50口径20センチ砲
起床ラッパとともに号砲1発、照明弾を東の雲に放つ。50口径と言っても口径は20センチで砲身長が50口径だ。有効射程のために45度よりも少し高く上げた照明弾は、東の山を越え、谷の上空で発光した。あれ? 1発しか放たれていない? マーカーは谷を越え、徘徊する敵を捕捉する。
換装25秒。装填25秒。史実の砲はもっと早かったはずだが、命令下でもなく兵員もいない状況では仕方ない。照明弾が落ちる前に何とか装填を済ませ、100キログラムを超える榴弾が砲尾へ揚弾された。
2つの太陽が東の空を彩る。同時発射数は2なはずなのに……何かおかしい。
マーカーが照明弾付近に到達すると、ムカデのような多足の灰褐色異形を捕捉した。谷周辺が急に昼間のように明るくなったからか慌てているようだ。見えている部分が大木4本分もある。狙うならば、やはり小物よりも大物だろう。
マーカーの集束を待って撃とうと思ったが、巨大なムカデは底の見えない谷へ移動し始めた。
『魔力が10供給されました。
積層魔力回路へ魔力 10 を充填します。
兵員不在のため■■■■が■■されました。
兵員不在のため■■■■が■■されました。
兵員不在のため■■が■■■に■■されました。』
砲塔内に青白い光が何層も現れ、いくつかの魔力回路が機能しなかったのか消えていく。だが砲弾に魔力は充填された。
ググ、グォォォ……ガォン
丘より上に出ている砲塔部分が微修正に動くと今までで一番の重低音が鳴り、狙いが定まったとばかりに街へ一際大きな音が轟いた。
流線形の砲塔外装を砲撃の排風が流れ、丘に乱気流を巻き起こす。砲身が後退し衝撃を緩和すると、ゆっくりと戻っていく。砲塔内への逆流は起きていない。隙間いっぱいなんだけどな。その反動なのか砲口から多量の煙が放出されている。
ドッ、ドッォォォン
谷の縁と巨大ムカデが逃げていった谷の底へ榴弾が着弾したようで、音が時間差で聞こえてくる。マーカーが収束していなかったから着弾点がズレたのだろう。
魔力を充填したのに砲身が無事だ。再装填してみると実行される。内部の破損も無さそうだ。可動部も異常無し。俺の周辺の土は後方に押し込まれてしまっている。もしかしなくとも2発くらい撃ったら砲塔が傾くんじゃないか?
「おい、ヨシダホー! 朝から何故撃った! どこへ撃った! 私のウー枕3世が破れてしまったぞ、ぉあ!?」
『兵員の存在を確認。制限は緩和されます。
砲塔に触れている者がいます。魔力を徴収します。』
ルアネがプリプリ怒りながら丘に駆けてきた。息が上がっていないのはスゴイ。ノピがいれば理由を伝えられるが、場所を示そうと砲口を上に向けているとツ――ンとそっぽを向いたようにしか見えないだろう。枕に名前つけてるんだな……3世って。
魔力が徴収されたルアネがたたらを踏むと、砲塔に寄りかかってきた。照明弾も落ち、東の山の向こうが見えなくなったので照明弾に換装しておこう。
パタリとルアネが倒れた。意識は残っているようだが体は動かせそうにない様子だ。徴収する量が増えたのだろうか。増えた魔力量は4。以前よりも増えたようだが、今の俺には誤差程度だ。今後とも精進してもらいたい、なんて。
「……それで、状況の説明を……できる者がいませんね。隊長、起きてますか? ……ぐっ!?」
「起きてるぞエルンスト1曹……。近づいた途端これだからな……全員に魔法戦技訓練を追加しよう……」
「了解。魔力が持っていかれるのは毎日1回のようですね。隊長、どうぞ」
「すまない」と1曹から手渡された粉薬を苦い顔で飲んだルアネが上体を起こす。魔力が回復したのだろう。この世界の薬は地球と同じく苦そうだ。
