測量特殊技能兵
朝の日課。ノピのラッパに砲身を正し、朝日を浴びていると自然と一体化していく感覚があった。
『隠蔽率が上がりました。
衝撃耐性が上がりました。』
丘に野ざらしでいたら隠蔽率が上がるのか。もしくは朝日か? いまいち上がる条件が分からん。昨日みたいに寄られたら魔力を吸うか砲身で叩くか自滅覚悟で真上に、は微妙に角度が足りなかったな。
何となく太陽が昇っていくのを見ているとホルスガー曹長と知らない大人が歩いてくる。
50代の白髪交じりの短髪メガネ男性。180センチほどの長身やせ型だが引き締まった筋肉が腕まくりした部分から見える。階級は1曹。大きめのファイルと、やけに長い巻物を小脇に抱えて曹長を押していた。
「よぉ、起きとるか? コイツが特殊砲撃部隊の主力魔導機甲兵装じゃぃ」
「エルンスト・ルッツ。階級は1曹だ。よろしく……で良いのか? !? 本当に動くんだな……」
グルンと砲身を旋回させ、会釈するように少し上下に動かした。とりあえず2人から魔力を吸っておく。曹長は3、エルンスト1曹からは4。総量16。イイ感じに溜まってきた。
「朝一で、この怠さに慣れておくんじゃ。耳栓も片方はしておくと良いぞ。いきなり撃つからの」
「予告なしですか……」
「真後ろと砲口の真横は危険じゃ。特に青白い光を帯びたら退避せぃ」
曹長めニヤけ顔に抗議を込めて砲身を高く上げガチャガチャ鳴らすと快活に笑いやがった。1曹は持ってきた荷物を置き、メモを取りながら巻物を開いていく。地図のようだが、やけに細かい。街道に沿う破線は何だ? 樹形図のような広がりは不規則で、それでいて補給路としても考えられた配置で。
「東南東3.4、東0.6、南南東……北への射撃は?」
「夜な夜な発煙弾を撃つようだが外壁を越えとらんぞ」
「意図的かそれとも……」
バレてた。メガネの奥の琥珀色の瞳が向けられ、地図へ移っていく。1曹はファイルから大小様々なメモを取り出し貼り付ける。標高線、国境線、補給線、戦力配置、行軍予定に射程圏。風の情報まで。
戦略地図と言えるモノが出来上がった頃。魔力回路から伸びた青白い線が地図と繋がった。作業をしていたエルンスト1曹も青白い光に包まれている。
『地形情報を反映します。
エルンスト・ルッツ を兵員に登録しますか?』
登録。街の建物に隠れた路地から外壁の向こうの街道、森、山そして地下道までが視覚化されていく。
『 エルンスト・ルッツ を兵員に登録しました。以後、兵員の収集した情報を反映します。
毎日 2 の魔力が供給されます。
兵員数が足りません。装填速度および換装速度、旋回速度が補正されます。』
毎日の魔力増加が増えている。しかし今は回路が断線し供給が滞っているようだ。早めに直したい。
4人目の兵員だが1人足りない。換装してみると40秒ほどかかってしまう。命令下、ノピの号令といったバフでもまだまだだと思えた。
「曹長。これは……?」
「お前さんも認められたんじゃろ。青白い光が見えるか?」
「えぇ。私たちと隊長と……あぁ、ノピ訓練生ですか」
曹長たち兵員同士を青白い光が繋いでいるようだ。俺も繋いでほしい。ルアネとノピは近い所にいるみたいだ。室内にいるようで姿は見えない。爺さんたちを見るより若い子を見る方が良いに決まってる。とはいえ改修のために獲物を探したいところでもある。地形情報を反映できても獲物の情報は無いんだよなぁ。
「ふぅ、しばらく休憩じゃぃ」
「ところでウーベェ3曹は?」
「偵察任務じゃろ? 隊長が叫んどったし」
あぁ、と渋い顔の1曹に疑問を感じる。罰が偵察任務なのだろうか。ルアネを怒らせたら俺もどこかに出されるのだろうか。俺の場合は出荷か配置転換か。前線で取り残されたら破壊されるだけだろう。
偵察任務は重要だ。敵の配置や構成、進軍速度や方向を探る。そして生きて帰る。3曹は決して高い階級じゃない。戦場帰り特有の嗅覚があるのかもしれない。
「彼女……隠れるのが得意でしたっけ」
「あぁ、小さい頃からな。いくら隊長でも、できん事はさせんじゃろ」
「更生しますかね?」
「せんじゃろ。生粋のトラブルメーカーじゃし」
了解、と溜め息交じりに答えた1曹を腕組みした曹長が横目で見る。俺に聞こえるように言っているように見えるが、ウーベェ3曹は隠れるのが得意でトラブルメーカーで。
少し休んだ1曹が新しい地図を広げ、重しを載せた。Vが3つ縦に書かれている。方向を示しているわけでもなさそうだ。階級だろうか。「ウーベェはココ」と大陸の中央東側のVが3つの重りを差し、「我々はココだ」と俺を見ながら言ったので街は大陸の西側にあるらしい。
トン、トン、と小さな模型も置いていく1曹。曹長はどこから出したかフランスパンを切ってサンドイッチを作ったようなパンを食べ始める。丸い台座に大砲を載せたような重しを街の西側に、ルアネを模した模型を街の中心に、ラッパ型の模型と銀色コインと近くにあった小石を街の近くに置いた。ラッパはノピ、コインは1曹、小石は曹長だろう。
「……ワシの扱いが雑過ぎんか?」
「当然では?」
「世知辛いのぉ」
世知辛い。確かにそうだ。移動できない俺の世界は見える範囲だけ。イイトコ半径4キロメートル円だ。魔力という異世界要素を足しても、照明弾という目をもってしても広がりきらない世界。
砲口を上げていった先、小さな雲が遥か上空にある。あのくらいの高さへ、もっと高く撃ち上げれば。口径か長砲身か砲弾か、あー積層魔力回路もあったか。いずれにせよ改修を急ぎたい。
「ところで隣国を飛び越えてウーベェ3曹を走らせたのは、やはり?」
「参戦される可能性と動向、ですね。前々回は失敗、前回は切り上げ。今回は装備不十分……」
「毎度酷いのぉ」
1曹が書き足したウーベェ3曹の軌跡。いつの間にか置かれた横長の重りをキレイに避けている。真っすぐ目的地に進まないのは敵国ゆえか。往路と復路は全く同じ道を通っている……あり得るのか? もしかしたら他のルートが存在するのかもしれない。迷いなく書いているが間違わないのだろうか。手元の資料をスゴイ勢いでめくってるけども。
と考えていたら兵舎の方向でパリパリと乾いた音の後、「あいた――っ!」という声が響いてきた。
「お、元気っ子が帰ってきたわい」
「今回はどこに落ちたのやら……」
今回は? と1曹の発言に疑問を感じながら、少し見えた土煙に集まる大人たちを見ずに完成していく地図を見ていた。




