覚えもしない記憶(プロローグ中編)
人は皆、自分だけの世界がある。
例えば学校生活。自分のクラスに嫌な奴がいれば、そいつがいない世界を創る。嫌な先生なら、その先生の授業が無い世界を創る。そうやって創られた世界はその人にとっては都合が良くて、その人にとっては心のより所とも成るモノだ。また、その世界を橋渡しとして自分の置かれている状況を客観的に判断したり、自己主張の場にしたり、あるいは、自分を更正する手段にもなる。
ただ、殆どの場合は、自分を都合よく解釈する道具になるばかりだ。
さて、俺、宏輝20歳はどうしてこんなこんな事を考えているのか?
別に哲学なんて専攻した事なんて無いし、そもそも俺の大学にはそんなモノは存在しない。
じゃあ何でだよ?
簡単だよ。
明日大学だからだよ。
金曜日、PM6:15
「あぁ、大学行きたくねぇ。」
何で明日大学あるんだよ?土曜日だぞ?しかも朝一とか、。交通の便悪いし、通学に時間掛かるし、消えちまえ1限。あぁ、今から大学にテロリスト来ねぇかなぁ?隕石降らねぇかなぁ?休みてぇな。
そうだよ。もし大学が無ければこんな事にはならなかったんだ。
大学が無い世界でも作っちまえ。
あぁ、でも働ける自信無いしニートになってるかもしれねぇなぇ。
それはやだなぁ。
じゃあそれを含めてで世界を創ろう。
そう、今から俺が異世界に行ったとしよう。転生ボーナスとか付いて、異世界で強キャラになって、現地人助けまくる感じの、、。
そうだ 異世界、行こう。
ここ近辺の心霊スポットに異世界につながるトンネルあったなぁ。そこ行けばなんかあるやろ。
そして俺は最低限の荷物を持って、夕暮れの中、家を飛び出た。
*
俺の家から徒歩で15分くらい歩いた所に山がある。
その山には心霊スポットとして有名な、とある山道がある。その場所は昔、行方不明者が続出した所らしい。しかし、今となってはそんな話は無く、度胸試し程度で来る人もいる。たまに自殺者も来るらしい。
俺は度胸試しで来ているわけでは無いが、心霊側からしたら十分ナメ腐っているんだろうな。
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!!!!ゆうれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!早く俺をつれてってえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
懐中電灯を持った俺は、山道を全速力で走り抜ける。俺は早く異世界に行きたいんだ。
こんな腐った世界とオサラバしたいんだよ!
「最悪異世界行けなくても、幽霊くらい出てこおおおおぉぉぉい!!!!!!!ビビッてんじゃねぇぇぞ、ゆううううううれぇぇぇぇぇぇぇいい!!!!!!!!」
あぁ、俺何やってんだろう。普通に考えて、幽霊なんて来ないだろ。俺が今まで生きてきた中で、幽霊なんて見たことないだろ。
「何で幽霊いねええぇぇぇんだよおおお!!!!!!くそおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」
何十分走っただろうか?走っても走っても幽霊なんて現れない。そう簡単に現れるわけなんて無いし、現れても多分殺されるだけだ。異世界に行けるわけでは無い。て言うか、ここで自殺してみるか?いや、無いな。自殺は絶対にしない。
走ろう。幽霊に会いたい。
世界から逃げたい。
*
あれからさらに走り続けた。
携帯がギリギリ圏外にならない程度で色んな所を走った。
それでも、幽霊に会うことなんて無い。肝試しに来ている知らないグループにも変な目で見られた。
今の時刻は7:05。
叫びながら走れた事が案外楽しかったからか?久しぶりにしては結構長い間いたもんだ。知らない山道だったのも結構わくわくした。途中からただのナイトハイクだったな。
だけど、もう帰る事にする。
流石に疲れた。明日大学だし、。
異世界には行けなかったけど、とりあえずまぁ、良しとしよう。
俺は、自分の来た道を戻る。俺は後ろを振り向く。瞬間、俺の「来た道を戻る」動作は緊急停止された。
俺は地面を見た。そこには懐中電灯の様な光が大体俺の方向に照らされているが確認できた。
俺は耳を澄ました。空気の流れは、俺に1人の足音を教えてくれた。
俺は懐中電灯の電源を消し、とっさに、出来る限り静かに横道に隠れた。
俺は息を潜める。
向かって来ている奴は誰なのか?俺は考える。
光はやがて、俺を通り超える。その時には、相手の顔も見えてくる様になる。
(女の子?)
