本格始動
5日。何も無かった。嵐の前の静けさと言える平和な街の景色を見ながら装填と換装を繰り返し、兵員がいなくとも24秒を切れるようになって。ヒマだ。誰でもイイから来てほしい。俺に近づいたら魔力を徴収されるからって、全く近づかれないのも悲しいなぁ。特別砲撃部隊の面々は教会付近まで来るが、俺の徴収範囲を知るための縦列行進の後から明らかに距離を取られている。
それでも魔力は60貯まり、砲身に魔力を流してみると撃たなくとも消費するようなので実戦まで封印することにした。
お? 東から馬車が駆けてくる。巨大ムカデは出てこなかったのだろうか。追いかけられているが、馬車から放たれた魔法で十分迎撃できている。
街に着く頃には撒けたようで……門の辺りで揉めているようだ。発煙弾から照明弾に換装しておこう。
「よし、というわけで。この辺りの敵を撃ち、孤立した商人の護衛を守るんだ」
何が、というわけでだ。ルアネがノピとともに駆けてきたと思ったら難しい注文を言ってくる。照明弾で見える範囲と時間にも制限があるんだぞ? とルアネの見せてくる地図を見ながら思う。俺たちのいる街の東側――南東から北東のみが描かれている地図だ。
んー? 東の山の向こう、谷の向こうで孤立したのか? とりあえず最大射程で確かめてみるか。
照明弾を撃ってすぐ榴弾へ換装しマーカーを動かしておく。ルアネとノピから魔力を徴収して67。
ぁー……山を越えてすぐの1人は岩の上に逃げたが追いつかれてダメだな。木の上の1人は無事。谷を落ちた1人は崖にしがみついている。灰褐色の異形が集まっている洞窟の入り口は……3人が粘っているようだ。3人からかな。
『積層魔力回路へ魔力 10 を充填します。射撃には軽度な損傷を伴います。』
「早速撃つのか? ……よし、撃てっ!」
『命令に準じた行動により補正されます。』
マーカーが洞窟前の集団に到達してすぐ急速に収束した。魔力が充填され、砲口から青白い燐光が漏れていく。砲身を微調整した俺を見て2人が耳に手を当てて退避した。
放たれた2発の砲弾が一瞬で見えなくなると、数秒でマーカー内に着弾。洞窟入口を削るように着弾したようで土煙が立ち上っている。再装填しながら照明弾にも気を払う。もう1発いけそうだ。
「どうだ、やったか!?」
2匹撃ち漏らした。洞窟内の3人は見えない。次は東の山を越えてすぐの1人に群がる異形たち。口元を赤く染めた灰褐色どもが遠吠えをあげている。10秒。
お、洞窟から1人が出てきて撃ち漏らした2匹を叩き切っている。大丈夫そうだ。崖の1人は任せよう。
食い散らかされた1人の辺りの灰褐色どもが数匹ごとにまとまり、融合していく。ヒトの腕が生えた狼、肌色の足が生えた鳥、胸当てを丸飲みした蛇……。見ているだけで吐き気がしてくる光景だ。伝わってしまったのかノピの顏が青ざめている。装填、終わったぞ。
「人に群がってる? ……装填、終わったって」
「大丈夫か? ……よし、撃て!」
『積層魔力回路へ魔力 20 を充填します。射撃には軽度な損傷を伴います。
命令に準じた行動により補正されます。』
瞳孔の開き切った目を喰らうと灰褐色の異形は一回り大きくなり、触れた他の異形を取り込んでさらに大きくなっていく。マーカーで捕捉しやすくなった異形に収束を待たずに発射する。充填した魔力は20。さすがに損傷が出てくるようだ。
反動が強く、砲塔内にガキン! と金属音と摩擦音が鳴った。バックファイアで砲塔後方に土の削れた跡ができ、初速の速さが増したようだ。青白い砲弾が軌跡を残しつつマーカーへ飛来する。
2倍以上の大きさになった異形は、少しずつヒト型に変化しつつあった。3本目の腕が生え始めたところで砲弾が着弾、爆砕する。爆発は街から視認できる規模だった。変身を待たずに火力で押し切る方が良いだろう。
