質と慈悲
東の山の向こうへ飛ばした照明弾が消失した。敵に撃ち抜かれ、残る1発も今狙われている。兵員が増えた俺は余力を残す事よりも脅威を排除する事を優先した。
魔力40。10も込めれば倍以上の爆発範囲となる青白い力。損傷を覚悟する間もなく積層魔力回路へ一気に流し込んだ魔力が、青白い燐光を撒き散らしながら揚弾され装填される榴弾へと充填されていく。
銃を照明弾に向ける男の顏は泣きそうだった。手は震え、汗がにじむ顏と血走った目。
マーカーが男を捉え縮んでいく。俺と男は、ほぼ同時に撃った。
男の巨弾は照明弾を圧し潰し、街の北東の山へ着弾。俺の榴弾が男を捉えたかは、視界が閉ざされ分からない。すぐに次弾……照明弾へ換装。
ドッ、と詰まった音の後、地面を揺るがす振動が街を襲う。東の山の向こうに発生した爆風が、土や岩や木々を巻き上げ街まで押し寄せる。
ブシュゥゥゥ! と砲塔から上がり始めた蒸気が爆風で流されていくと、遅れた指揮官ルアネが駆けてきた。
「状況は!?」
「敵魔導機甲兵装を発見、ヨシダホウの提案で呼集を実施。直後、射撃開始。敵からの攻撃があった模様。被害不明……外を見ます」
「ヨシダホー! 状況を! ノピ、伝えてくれ!」
「ぅ、え、ぇっ……」
「ノピ、訓練通りやるんだ! 彼の声を、私に、伝えてくれ!」
司令部の机の影で縮こまっていたノピを、下りてきたルアネが揺り起こす。完全に委縮しきったノピは俺の声も聞こえていないだろう。ルアネもノピを頼るが、砲塔内ならば俺の声が届く事を失念しているようだ。
簡潔に状況を説明しつつルアネから魔力を徴収する。魔力4では充填できないが、頭に血が上った指揮官には良い薬だろう。
照明弾を装填し終えると、もうもうと上がる煙に向かって撃ち込んだ。再度、榴弾へ換装しながらルアネに話しかける。
「もう一度、照明弾を撃って視界を確保した。敵は10。撃つ度に減っている。距離13.4。射程が街付近まで来ていたから撃った。あとで山の被害は大人たちで調べてくれ。」
「減っている? 今は何人だ?」
「……1。小さい銃が見当たらない。あれは危険だ」
俺の砲身の動き等を見てルアネがメモを取っていく。距離の単位や照明弾での視界確保など質問されたが、マーカーを残りの1人に合わせる事に注力する。背嚢で軽傷に抑えた男は北東を見て駆け出したから。土煙の合間に見えた拳銃は青白く光って見えた。
合わせたマーカーがなかなか収縮しない。やはり損傷が大きいようだ。男が拳銃を拾い上げ、照明弾に向けて腕を上げたが今度は撃ってこなかった。撃つほどではないと判断したか、それともヒトが少なければ撃てないか。何にせよ視界を潰されなければ狙いをつけられる。
『積層魔力回路が3層、砲塔の約40パーセントが損傷しています。魔力 10 の充填のみ可能です』
「ヨシダホー入るぞ。何が起きとるんじゃ?」
「射程13……この距離を撃てるのは、イトウか? しかし被害規模や射程は……」
曹長が砲塔に入った。1曹に状況説明を受けている。ルアネは敵の推定を急いでいるな。俺の視界を共有出来たら早いんだが。
『ぁ、できますよ? 特殊作戦司令部横壁に投影します。消費魔力は 1 です』
「!? これは、ハガクフルか? 何と戦っている? ……イトウか」
「イトウ マサルですか。山の向こうの状況なのだとしたら、戦争が一変しますよ……」
視界共有できるんかい。血だらけの男が壁に映し出されると、ルアネたちはそれぞれ考察を始めた。ノピだけはビクつき、口に手を当てている。気分の良い映像ではないが我慢して欲しい。
2回目の榴弾発射。まるで発射を見ていたかのようにルアネたちが考察している映像内、男が銃をあらぬ方向に撃った。先ほどよりも小さい弾が映る。13キロも離れたところの発射とほぼ同時に反応するなんて異常だ。即応弾を装填する。弾は小さくとも街に着弾したら大変だ。
ドッ、オン……ォン……
