砲塔
たんこぶ幼女が俺の近くで伏している。ノピがたんこぶをツンツンと突く度、ピクピクと反応するソレはルアネの拳骨をくらっていた。
灰褐色のおかわりを連れ帰ってきたウーベェ3曹は外壁の近くでなすり、しれっと丘に戻って来た。砲身が冷めた事で通常射撃ならば撃てそうだったが、外壁の大人たちに当たったら大変だ。下手に手を出すよりも静観しよう。
『あなたは上等兵です。命令に準じた行動は補正されます。
改修が可能です。改修分岐を選択してください。口径/同時発射数/積層魔力回路/冷却機構』
砲身から、やけに長く煙が上がっているなと思っていたら階級が変わったようだ。「へ」と「しの下半分」を合わせたような階級章。1曹や曹長よりも「へ」が少ない。まだまだ下っ端らしい。
そんな事よりも改修だ。魔力回路一択かと思ったが冷却機構というのも気になる。赤熱した砲口が冷めるまで数分は撃てなくなった。装填しても熱が原因で撃てない事がこれからもあるかもしれない。だが改修で回路が復旧しない場合は短い射程で次の改修を待つことになる。口径や同時発射数でも同様だろう。
『積層魔力回路が選択されました。砲塔が形成されます。
範囲内に兵員を確認しました。砲塔内に取り込みます。
改修まで3600秒。3599、3598……改修完了まで全ての行動が制限されます』
ここは確実に魔力回路を直し発展させる。充填の最低値が10になったのも問題だ。少しでも魔力をためておかないと撃てなくなってしまう。
選択してすぐ、ノピが俺の方向に吸い寄せられる。よろめいた彼女が俺の脚の付近から真下に地面がとともに陥没し落ちていく。ノピは困惑して動けないようだ。
魔力回路が一回り大きくなりながら脚とともに砲塔を形成していく。陥没した地面は3メートルほど。砲身が一回り大きくなり装甲は前盾25ミリメートル、天井19ミリメートル、50口径の単装砲へ。本来は1段下の甲板から砲尾へ揚弾だが、俺に弾薬庫は不要だ。兵員が昇降できるハシゴの下、少し広めに取られた暗い空間にノピは取り込まれていた。主砲弾薬庫は側面51ミリメートルと上面に35ミリメートルの装甲で防御されている。ノピのいる場所が今までで一番安全と言えるかもしれない。
「にゃぅ……いたぃ」
すまない。何か知らんが積層魔力回路を選んだら、こんな砲塔になったんだ。砲塔内に青白い光の線が伸び、魔力回路が構築されていく。間接照明のように砲塔内が薄暗いながらも見えるようになってくると、ノピは立ち上がった。良かった。結構な高さがあったけども大きなケガをしていないようだ。
「くらぃ……誰?」
『魔力供給を開始しました。毎日 10 の魔力が供給されます。
魔力を視覚化方法を変更しました。魔力回路を増築します。徴収する魔力の量が増加します。』
誰って砲塔内はノピしかいないんだが。外ではルアネたちが俺を叩いてノピの無事を問うている。答えたくても俺は1時間くらい動けないしなぁ。ノピも何かしようとしたらハシゴを見つけて昇るだろうし。地上部分のドアに鍵は無いし問題ない。
「ここか! 暗いな……ノピ! いるか!?」
「いる」
「昇ってこれるか!?」
「うん」
ノピがハシゴを昇ると尻尾が擦れてくすぐったい。と考えたらノピは尻尾を動かして当たらないようにしてくれた。あれ? 聞こえてるのか?