高校生か?大学生か?それくらいの女の子が懐中電灯を持って必死に走っていた。彼女は腰にバックを着け、本を持っていた。
彼女が通り過ぎて行く。
この時、俺は「何かある」と言う嬉しさと同時に、こんな時間に1人な彼女にかなりの興味があった。
俺は今、人生で一番、胸が高鳴っていた。
今、この場からいなくなるのはもったいない。
俺は彼女を追いかけた。
*
彼女は俺が潜った所よりも更に奥へと走っていった。そして、ある時、急に止まった。
木の無い、少し開けた場所で彼女はしゃがみ始めた。
しゃがんだ彼女は持っている本を開き、地面に自分の指で何かを描き始める。円を描き、英語みたいな文字を書き、模様を中心に描き始める。
あれは、そう!ファンタジーのゲームとかやっているなら一度は見たことのある、魔法陣だ。
うん、最高だ。テンションが上がる。
俺の事に気づかずに、彼女は魔法陣を書き進める。
しかしその時、俺は彼女ではない別の音を聞いた。
車、エンジン音が山道に爆音で流れる。
彼女はこの音に敏感に反応し、描くスピードが速くなる。
とても焦っている。顔が引きつっている。
さて、推測をしよう。
こういう時、俺が今までやってきたゲーム的には、「彼女が追われている身で、今来た車に乗っている敵さんが彼女を殺しに来ている」くらいがよくある展開か?俺もそう思う。そこで主人公が助けに来るのがよくあるかな。
つまり、だ。今、俺ここにいるの危なくね?
瞬間に悟った。
あぁ、どうしよう。なんか、いい感じに今の光景見られる場所。
、、、
あ、ミッケ。
*
「手を挙げろ。」
魔法陣を描く彼女に黒服の男3人が叫ぶ。そいつらは銃を持っていて、彼女に銃口を向けている。
魔法陣を描いていた彼女は手を止める。ゆっくりと立ち上がる。そして、両手を上げる。
俺はこの時、少し角度的に見にくいが彼女の顔を初めて見た。
まだ諦めきれない顔をしていた。
「拘束しろ。」
真ん中の男が左側の男に首で合図する。
左の男は彼女のもとにまで駆け寄っていく。
うん、そろそろ頃合いかな。
さぁ、ミッケの答え合わせだ。
俺が隠れた所は木の上だ。
ここなら、黒服のにも彼女にも気付かれない。しかも、開けた所で行うからすごく見やすい。
う~んこれは理論値。
まぁ、そこまで難しくも無いけどね。今回のミッケ、簡単だったかの判断は流石に読者に任せるよ。
俺は木の上から飛び降りた。着地点は真ん中の黒服。
そして俺は無慈悲にも、真ん中の黒服の顔面に着地した。
ごめん。ジャングルジムの事故並みにごめん。
そして俺は、間髪入れずに右にいる黒服の顔面に左ストレートをかます。喰らった黒服のよろけ様に追い打ちの右アッパーもお見舞いさせた。
そんな事をすると、当然左の黒服も黙ってはいない。驚きはしながらも、俺に銃口を向ける。
しかし、そこを逃さない彼女、黒服の金的を蹴り上げた。
更に、そいつがうなだれている所にかかと落としをした。
アイツ、、俺より無慈悲じゃね?
