トラブルメーカー
黒髪黒目たんこぶ幼女。ノピよりも背の低い子が「お姉ちゃんと呼んでもいいよ?」と快活に笑っている。ノピとの身長差を埋めているのは頭頂部のたんこぶ。ルアネがキッと睨むと素早い動きでノピに隠れるお姉ちゃん。ノピが近々編成に加わるとして紹介されると、シンパシーを感じたのかウーベェ3曹は距離を詰めていった。
「ウーベェ、報告がまだなのだが?」
「ぁ、忘れてt」
「ま さ か 忘れてないよな?」
「はひっ! ここに!」
「……まったく」
ビクビクしているウーベェ3曹を撫でて落ち着かせるノピの方が、お姉ちゃんしてるんだよなぁ。ルアネがボロボロの報告書を読むと、すぐに魔法で燃やしてしまった。勿体ない気もするが、ウーベェ3曹の持ち帰った情報の秘匿性の高さゆえなのだろう。
「注目! 我々特別砲撃部隊は翌朝のラッパとともに作戦を開始する。喜べウーベェ。次の任地は近場だぞ。曹長および1曹は魔力回復薬と幌の調達、ノピはコイツと待機だ。以上!」
うへぇ、とダレるウーベェ3曹に曹長と1曹が「腐るな、腐るな」とポンポンと激励し、丘を下りていく。調達に行くのだろう。1曹の忘れ物か1枚の地図が俺の脚の上に置かれていた。道、宿や乗合場所、交易所、目標物といった必要なモノしか描かれていない実用性を追求した地図だ。俺が向いている方向は東だから……地図の上が北か。東の山の向こうは平原、谷そして国境。国境付近に横長の棒が4本平行に置いてある。
「ウーベェ、準備出来次第ココへ潜め。砲撃位置はココだ。誘導できるな?」
ルアネの指差した地点は東の山頂付近。砲撃位置は先の砲撃跡の近くの道。潜むのに誘導とはどういう事だろう? ウーベェ3曹、実は有能なのだろうか。ヒラヒラと手を振りながら丘を下りていく3曹を見送り、ノピの無音練習を応援することにした。
プヒプヒプップップー、プヒピヒプップップーという音が2度繰り返される。いつもの起床ラッパよりも早いリズムだ。これは、呼集か。
『呼集に応じました。即応弾を最大射程で発射できます。換装により効果時間が減少します。
効果時間 59:59 』
お、移動できない俺でも呼集に応じられたらしい。榴弾に換装すると効果時間は54:26となっていた。5分ほど減少するようだ。時間制限はあるが最大射程で撃てる。今の俺では街中に着弾してしまうから、ちょうどいい。何か改修につながる成果が欲しいな。
「日の出までの間に敵の斥候を見つけた場合は攻撃するな。敵の集団を誘い込む」
「敵?」
「ん? あぁ、ノピは会議にいなかったな。東の谷や平原では何も無い所から大小様々な異形が現れる。通常、単体で現れ攻撃性はあるが移動範囲は広くない。だが今回は100を超える集団で現れ、概ね西へ移動し続けている」
ギュッとラッパを抱きしめるノピにルアネは大人たちの配置を教え安心させていた。俺たちが失敗しても街の外壁付近で十分対処可能らしい。異形と呼ばれたモノはルアネの広げた資料に姿形があった。片腕が足元に埋まったまま動く人型、両足が埋もれたオオカミ型、立方体が積み上げられたような塔型……異形の大きさと形はバラバラだが、色は全て灰褐色だ。分かりやすくていい。50:00
ノピはまだ怖いみたいだ。俺の横で待機する任務が終われば、少しは変わるかもしれない。
「我々の任務は後方からの援護射撃だ。雰囲気に慣れるには良い機会だぞ? 肩を回しておけ」
「はぃ……」
少し肩をすくめながらルアネが眉根を下げると、ノピの肩をポンっと叩く。昼食を食べに丘を下りていく特別砲撃部隊の面々を見送り、俺にできることを考えてみる。
最大射程で撃てるということは4キロメートル以上先を狙えるということ。旋回角が狭まったせいで後ろを向けなくなったが、照明弾の後ならばどうだろう。換装、照明弾発射、西の外壁以遠に照射、換装、榴弾装填……俺の後方100メートルから2.4キロメートルを撃てそうだ。何だよ、後ろも撃てるじゃないか。39:40
シュウシュウと魔力回路が煙をあげている。断線しているはずだが、一時的につながった感覚がある。呼集時は使えなくなった機能まで使えるのだろう。使い過ぎたら反動があったりして……。
『呼集に対応した時間に比例して全ての機能が停止されます。予想停止時間 5:12:10 』
……は? 5時間!? 今は昼だから夕方まで……なんて考えてる間にも秒単位で予想停止時間が増えていく。とりあえず対応やめやめ!
