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席に座るということ

 ゴゴゴゴゴゴゴ


 丘に立つ3人がたたらを踏む。お、ぉ、ぉお? 砲塔下部が西へ伸びたようだ。戦艦の弾薬庫か。広さはあっても俺に積載する砲弾は無いんだが。

 「席を用意した」とあった席は、ノピが落ちた所であり揚弾する場所の直下だった。角張った外観は正しく『墓』で「モノリス」で座椅子で……どちらから打ちかかるのか分からない垂直な壁だ。長時間、背もたれにはしたくないな。


 ガコン……ブシュ――――……

「……揺れは治まったか? ヨシダホー、どうした? 故障か?」

「中に席ができたって」

「席? 私たちの席か?」

「分からないって」


 兵員4人に1席。兵員の再配置が必要だと書いてあったが本当にルアネたちの席なのだろうか。人数分の席が出てくるべきではないのか。


「ニオイは……問題ないな。下りてみるか?」

「待て。エルンストに調べさせよう」


 曹長が砲塔扉から漂う蒸気に鼻を鳴らして言った。危険察知にニオイは重要な要素だ。もし腐った卵のニオイがしたら近づかない方が良い。だが曹長は入ってみたいようだ。ルアネは1曹を待てと止めている。お預けをくらった犬みたいだな……。まぁ砲塔内が毒ガスで充満していたら誰もいられないのだから安全ではあるだろうが。







「……私は測量特技であって毒物は埒外(らちがい)ですよ?」

「経歴は読んだから知っているぞ」

「さいですか」


 曹長を探しに来た1曹に計測器を取りに行かせ、戻ってくると量り始めた。夕方には砲塔下部まで調べ終わり、特に問題が無かったようだ。「よし、戻っていいぞ―」と砲塔外から声をかけるルアネに曹長もノピも「えぇ……」という顏をしている。用が済んだら帰っていいぞは、ダメだろ……。

 1曹もため息をつきながら帰るようで魔力は徴収しておいた。曹長が砲塔内を下りていく途中、火を灯しているのを見て、ふと思う。砲塔内の換気ってどうなってる? と。曹長も下りてしばらく経ってから気づいたようで火を消し、一度外へ出た。


「換気しないと息できなくなるって」

「だな……入る前に言ってほしかったぞ?」

「よっと……いや、入ったのワシじゃろ」


 今気づいたのだから仕方が無いだろう? 意味ありげに視線を向けるルアネを無視し、砲塔から顔を出した曹長をも無視する。

 ん? 丘の南西から数名の白い胸当てを着けた大人たちが歩いてくる。見たことが無い屈強な奴らだ。確か第1中隊が街の防衛で第3中隊が裏方だったはず。何となく雰囲気が異なるこいつらは……。


「よう、筒磨(つつみが)きの諸君」

「……フレデリック・デランヂェーン。何しに来た? ここは特別砲撃隊の訓練中だ。出て行ってもらおう!」


 フレデリックと呼ばれた貴公子風のキラキラエフェクトが幻視できる20代男性に、ルアネが吠える。銀髪をかき上げ、青い目は下衆な視線を上からルアネに向け「姫様は俺たちのために筒で訓練中だとさ」とニマニマ笑う。


「ゲスが……」

「中隊長同士、仲よくしようと言ってるだろう?」


 顔を伏せ立ち尽くすルアネに手を回し(もてあそ)ぶ。いつものルアネならば、もっと反抗するだろうに。優男はルアネの弱みを握っているのか? 曹長たちも動かないのはなぜだ? やらないならば俺が……。


 ガキィン!

「おっと? 驚きました。魔導機甲兵装でしたか……ほぅ? 興味深い」


 くっそ! 旋回角が足りない。砲身を上に向けても後ろは向けない、とガチャガチャ音を立てる俺にフレデリックは近づき砲塔内を下り始めた。第2中隊の面々は呆れた様子で、曹長たちは互いに目を合わせて心配そうだ。有害かもしれない砲塔内に真っ先に進入するなんてな。

 下りきった所で「暗いうえに何も無いな……何だコレは?」と席に触れた。


『砲塔内に兵員がいません。

 砲塔最下部に兵員以外が侵入しました。対象の魔力を徴収し排出します。

 席は兵員のみ着席できます』


 ゴッソリと魔力を抜かれ席に倒れ込んだフレデリックは揚弾同様に持ち上げられ、砲塔外へと排出された。ノピたちしか座れないらしい。とりあえず尊い犠牲のおかげで、砲塔最下部は兵員であれば問題なさそうだ。