しかし、これで敵?はいなくなった。やっと彼女と話せる。
「大丈夫?」
「誰?!」
「あ、いや、俺はさっきの黒服とは全く関係ない、、と言うか、部外者?」
「部外者、?、、そう、なら良いわ。」
彼女は俺が言った言葉を信じると、しゃがんで、魔法陣の続きを描き始めた。
「助けてくれて、ありがとう。でも、ここで起きた事は絶対の他言しない事、よろしく。それと、早く帰ってもらえないかな?」
しかし、彼女は淡白だ。
この様子じゃあ、俺に事情を説明してくれそうじゃない。
「君は、どうしてここに来たの?」
俺は自分から彼女に話を振ることにした。
「、、、、、。」
「俺助けたんだけど?」
「それは感謝してる。だけど、私と関わると危ない。君の身の安全も保障できない。」
彼女は嘘を吐いているわけでは無さそうだ。ついさっきまで起きていた事からも、それは分かる。
そんな事を言われると、さらに気になるじゃねぇか。
彼女が立ち上がった。
床を見ると、魔法陣が出来ている様だ。
「さ、君も、早く帰るん、、d、!」
彼女の言葉は急に止まった。同時に彼女は俺の方に向かって走り始めた。
「え?何だ?」
彼女は俺の事を気にする間もなく近づく。のち、俺の頭を掴んで、強引に自分の方へと引っ張った。のち、銃声が聞こえる。瞬間、俺の真後ろを高速で何かが横切った。
「え?何が起きてんの?」
「見つかったの。」
彼女はそう発した。
「先に行かせた奴らが戻ってこないから、様子を見に来たんだが、全滅か、、情けない。」
森の中から一人の声が聞こえた。
振り向くと、そこにはまた、男が3人いた。その内、左右の男達は俺達に向けて銃口を向けている。俺がいなければ既視感すら感じる構図だ。しかし、今は風向きが違う。
俺は木に登って隠れてないからこそ、今の戦況は俺達が不利だ。
「しかし、見ねぇ間に知らない男が増えてんじゃねぇか、テメェ誰だよ?」
真ん中にいる黒服の中でも明らかに風格の違う奴が俺に声をかける。
「フッ、通りすがりの一般人だ。覚えておけ!」
「、、あぁ、いや悪ぃな。二度と会わない奴の事は忘れる主義なんだ。」
アイツの言っている事は状況の分からない俺でも分かる。
「待て!彼は関係無い!逃がしてやれないか?」
彼女は俺を助けようと発言する。
「それは無理な話だ。俺達の仕事は見られちゃいけない。」
奴らは俺に銃口を向ける。
きっと殺し屋か何かだろう。最低でも汚れ仕事のプロ達だ。なら、俺はここから無事に帰る事が不可能である事を前提に考えるんだ。
いや、ここから俺はどう抵抗すれば状況を変える事が出来るのか?
俺には浮かばない。
うん、ここは遺言を綴る事にしよう。
拝啓、来世の自分へ
来世の自分はちゃんと勉強をしてください。
言いたい事は沢山あるが、長々と書くと来世の俺は面倒臭がって読まないかもしれない。これだけで十分。何か凄い状況を見れて死ねるんだ。これ以上の幸福はそうそう無い。強いて言うなら、もっと真面な人間に成りたかった。
そう、これで良い。もう思い残す事も消した。
「待っってくれ!!!!」
俺の身体は精一杯の力で後ろに投げられた。
俺を投げたのは彼女だった。彼女は俺の前に立ち、俺の盾になった。
彼女はまだ俺を助ける事を諦めていない様子だ。何か策があるのだろうか?
「ごめんね。こんな事に巻き込ませちゃって、。」
彼女は俺に謝った。
大丈夫、結構楽しかった。
しかし、それは言わない。
「それと残念だけど、君は無事じゃ済まない。」
それも分かっている。死ぬ事なら元から覚悟は出来ている。
「でも大丈夫。君は私が助ける。絶対に死なせない。だから少しの間、動かないでね!」
そう言うと、彼女は腰にあるバックからフラスコを右手で取り出し、そのまま右真横に腕を伸ばした。
また銃声が鳴った。
ターゲットは彼女の右腕、残念ながら命中した。
「いぃっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」
彼女は鼓膜が破れそうな悲鳴と共に後ろに倒れた。
「ああああ、、。あああっぁぁあ。」
よだれを抑えきれず、割れたフラスコにも目をくれない。
「あぁっ、、ぐぐうぅぅぅっ、、。ががぁっ、ああぁああ。」
彼女は胸を俺の顔面に押し付け、倒してきた。目には涙が見える。
「はぁ、、。おい、こいつを引きはがせ。」
真ん中の奴が左右に指示を出す。
不味い。
何か策があった彼女はこんな状態だ。これは本当に終わったな。
そう思った時だった。
地面が亀裂が入った。中は白くに光り、外を虹々と照らし始めた。範囲は俺と彼女がいる所から大体円状に、黒服は範囲に入っていない。
どういうことだ?