再装填を急……ダメだ、照明弾が落ちてしまいそうだ。照明弾へ換装しておこう。砲塔周辺の土が後退している。次、満足に撃てるかは分からん。砲塔が歪むと、どんな制限がかかるか分からないしなぁ。
『発射時の反動が逃がせません。衝撃耐性が上がります。
積層魔力回路の使用および魔力充填を制限します。』
告知ありがとうよ。残党狩りで少しでも改修を早めよう。このままでは大して撃てなくなってしまう。
土煙が晴れた着弾点に多数の異形の死骸と、木の幹ほどの太さの膝下と頭部が転がっていた。マーカーを動かせる範囲に異形は……ん? 頭部だけになった異形が動いてる。どこの筋肉を動かせばあんな芸当ができるのだろう、と考えているうちに換装が終わったようで装填開始。
頭部だけの異形が近くの動物に舌を伸ばして取り込んだ。デカイ頭には小さすぎる胴体でモソモソと移動を開始する異形。どこに行こうというのか。
「仕留めたのか?」
「まだって。……頭だけになって近くの動物を取り込みながら移動してるって」
「何だと? 位置は追えるか? ……特砲隊のルアネだ。中隊長へ繋いでくれ」
「追うために照明弾を上げるって」
ノピを通してルアネに状況説明を行う。ルアネが中隊長へ連絡を取っているようだ。あ、東門から白い胸当てを装備した大人たちが東へ進もうとしている。あれを止めたいのかな。
照明弾の装填が終わったので撃ち上げる。2つの発光が追加され、ターゲットを北へ北へと追跡していく。おぉ? ちょっと見ない間に顏が小さくなり、胴体が大きくなった? 質量を移動できるのか? と、そんな事より榴弾に換装っと。
大人たちが照明弾から伸びる2本の光線に気づいたようだ。進行方向を変えないでくれよ……。命令が無いから装填がまだ終わらない。ぁ、大人たちが街道から逸れて北東に移動し始めた!
「東門を出た人たち、北東に行ったって」
「……連絡はした。間に合えば良いが。あと1発撃ったら止めだ。あいつらに当たる可能性がある」
砲身を縦に振って反応しておく。1発か。確実に倒すなら魔力を込めたい。でも砲塔周りの土が無いから魔力を充填して撃てない……。
「砲塔周りの土が無いから撃てないって」
「何? 反動が強すぎるからか。くっ、曹長がいれば……」
「ん? ワシが何じゃ。ほれ、薬と――」
「いたぁ――――!」
「――ぐぇっふ!」
お、曹長が西の茂みから出てきた。超反応したルアネが曹長の胸倉をつかみ、砲塔後部へ引き寄せる。せっかくの魔力回復薬が丘に投げ出されるも意に介さず、曹長に「早く均してくれ!」と催促した。ついでだから魔力も徴収っと。
膝をつき咳込む曹長が人使いが荒いと苦言を呈しながらも砲塔周りを均し、「固めといた」と親指を立てる。仕事のできるオッサン、嫌いじゃない。兵員が増えた事で装填も終わった。
「曹長! 早く離れろ! 耳がやられるぞ! ……撃てっ!」
『命令に準じた行動により補正されます。』
旋回角いっぱいに砲身を振り、砲撃を開始。胴体の大きな異形は捕食のためか急制動をかけた。マーカーは通り過ぎてしまったが、放たれた砲弾は2発。どちらかが至近弾となれば十分仕留められ……。
ギュン、と放物線の頂点から砲弾の軌道が不自然に異形へと修正された。補正された砲弾が一気に収束したマーカー内に着弾する。風に流されたにしても変な挙動だったな。何気に木も避けてなかったか?
土煙が晴れた地面には、変わったくぼみが残っていた。爆発範囲が狭かったからか縦穴のようにも見える。まぁ倒したならばイイか。
『修正射が完了しました。砲塔の全機能が解放されます。
装填速度が上がります。
換装速度が上がります。
揚弾速度が上がります。
兵員の再配置が必要です。砲塔最下部に席を用意しました。』
この時点では1人2秒