1曹が持ってきた地図を指差し「ここに撃ったか?」と聞いてくるルアネに砲を横に振る。東の山付近じゃない。ツツーっと指先を滑らせていくので谷で砲を縦に振ると「何か、いたか?」と続けてくる。縦に振ると「1曹、ノピを……いや、呼集だ!」と地図を見ながら言った。あのデカブツはやはり異常なのだろう。
「話して?」と砲塔の近くへ来たノピが聞いてくる。鉄帽がズレているのは、ご愛嬌。耳は畳んで被るようで、窮屈そうだ。胸当てと弾帯にポーチを装備している。砲塔扉に腰かけて1曹へ口頭で伝える形だ。
照明弾発射から榴弾着弾までを、かいつまんで説明すると1曹は地図の線をいくつか修正していく。大きなムカデ、谷底へ消えたの辺りで1曹とルアネの表情が険しくなっていった。
「ヨシダホーの射程は修正しておいてくれ……」
「ウーベェ3曹を偵察に?」
「いや、第2中隊が出張るだろう。新兵器を撃ちたがっていたしな。ウーベェに確認に行くよう……1曹、ウーベェは?」
「……」
「……」
よっ、ほっ、と曹長が箱を抱えてきたところで、静かな怒りに震えるルアネと俺たちの微妙な空気を察して俺の後ろに回り込む。あえて鬼に近い1曹ではなくノピを呼び、状況を知るのは俺でもやる事だろう。触らぬ神に祟りなしだ。
「ほれ、飲んどけ。で、何があったんじゃ?」
「あっちの谷で大きな異形出た。撃った。ルアネお姉ちゃんがウーベェおねぇちゃんに第2中隊って」
「ぉー、んー? まぁだいたい分かったわぃ」
すげぇな曹長。ノピの説明で分かったのか。あ、ノピ! 砲塔内をひっかくなって! ごめんて。あ“ー反響するー!
「悪は滅びた」
「……何をしとるんじゃ」
いきなり砲塔内をひっかき始めたノピが満足気な様子に、曹長は溜め息で答えた。元凶とも言うべきルアネが「注目!」と一喝すると、3人は静かに視線を送る。
「ウーベェは後でしばくとして、朝食まで魔法戦技訓練のやり方についてだ。ノピは初めてか。曹長、嫌そうな顔をするな。私もできる事ならしたくない。だが、ヨシダホーを抱える部隊として全体の魔力量の底上げは急務だ」
「ん、ぐぉ!?」
「曹長、分かったか? 明らかに量が増えているだろう? 次の改修で近寄れなくなる恐れがある」
そういえば徴収してなかったと曹長の魔力を徴収したら、曹長は座り込んでしまった。改修前と同じように徴収するとダメなのかもしれない。少し控えめにするか。
先ほどの苦そうな粉薬で曹長が立てる程度になったところで、「さっ、始めるぞ」とルアネが青白い光で全身を包まれていく。1曹、曹長も続きノピだけが光ったり消えたりを繰り返した。
「ノピ。訓練課程は基礎の循環だけを行ったが、実戦では1時間は必要だぞ。時間を見つけて続けるように」
「はぃ……」
何をしているのかノピを見ても分かりにくいが、ルアネを見て分かった。体内の魔力を体表面に留めたり、血液循環のように回し続ける訓練のようだ。たまにルアネやノピから離れていく青白い燐光がスーッと消えていく。空気中に長時間滞留させるのは難しそうだ。
ルアネの尻尾が青白い色から青色、そして紺色へと変化していく。紺色となった尻尾付近から確かな圧を感じる。魔力を込めたら色が変わるのか。ノピの気が散りそうなので止めたルアネを見て、曹長もトライする。額に汗をにじませた結果、拳だけ青色にはなるようだ。難しい技術なのだろう。
俺もやってみる。魔力ってどう動かすんだ? 体内の魔力を回すにしても、そもそも俺はどこに魔力を貯めてるんだ? 充填で砲弾に込めるのを砲塔に込めるように変えれば――
『爆散しますよ?☆』
――優しいアドバイスありがとうよ。砲塔に魔力充填は危険らしい。少し残念だ。それでも砲塔下部に青白い光の集束を感じた。俺の魔力は地下にある。
・装填速度 減少
・換装速度 減少
・榴弾 通常弾 変更
20cm砲の榴弾(徹甲弾)だと10m範囲で爆散します