俺は辺りを見渡した。すると、彼女が描いた魔法陣が光っていた。
彼女が落としたフラスコの中身は、近くにあった魔法陣へとどんどん集められていった。
「お前ら、少し様子見をするんだ。」
黒服は動きが止まった。
「息を吐いてからジッとして!!」
突拍子に彼女はそう言った。
「え?」
「早く!!」
俺は彼女の言われた通りに息を吐いた。
深く息を吸う。
瞬間、地面が消えた。
亀裂の入った地面は粒子の様に分解されていく。
当然だが、その上にいる俺は地面その場から落ちていく。さらに、俺は入水をした。崩れた地面の中には湖があったのだ。
息が出来ず、ジッとしたまま俺はただただ湖の中に入っていった。
俺は彼女を見た。
ゴーグルが無い為、彼女が見にくい。
しかし、何かを漁っている様だ。
そして、彼女は俺の口に何かの液体を突っ込んだ。俺は流されるままにそれを飲んでしまった。彼女も似た様な物を飲んでいる様だ。
瞬間、体の感覚が無くなった。
何も見えない。聞こえない。感じない。
瞬間、俺は真っ白い空間にいた。
さっきまでは確かに何も感じなかったはずだ。まるで俺は最初からこの場にいた気分だ。
「ごめんなさい。」
後ろから彼女の声が聞こえた。
と言うより、声が聞こえるまで俺は立っていて、後ろに彼女がいる事も感じなかった。この空間は不思議だ。ちゃんと感じるのに感じない。その認知に違和感がある。
俺は彼女の方を振り向く。
「本当にごめんなさい。あなたを巻き込みたくなかったけど、これしか思いつかなかった。」
別に構わない。しかし、この思いはしまっておこう。今は真面目に聞く時だ。
「時間が無いから、1回しか言わない。よく聞いておくんだ。これから君は異世界に行く。そこは魔法のある、こことは違った別の世界。生活様式も全く違うと思うから注意して。それと君の身体はもう戻らないと思う。本当にごめんなさい。」
彼女は淡々と俺に説明をし始めた。
「それと、さっきまでの事は、、、話すと長くなる。一言でいうなら、、そう、。君がいた世界には魔法の使えない人が集まっていて、これから行く世界には魔法の使える人が集まっている。あ、安心して!君はさっきの飲み物で魔法が使えるようになったから。」
なるほどその為の飲み物だったのか。
「、、もう時間が無いみたいだ。これ以上の事は、、うん、あっちの世界で再開する機会があったら、また話そう。」
彼女が粒子になって消え始める。
「おい、待て。こっちからの質問にも答えろよ。」
俺は無意識に走り始めていた。近くて遠い、彼女の元へ走っても何故か届かない。
「ごめんね、それは無理かな。、、それじゃあ、元気でね。バイバイ。」
彼女への道のりが遠い近づいているのに、何故か離れていく。
彼女が消える。瞬間に、俺の目の前には石ころが大量に現れた。しかも、さっきまでは走っていたのに、今は目の前が地面だ。後ろから重力がかかる。顔面だけが水の中で、鼻から水が入ってきた。
「てぃおdtbわ@pkwk!!!」
鼻がツーーンとする!!
俺は急いで顔面を水の外へ押し出した。
「はぁ、、はぁ、。」
俺は大きく息をする。
「はぁ、、、ん?」
そして、俺はここで新たなる違和感に気が付いた。
声がおかしい。
いつも俺が出す声よりもずっと高いのだ。
それに、髪の毛も青い。俺の髪の毛は黒髪だ。髪を染めた事なんて無い。
俺は周りの状況を確認した。
ここは森。森と言えば場所が同じの様にも思えるが確実に違う森だ。さっきまで浸かっていた水は、何処かの池の様だ。
黒服の奴ら、そして彼女がいない。時間帯は真昼間。さらに、俺の身なりは凄く幼い。
そして、さっきまでの会話から考えると、答えは考えるまでもない。
俺、異世界召喚されたんだな。