 突っ伏した搾りカス(フレデリック)を第2中隊が回収して去っていく。何がしたかったのか。魔力は4増えたので赦してやろう。


「ヨシダホー、感謝する……」

「砲塔内は部外者立ち入り禁止だって」

「フッ……そうだな。曹長すまない。ノピも済まなかったな。あれが噂の第2中隊だ。大隊長の息子でなければ殴ってやったんだがな……」


 ウワサって何だろう。ぜひ教えて欲しい。直属の上司の子どもを殴れないのは、分かる気がする。異世界にもドラ息子はいるようだ。フレデリックにお為ごかしを言う輩も信用しない方が良いだろう。それと自身の体内に入るのは信用した者のみにしたい。


「ホッホッ、さながら秘密基地じゃの」

「汚したら絞りカスって」

「うぐっ、1曹が掃除するじゃろ」


 曹長が砲塔に入ったら食べカスをポロポロ落としそうだから釘を刺しておく。掃除を1曹にさせようとする辺り、ジト目を送りたい。

 ノピたちが砲塔内に置く物を取りに行くらしく丘を下りていく。少し寂しい。

 東門を行き来する人の流れを見ながら黄昏ていると、雲の向こうでチカっと光った。すぐに別の雲に隠れてしまったが月や星ではなかったような。魔物か鳥かそれとも島でも浮遊しているのだろうか。しばらくして雲が通り過ぎた空に、先ほどの何かは見当たらなかった。見間違いか?





「……机と椅子5つ、本棚と長い布。お姉ちゃん。この布、何に使うの?」

「ん? あぁ、戦況図や資料などをまとめる時にな。ちょうどよく上まで何も無いから、そこに座って見やすいだろう?」

「どうやって留めるの?」

「え?」

「え?」

「いや、ワシを見るなし」


 ハシゴを持って砲塔内に下り、垂れ布を留める作業を当然するでしょ? と言わんばかりに曹長を見たルアネ。曹長は及び腰だ。1曹は黙々と備品を組み立てている。

 発射の反動や排風が砲塔内に及ばないのでいいんだが……司令部機能を砲塔内に収めるのはどうなのだろう。敵の攻撃が直撃すればケガはもちろん、生き埋めになる可能性もある。頭上を守るモノが必要だろう。


「照明と送風は終わったか? ……よし、起動だ」

「わぁ……♪」


 ハシゴ横の拳大の石からテープライトのようなひも状の線が砲塔最下部を一周している。ルアネの合図で曹長と1曹が照明と送風機を起動すると、数十もの小さな明かりが空間を照らした。文字を読むのに支障は無い明るさだろう。送風機も同様に床に置かれた石から砲塔外へ線が伸びている。さすが異世界。エアコンの室外機のようなモノは不要なようだ。線に沿って風が流れる仕組みなのだろう。誰か解説してほしい。ノピ、聞いてみてくれ。


「仕組みが知りたいって」

「魔導管に魔力を通して長時間魔法を維持する仕組みだから、魔石の加工で排出量を一定に保つ事で半日持続できるようになった……だったよな?」

「姫が……あの姫が、まともな事を言っている、だとっ!?」

「夢でも見ているようです。あの姫が……!」

「お前ら……おっと♪ こんなところに道具が(ケンカなら、かうぞ?)♪」


 ルアネが急に真面目な解説をするからビックリした……。でもおかげで仕組みは何となく理解した。砲塔に接した魔石に魔力を込めれば、ずっと照らせるわけだ。


『特殊作戦司令部の設置を確認しました。10人まで兵員の増員が可能です。欠員は無作為に選出されました。

 魔力回路が拡張されました。積層魔力回路から魔石への魔力充填が可能です。

 砲弾の弾種が更新されました。』


 砲塔最下部が司令部となったようだ。兵員は4名だったはずで、6人が勝手に選ばれたと。まぁ魔力が徴収されるだけだし問題ないだろう。俺に接している魔石へと魔力充填ができるようになった。送風の仕組みも紐づけされているようで、快適司令部生活を支えてあげるようにしよう。


特殊作戦司令部(Commandement des opérations spéciales 略称::COS)

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