2.あこがれのおひとり様生活 -side E-
…アレクシス様といきなり「婚約」だなんて、心臓が止まるかと思ったわ。
夜会できれいに着飾らせてもらったのは、長年アレクシス様のお世話係を務めたボーナスだと思っていたんだけど。
だって、あちらは今をときめく公爵家、こっちはしがない子爵家よ?しかも6歳も上の嫁き遅れ。それに、甘い雰囲気になったことなんか一度もないし、だいたい私は公爵家の使用人だったのよ?お仕えする方にそういう感情は持っていないし、息子というか弟というか、とにかく恋愛対象としてアレクシス様を見たことはなかったんだけど。
……ああ、そうか、きっと縁談よけね? まだ成人されたばかりだもんね。
公爵家で用意してくださった馬車で帰宅しながら、私はあれこれ考えた末にたどり着いた「偽装婚約」という答えに自分で納得した。
翌朝、アレクシス様が我が家に来られた。
お父様がしばらく話をされていたけど、その後2人で我が家の庭を散歩することになった。とはいっても、散歩できるほど広い庭じゃないんだけど。
そうしたら、結婚を申し込まれたのよ。何でそうなる?偽装婚約じゃなかったの?
いろいろ理由を挙げてはみたけど、公爵家の夜会で大々的に発表されてしまっているから今さらなかったことにはできない。しばらく婚約を続けておいて、「やっぱり無理だった」でしかるべき時に解消という流れが一番自然かな…。それが弟とも息子とも思うアレクシス様にとって最善だろうと思い、そのようにお伝えしたら、なぜか抜け殻のようになられて従者に支えられながら帰宅された。
「エリー、子息様は何て仰ったんだい?」
「お父様、アレクシス様とはしばらく婚約を続けることになりそうだわ。先ほどお話しされたのではないの?」
「いや、突然のことでよく理解できなかったんだが…。本当に婚約の申し出があったのかい?」
「まあ、お父様ったら。ずっとおそばでお仕えしていたからというだけよ。私みたいな年増をわざわざ選ばなくても、社交界に出ればすてきなご令嬢がたくさんいらっしゃるから、そのうちには婚約解消ということになると思うわ。」
笑いながら言うと、お父様は心配そうな顔をしていた。
「エリー、お前には苦労させた分、幸せになってほしいんだよ。」
「大丈夫よ。ベンジャミンが成人したらうちを出て市井で暮らそうと思っているの。それまではお世話になります。よろしくお願いします。」
ずっといてもいいんだぞとお父様がぶつぶつ言っているのが聞こえたけど、私はあこがれのおひとり様生活を想像してルンルン気分だった。
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