『対応を終えました。対応した時間分、全ての機能を停止します。おつかれさまです』
すぐに対応を終えることができた。よかった、と思う間もなく砲身を上げ続けることができなくなりゴウンと鈍い音を立てて俺は全ての機能を停止した。
起床ラッパが聞こえ、意識が急激に覚醒する。魔力回路に一気に魔力が流れるも断線した箇所から先に流れなかった。砲口を東の外壁へ向け、周囲の状況を確認していく。
「起きたか? 既に作戦は始まっている。動けるか?」
いつの間にか朝になっていたようだ。朝日が外壁を越えようとしている。東の外壁は物々しい雰囲気だ。武装した大人が配置について待機しているみたいだ。
街の人通りはほとんどない。丘にはルアネと曹長、1曹そしてノピがいる。曹長と1曹は俺から離れた所で地図を広げている。ノピが俺の近くに、ルアネがノピの隣で腕組みして立って俺に問いかけた。縦振りで答える。
「よし、砲撃位置は!」
「ここに」
「ノピ、ラッパだ!」
「はいっ!」
ノピの呼集ラッパに魔力回路が煙を上げ始めた。1曹が指し示す箇所へ照明弾とマーカーを飛ばすと、東の谷で土煙が見えてくる。おびただしい数の灰褐色集団。移動速度は遅く、マーカーを合わせるのも容易い。
2つの照明弾が発光してしばらく、榴弾の装填も終わった。4人から魔力も徴収し、回路に流し込む。
『魔力回路へ魔力 10 を充填します。射撃には致命的な損傷を伴います。』
あれ? あっ! そういえば蓄積魔力が10をこえてから充填魔力は10単位になってるんだった! 致命的なという表記の時は次弾が撃てなくなってしまう。マーカー位置を灰褐色集団の中心に合わせ直して指示を待った。
「撃てぇぇぇ――!」
『命令に準じた行動により補正されます』
ドッッ! バォン! という音というよりも衝撃波が街へ響き渡った。ノピとルアネは耳栓をしていても尻尾が真上にピンと伸び、1曹は必死に地図を守っている。曹長は吹き飛んだ重りに手を伸ばす。
砲身が目いっぱい下がり、衝撃を逃がすはずの脚が異音と軋みを訴えた。赤熱した砲口から煙が上がることよりも4人の興味は着弾地点へと注がれた。
1度だけ地面が揺れた。地震の縦揺れで悲鳴をあげるように街から悲鳴と破壊音が上がってくる。東の外壁の上に2本の排煙が榴弾の軌跡を示し、朝日に照らされた木が数本落ちていった。
ヒュ~と軽薄な口笛が鳴らされた。曹長が「命中」と告げると、ポカーンとしていたルアネが復活し「よ、よし。次弾装填!」と指示してくる。でも赤熱した砲口や回路もだが、しばらく撃てないだろう。命中したようだし、メッセージが表示されるまで待つことにする。
「どうした? ……あっつ!?」
「たぶん、限界?」
「あれだけの威力じゃ。残りは第1で十分じゃろ」
「そうか……。特砲隊は待機とする!」
砲身に持ち込んだ水をかけてくれるノピに感謝しながら、まばらにカチドキを上げる大人たちを見る。腑に落ちない表情のルアネも思うところがあるらしい。
谷を朝日が照らし、道があったはずの砲撃地点がくぼ地となっているのが見える。さっき落ちた木も飛ばされたのだろう。最大量の魔力充填で砲身が割れなかったのは初めてだ。改修だけでなく衝撃耐性も効果を発揮しているのか。砲身から垂れた水が魔力回路で蒸発する中、周辺の地面からも漂う煙に気づく者はいなかった。
ズズッ、プツ、「あー、あー、たいちょー」
どこかで聞いたような声がルアネの腰辺りから聞こえてきた。マイクのような握りに「何だ? 作戦は終了したぞ」と言うと「えーっとぉ……」と言いよどむ声が聞こえてくる。
4人の視線が集まったマイクからノイズが酷くなり、外壁の大人たちも騒ぎ出した。何があった?
ザザ、プツ、プツ「ごめん、おかわり行くかも~」
同時発射数は 2 です。
155mm榴弾砲2発がどれほどの被害かは、アレしてください。