「うん、聞こえてる。尻尾動かした」
マジかー。ついに意思疎通できるようになったか。あ、勝手に魔力徴収してごめん。助かった。
「うん。みんな感謝してた。ルアネちゃんも魔力増やして応援しようって言ってた」
お、おぅ。ありがとう。ノピがハシゴを昇り終えたところでルアネが手を取り引っ張り上げた。ノピの体に異常が無いか調べる様は、まさしくお姉ちゃんだ。
「ノピ……誰か、いたのか?」
「声だけ。名前知らない」
「今も聞こえるのか?」
「ううん。聞こえない」
曹長とルアネが砲塔内を探すも不審者は見当たらないようで、再度丘に出てきた。話しかけてみたが、ノピ以外とは意思疎通が行えないらしい。ノピは砲塔内でのみ意思疎通が可能なようだ。限定的でもいい。話したいことはたくさんある。今から楽しみだ。
ガコンガコンと旋回したり換装や装填を試したりで時間を潰していると、何か話し合っていたルアネと1曹が俺の近くに来た。
「少しいいか? 君の名称、名前を決めたい。考えておいてくれ」
「長い名前の場合は愛称で読むことになるから、悪く思わないでほしい」
名前か。たんこぶ幼女が起き、5人が丘を下りていくのを見送って考えてみることにする。カッコイイ名前もいいし、暗号みたいな名前もいい。無駄にマーク2とか付けてもいいな。でもやっぱり名は体を表すというし、俺を表していそうな文字を入れるか。
50口径、20センチ砲、魔導機甲兵装、照明弾、榴弾、積層魔力回路、魔力充填……うーむ。
どうせなら将来どうなりたいかを考えるか。砲塔ができたからおそらく戦艦の主砲を目指せるだろう。戦艦と言ったら大和だろうし、46インチ……1インチは2.54センチメートルだから116センチメートルだっけか。うーむ。
「……で、決まらなかったと?」
「だから決めてって」
「仕方ないな、モーホーサンカイ」
「却下って」
「早いな!? いい名前だと思うんだが……」
ルアネの提案を言い切る前に却下してもらった。俺自身、決めきれなかったがルアネの手に握られた皮紙にいくつか名前ともいえない候補が横線で消され「モー砲3改」だけ丸で囲まれていた。何重にも。2を二線で消して3に変えてる所は何も言うまい。所々、漢字がある?
却下されたルアネが持参した資料には様々な魔導機甲兵装の全体図と諸元、そして漢字が書かれていた。
浦野 良太、浦野 典子、萱沼 昌則、長門 弥生、須貝 尚久……
ルビは見たことが無い文字だが、漢字は日本人の名前じゃね? と思った。対空砲の浦野2人、軽火器の萱沼、臼砲の長門には名前に横線が引かれ、末尾にそれぞれ112-113、144-144、200-202と書かれている。何の数字だろう。
「力強さを押し出した ブ砲3新 と、音感を意識した チュードン303……」
「却下って」
「むぅ……」
ルアネの命名は控えて頂こう。日本人がいて漢字もあるならば、カッコイイ名前をつけてもいいと思うんだ。ノピ先生、お願いします。
「え? わたし?」
「頼む、ブホォォォとかチュドォォォンとかはイヤなんだ……!」
「でも授業で習ったの、シュライクとかジューイチシキとか意味は考えなくて良いって習う名前ばかり」
シュライクは分からんがジューイチシキ? 11式か……? 年代も良いな。この街の暦はどうなってるんだろう。
「えっと今日は帝国暦304年 4の月 14の日」
「じゃあ俺は4式榴弾砲だ」
「ヨンシキリューダンホウ?」
「ヨシダ・ホー? ふむふむ、渋い名前だが無骨なキミには良い名前じゃないか」
首を傾げるノピの発音が少し変だった。ヨシダホーじゃないぞ? 4式だぞ? おいルアネ、何納得してるんだ。俺は4しk――
『名称:ヨシダ・ホー が登録されました。命令遂行時の補正が上がりました。
砲塔内に兵員がいません。装填速度、換装速度、旋回速度が制限されます。』
――あぁ!? 登録された! 何かフツーの名前になっちまったぞ……。再登録だ!
『しばらく再登録はできません。ヨシダフォ~ゥでがんばってください☆』
「うぬぅぅぅ……!」
「喜んでる?」
「……んむぅ」
ウインドウにまで煽られた俺をノピが見ている。彼女に任せた以上、責めるのは御門違いなのだが……。喜べない。ノピには悪いが少し時間が必要だ。
『フォォ~ゥ☆』
くっそ楽しんでやがる……! 砲身を上下に振ると、ルアネたちまで「よろしくな、ヨシダ!」「ヨシダホーのぉ?」と言ってくる。1曹は俺のコマにヨシダと書いているし。書かなくて良いんだよ? 泣いちゃうよ? 涙なんて出ないけども。
ノピだけが撫でてくれるのを感謝しつつ、明日には再登録できたりしないかなと前向きに考える事にした。
50口径20cm単装砲の外観は次話で。