街から視認できる高さで撃ち抜かれた榴弾が爆発し、音が響いてくる。直後、街に近い木々にぶつかり跳ねる巨大な弾の残骸が散らばった。
マーカー内に着弾した榴弾の片割れは拳銃をかすめたように見えたが、破壊には至っていない。10メートルほど離れたところに、グリップを貫通されて転がっていた。自身を使うヒトを吹き飛ばしてでも生き残る策を選ぶとはな……。俺が同じ状況だったらどうしただろう。
「終わった、のか?」
「近くに人はいない。でも気をつけてくれ。近づくと魔力を吸われるぞ」
「そうだな……大隊に連絡しておこう。1曹は報告書の作成、曹長はノピを見てやってくれ」
『魔導機甲兵装を破壊しました。階級が上がります。
本プロセス実行のため、魔力回路の使用を制限します。6:00:00
特殊作戦司令部の機能は制限されます。』
ガコン! と砲身を支えられなくなり意識が薄れていく。緊張の糸が切れたか。ルアネたちが俺に話しかけてくるが、今は眠いんだ……。
体が造り替わる感覚。一回り大きくなる意識はあるが、動かそうにも動かない。真っ暗な視界は夜だからか布でもかけられているのか。やけに騒がしい。ルアネたちなら5人程度だろうに20人は、いそうな雰囲気だ。
積層魔力回路の感覚が戻って来た。司令部に近い部分は機能している。他は損傷しているか。階級が上がっても治らないようだ。ぁ、階級。一等兵から何に上がったのだろう。上等兵か伍長か特技兵か。
お、砲塔の感覚が戻って来た。Vと弧を合わせたような形が砲身に浮かび上がっていく。
『積層魔力回路3層が損傷中。あなたは3等曹です。11人を兵員に登録できます。
特殊作戦司令部より受けた命令遂行に補正がつきます。
射程圏内の兵員の現在地を探知できます。
改修が可能です。改修分岐を選択してください。口径/同時発射数/積層魔力回路/連装化』
階級は3曹。2つは上がったのか。期間や試験ではなく実績で上がるのだろうか。兵員の現在地を知れるのは良い。ノピの位置を目視で探すのはモヤモヤしてたんだ。
そして改修。選択項目は若干変わったか? 損傷した積層魔力回路を直す必要があるだろう。魔力回路を何度も選択しないようにできないものか……他の項目を選びたいんだけどなぁ。
『積層魔力回路が選択されました。魔力回路および砲塔が再形成されます。
範囲内に兵員以外を確認。不足分の魔力を徴収します。
改修まで3600秒。3599、3598……改修完了まで全ての行動が制限されます。』
起きて早々だけど、また動けなくなった。バタバタと倒れた人たちをルアネたちが介抱しているようで、アレコレ指示が飛んでいる。
『改修が可能です。改修分岐を選択してください。口径/同時発射数/連装化』
……あれ? 今しがた選んだよな? あ、項目から積層魔力回路が無くなってる。口径は、あの拳銃みたいな事になりそうだし、やめておこう。同時発射数と連装化……今2発同時発射だから3発になるのだろうか。連装砲は単純に砲身が2門になる、ん? 2X2で4発同時か? 連装砲の方が良さそうだ。
『連装化が選択されました。砲身が追加されます。徹甲弾が配備されます。
改修まで7123秒。7122、7121……改修完了まで全ての行動が制限されます。』
何だろう、合掌していた手と腕が分かたれるような……動くようになったらそれぞれの砲身を別々に動かせそうだ。うーむ、装填も換装も揚弾もできない。司令部の照明をオンオフしても意味がないしな。
メキョメキョと砲塔が変わっていくのは変な感覚だ。
「ヨシダホウ? 何が変わった?」
「……砲身が、分かれ、た? 2発が4発に……?」
「ん? 何だ、こんなデカイ弾ここにあったか?」
「ありませんでしたね……形状から破城槌のようにも見えます」
「こんなのぶち込まれたらハガクフルの外壁もひとたまりも無いじゃろな……」
あるぇ? 戦況図前に徹甲弾が数発配置されたぞ? 何でだ?
50口径20.3センチ連装砲
九一式徹甲弾――ボートテール型 射程27400m




