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4.もうダメ…(いろんな意味で) -side E-

「エリー、好きだ。」




 …鳩が豆鉄砲を食らった感じってこんな感じ? この世界に鳩に似た鳥はいるが、豆鉄砲は見たことないなあと、冷静じゃない頭の片隅で考えた。


「俺に時間をくれ。1年たってもエリーの気持ちが変わらなかったら、そのときは潔くあきらめる。だから、それまでは婚約者として受け入れてもらえないだろうか?」


 思いつめたような表情のアレクシス様から出た言葉に、私は心底びっくりした。まさか、そんなふうに思っていらっしゃったとは。でも、私や子爵家にそこまで言っていただけるほどの価値はないんだけどな…。


「もちろん、もしも、万が一、いや絶対にあってほしくないが、婚約解消ということになってもエリーには傷がつかないようにするし、その後の保障もするから!」


 ああ、アレクシス様は本当にお優しい方ね。長年おそばでお仕えしてきたけど、私の苦労がこれで報われたような気がするわ。私の子育て(?)は間違っていなかった!


「…わかりました。もし1年たっても気持ちが変わらなかったらごめんなさい。ずるいかもしれないけど、先に謝っておきます。」


 そのうちにはアレクシス様の気持ちも変わるよね?1年後には今よりもっと男ぶりも上がって、どんなご令嬢でもよりどりみどりよ。子どもが手元を離れていくってこんな感じかな?ちょっと寂しい気もするけど。




 消極的ではあるものの、私がとりあえず婚約を受け入れたことで満面の笑みを浮かべているアレクシス様には全然気づかず、1年後の婚約解消(あくまでも予定)を想像して私はひそかに感傷に浸っていた。




 それからのアレクシス様は、私にいろいろなものを贈って下さったり、休みの日には観劇や郊外に出かけたりと、お忙しいのに頻繁に時間を作って下さった。(子爵家にいらっしゃったときには、弟に学院のことをあれこれ教えて下さり、入学を控えていた弟は真剣に聞いていた。)


 そんなアレクシス様に、私も小さな刺繍を施したハンカチを贈ったり、郊外に出かけるときにはランチを作って行ったり(料理は自信アリ!)と、一緒に過ごす時間を楽しんだ。たまに、どこぞのかわいらしいご令嬢からキツイ視線を向けられることもあったけど、特に実害がなかったこともあり、あまり気にならなかった。(あとで知ったけど、ひどい場合には護衛や侍女から報告が上がり、相手の家に無言の圧がかけられていたらしい。公爵家恐るべし…。)




 しかし、婚約から半年余り過ぎても、以前より親愛度は増したものの私の気持ちはやっぱり恋愛感情とは言えないままだった。このままアレクシス様の時間を無駄に費やすのも申し訳ないな…と悩んでいた頃、あの事故が起きた。






 その日はアレクシス様の休みで、王都の平民街にある市場に一緒に行った。公爵子息であるアレクシス様はお店に行って買い物をするという経験がなく、私がよく行く市場の様子を見てみたいとのことでお連れしたんだけど、売り子と客の駆け引きや普段目にすることのないいろいろな品物が珍しいようで、少年のように目をキラキラさせてあたりを見回していらっしゃった。田舎から初めて上京したときの私を思い出すわー。一応平民に見えるように変装したけど、やっぱりにじみ出る気品は隠し切れず、ちょっと浮いた存在だったのは仕方ないかな、うん。


 人や荷馬車がせわしなく行き交う市場を見て回り、少し休憩しようと中央広場に来たとき、アレクシス様が「すぐ戻るからちょっと待っていて。」と言ってどこかに行かれた。市場には巡回の衛士もいるし治安は悪くない。ちょっと歩き疲れていた私は、アレクシス様が消えていった方を眺めながらぼーっとしていた。




 ……遠くで何かを叫んでいる声が聞こえるような気がする。


 気がついたときには、すぐ近くまで暴走した荷馬車が迫っていた。危険だと認識はできるけど、恐怖で体が硬直してしまって動けない。




 …ああ、前世で車が突っ込んできたときと同じだ。私はまた死ぬんだ…。




 目の前に荷馬車が迫ってきて、私は目を閉じた。すると、横から何かがぶつかってきて私は地面に倒れこんだ。




 …ん?あんまり痛くない。




 気がつくと、私の視界はこげ茶色。あれ、天国って白じゃないんだ…と思っていたら、頭の上の方から声がした。


「エリー、無事か? ケガはないか?」


 顔を上げると、焦ったようなアレクシス様の顔が見えた。そのとき初めて気づいたのよ、アレクシス様に抱え込まれて倒れていることに。こげ茶色って、アレクシス様の上着の色じゃないの!




 …エ、ナニコレドウイウコト?

っていうか、アレクシス様の顔がめっちゃ近い。おまけに鼓動も聞こえる。胸板厚い。私好みの細マッチョだー。アレクシス様は着痩せするタイプなんだー。シラナカッタナー。




 脳内処理能力をオーバーして斜め上の方に思考がイってしまった私はそのまま気を失ったようで、次に気がついたときは、我が家の慣れ親しんだベッドの上だった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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