表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

雨天決行

 魔力回路を流れていく魔力はどこへ行くのだろう。回っている間に霧散するのかな。視覚化され遠くへ行った青白い燐光は丘に戻ってこない。俺の見えない所で爆発していなければいいが。

 街の人口は1000人ほどいるようで、全員から魔力を1ずつ徴収すれば無理のない運用が可能らしい。

 とはいえ徴収可能範囲は教会を越えた道辺りがやっとなので、通行人は少なめ。大通りまで広げなければジャブジャブ使えない試算だ。少ないお金をやりくりしているみたいで社会人1年目かと、溜め息が漏れた。息してないけど。


『魔力回路は正常に機能しています。

 兵員等の余剰魔力は備蓄され、■■■■時に魔力回路を■■し使用します。』

「余ってるなら使っても」

『任意の使用はできません。』


 なんだかなぁ……。爆発の危険は無さそうで、カツカツに見えた魔力も余剰分があるようで。使えないみたいだけど。階級が問題なのだろうか。昇任していけば開示されたりするのかもしれない。




 朝から少しずつ雲が多くなってきた。灰色から黒い雲へ変わっていく雨模様を見て、住民の足も早まっていく。ゴロゴロと音が聞こえる。降りそうだ、と砲口を下げて砲塔の扉を閉めたところでポツポツと降り出した。

 野ざらしな自身を雨から守る術がない。異世界の雨は酸性ではない事を祈るしかないな。ずぶ濡れでも風邪をひかない点だけは砲台になって良かったかもしれない。

 慌てて洗濯物を取り込む者、雨を喜ぶ者、雨の中を走り続ける者……400メートルトラックを走り終えそうだ。ん? 兵舎の近くを通ったの(あれ)はノピと3曹と金髪の大きなモノをお持ちの女性……誰だろう。長い髪を一括りにしてノピと並んでコーナーを回っていた。

 運動場の片隅には、いつぞやの黒豹みたいな子もいる。胸に手を当ててシュンとしているが、君には君の良さがあるはずだ。めげないでほしい。

 3人が白線へなだれ込むと雨の中にもかかわらずノピと金髪の子は膝をつき、3曹は息を整えながら2人の近くを歩き始めた。何を話しているかは聞こえないが、険悪な雰囲気では無さそうだ。金髪女性がノピに箱を渡して兵舎に歩いていく。物を賭けていたのだろうか。






「で、ノピ。何をもらったんだ?」

「……もらったんじゃないよ」


 ノピの持参した箱から取り出したのは、落書きされ破損した(いつもの)ラッパだった。

 いじめ。異世界にもあるんだな、などと冷静に考える頭は金髪の子へ撃ち込む砲弾を換装の段階で留めている。今の自身は兵器だ。いじめの報復に使うべきでは、ないだろうなぁ。ノピも理解しているようで唇を噛んで堪えている。


「ノピは、どうしたい?」

「どうって……?」

「相談くらいは乗れるぞ」

「うん、ありぁと」


 心なしか表情が綻んだようで、ノピは床から突き出た座椅子型モニュメントの上にラッパの箱を置いた。

 足を投げ出すように座り、後頭部をモニュメントにのせたノピがつぶやいた。


「どうすれば良かったのかな……」

「話し合いでダメなら無視するか他人を巻き込むか実力で分からせるか」

「聞こえないフリをしたら隠されちゃったし、他の人を巻き込むのも……」

「実力で分からせるしかないか?」


 本当は他にも手はあるはずだが、あえて示していない。ノピは実力行使を望まないようだ。唸るようにして考え込んでいる。敷いたレールを歩くのも良い。でも自ら考え行動に移してほしい。要は自分でヤレって事だから無責任と言われても仕方ない。そもそも責任なんて無いしな。


「……ふぅ。できる事から始める。手伝って」

「おぅ。何から始める?」

()()()()


 憑き物が落ちたような笑顔で言うと、ノピはラッパを片手に教本をめくり始めた。話し合いではなく調べ物だろうか。

 号令のページからいくつか抜粋し、にこやかに告げてきた。


「ひとつめ。覚えて」


 ノピを怒らせた相手に同情しつつ、譜面と打ち込むタイミングを覚えていく。曲射で照明弾をグラウンド上空へ、か。魔力充填も指示されるが一度充填したら撃たなければ……。


『照明弾を追加します。最も近く魔力量の高い目標を選定しました』


 あ、あぁ。イジメの報復に別の敵を殴りに行くスタイル……良いのだろうか? 選定された目標は見えない。街中にいないならば、山を越えた先の谷の敵か? 撃ち漏らしでも残っていたかもしれない。

 ノピは、相手が消し飛ぶ事を想定しているのだろうか。


「ふたつめ。覚えて」


 一定リズムのモールス信号のような単調な音の連続。雨音と砲台を叩く水音を合わせた雑音を聞きながら、不幸な人物へ照準を合わせていく。窓から覗いた顏は退屈そうで、すぐに見えなくなってしまった。砲台の旋回音は雨音に消え、照準付近の魔力回路が勝手に組み代わっていく。


『人を撃てますか?』


 ……嫌な質問だ。通常の照明弾で死ぬことは、あー、砲弾が直撃したら死ぬか。しかも今は充填済みだ。四散してしまうかもしれない。至近弾でも街中では狙い所が難しい。


『構成中……構成中……

 人を守りますか?』


 守る、か。ノピは守りたい。連続した質問に何の意味があるのだろう。撃つか守るか。他の選択肢もありそうだ。


『選別は、なされました。 決 行 し ま す 。』


 メッセージが表示された直後、視界が暗転した。振動と短い音が散発的に聞こえる。


『目標を破壊しました。

 砲台が破損しました。

 司令部内の目標を破壊できません。

 魔力回路が暴走しました。    』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