい手は嫌いじゃない。
少し時間が経ち、日が暮れた。夜は曇り空で月明かりも無さそうだ。装填しておいた発煙弾を人のいない方へ向け、なるべく音が出ないように撃っていく。煙で火事だと勘違いされても困るしな。
発射直後、砲弾は2つ同時に放たれた。横並びに飛び、ほぼ同距離に着弾した跡を確認する。発煙弾に攻撃力は無さそうだ。人に直撃すれば昏倒しそうではあるが。先の鳥人間には、あまり効果がないだろう。榴弾も撃ってみたいが、発煙弾より音が大きい。ノピたちを驚かせてしまうのは避けたい。
砲弾の換装をしながら夜が明けるのを待つ。砲弾2発を換装するならば倍速で換装速度が上がるのかと思ったが、そこまで実感めいたものは無かった。
発煙弾と榴弾は使ったが、照明弾ってどこで使うんだろな? 夜に撃ち上げれば明るくなるはずだけれども、何も無い今使うのは迷惑なだけだろう。んー、何か使う場面でもあれば……。
ん? 何か視線を感じると思えばノピが教会の窓から見上げている。砲身をブオンブオンと大きく振ると手を振り返してくれた。口パクでおやすみと言っているようだ。良い夢を見るんだぞ。
住民が寝静まった深夜。裏通りを誰かが走っていく。フード付マントで大まかな体型しか分からない。しばらく見ていると屋根に登って南へ駆けていく。ちょうど照明弾が装填された今、マーカーを合わせて撃ってみても良いかもしれない。
『マーキングが完了しました』
お? 照明弾はマーカーを合わせ続けるとマーキングするのか。不審者にしか見えんし問題ないだろう。
ドン! と詰まった音が響いて数秒。街の南側上空に小さな光源が発生した。大量の煙を吐きながらパラシュートで降下してくる光源は、不審者にスポットライトよろしく照らし始めた。身構える不審者。起き始める住民。
再度、走り始めた不審者は光に照らされ続けるために屋根から下りた。しかし照明弾は不審者がいるらしい方向を照らし続け、南の一際大きな屋敷を照らしたところで地面に落下してしまった。30秒も持たないな……。マーカーは維持している気がするし、2発目3発目と撃てていれば追跡できたのかもしれない。装填速度を上げていこう。
ざわつき始めた住民をよそに、俺は換装を再開した。