表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
密かに侯爵家乗っ取りを企む伯爵令嬢は、公爵令息と政略結婚する羽目になる  作者: 綴喜
一通りの流れスキャンダルから王女の結婚まで
7/67

婚約披露パーティー

 あっという間の三週間後、祝福するような晴天の日に城のバルコニーで民衆に向けてエリーゼとジェイクの婚約がお披露目された。

 王女殿下の顔は幸せそうで、隣で手を振る青年がピタリと寄り添っている。痩身の青年のことを詳しく民衆は知らない。この三週間のスパルタ講義で五キロも体重が落ちたことなど知る由もない。

 また王族の婚約にも関わらず、傍らには王と側妃のみしか立たなかった意味も一部しか分かっていないようだった。


 夕方からのパーティーは、貴族階級へのお披露目だ。

 社交シーズンに入った最初の国王主催のパーティには、当然のように招待された貴族は皆出席した。


「皆知っていると思うが、娘のエリーゼとサミュエル侯爵令息ジェイクが結婚することになった。エリーゼ、一言話しなさい。」

 最後に入場した国王は、すぐに末娘の婚約を発表して発言を促した。病弱だからといつもウィンダム公爵令息が傍に立ち、笑みを浮かべていた姫の言葉に貴族は耳を傾けた。今日はAラインの純白のドレスでさながら花嫁のようである。対してジェイクも上質なタキシードに身を包み、手をエリーゼの背中に回した。

「私とジェイクの為にお集まり頂きありがとうございます。この度真実の愛によって、ジェイクと結婚出来ることとなりました。この幸せが皆さんにもお裾分け出来ればと思います。」

 幸せに浸りジェイクの腕に体を預ける。上位貴族たちのおざなりな拍手ですらエリーゼ王女の耳に入る時には祝福の音に変わるようだった。下位貴族たちは熱心に手を叩き国王の関心をひこうとしていたが、内心は上位と同じである。これをきっかけに自分の息子や娘が『真実の愛』と言い出したら、どうしてくれる。今までの努力が水の泡だと腹の中では思っていた。


 拍手が静まりジェイクが口を開こうとすると、先を王が遮った。

「二人は今週中にも王都を出発し、南の領地に移動する。結婚式、叙勲式もそちらで行うこととする。」

 エリーゼとジェイクが驚き、目を丸くしている間に王は続ける。

「異論はあるか?」

 威厳のある問いかけに、エリーゼはすぐさま頭を下げた。

「陛下の仰せのままに。」

 腕を引っ張られてジェイクも無様に頭を下げるが、王の視線は感じなかった。

「もう一つ発表がある。ライル、ローズ嬢こちらに来てくれるか?」

 王女殿下たちの元婚約者たちの名前に会場に動揺が走るが、現れた二人の姿に更にどよめきが起こった。

 ウィンダム公爵家子息のライルはタキシードにネクタイピンのサファイアが輝くシンプルなものだ。だが無表情を崩さないことで有名な彼がアルカイックスマイルを見せている。

 そしてその腕にエスコートされているのはトレードマークの首まで覆う赤のドレスではなく、胸元の空いた青いAラインドレスを着たシェラード侯爵令嬢のローズであった。ロングの豊かな黒髪をサイドを編み込んで左側に流して別人のようである。

「今日も美しいな、ローズ嬢。」

 国王の賞賛にローズがカーテシーをすると、周囲から感嘆の声が漏れた。ライルもお辞儀をすると王が隣に立つ。

「このウィンダム公爵子息ライルとシェラード伯爵令嬢ローズも婚約となった。我が娘の我儘の巻き添えを食った2人だ。王家が後ろ盾となり償う。」

 一瞬静まり返った会場は宰相の拍手を皮切りに先程よりも大きなものになった。令嬢たちの悲鳴も聞こえたが、手を打つ音にすぐに掻き消される。ライルがローズの左手を取り、1歩前に進むと拍手が徐々に鳴り止む。


「私たちは王命による政略結婚となりました。良いご縁を得て、感謝すると共に王の為に精進致します。」

 ライルが促して、続くローズも口を開く。

「サミュエル侯爵令息との婚約解消を経て、私はどんな方の元にも嫁ぐ所存でございました。この度のライル様との縁に感謝いたします。ウィンダム公爵家、王家の為に一層努力して参ります。」

 二人で顔を見合わせる姿はまだぎこちなく、お互いに歩み寄りきれていないのがよく分かった。しかし、しっかりと繋がれた手に意思が表れており、貴族の矜恃に再び拍手が沸き起こった。


「では、ファーストダンスは二組にお願いいたしましょう。」

 王妃のかけ声に楽団が準備を始め、二組の婚約者達に注目が集まる。

 踊り始めると、どうしても片方に視線が集中した。

 ライル、ローズのペアだ。今までの夜会で二人がペアで踊るところなど見たことは無かったが、優美で隙がなく時折何かを話し笑いあっている。二曲目では軽々とリフトをこなし、称賛の声が漏れた。

 エリーゼもダンスは上手いのだがジェイクのリードがおぼつかず、練度の差を感じた。元婚約者たちがリフトを成功させると対抗して挑戦するが、タイミングが合わずそのまま踊り続けた。三曲目からは国王夫妻に王太子夫妻、第二王子夫妻も混じり、四曲目にライルとローズは輪を離れた。さすがに疲れたのか肩で息をして、頬を上気させる姿が好ましい。

 エリーゼとジェイクはそのまま踊り続けていたが、普段ライルと嫌々一曲しか踊っていなかったエリーゼのステップは徐々に乱れて曲を終えた。王都からすぐに離れると聞いた時点でエリーゼとジェイクへの大人たちの興味は削がれていたが、夢見る令嬢たちの注目もライルとローズへと流れてしまった。


======

「ローズ、次の曲でリフトをしてみようか。」

「分かりました。ライル様のお手並みを拝見させていただきます。」

 一曲目を優雅に踊りつつ、周囲から聞こえにくい中央付近でライルがローズに話しかけた。ローズは提案を粛々と受け入れながら、チラリとジェイクを見ると予想通りエリーゼの身長に慣れていないせいか動きが悪い。

「何であんなに踊り慣れていないんだい?」

 笑顔で問いかけるライルにローズはにこやかに笑みを返す。

「私以外に、慣れていないからですわ。ジェイクは苦手なことは必要最低限しかしないタイプですの。」

 ジェイクの致命的な短所である。だから地理にも社交にも弱い。しかも最低限行うのはローズが言うからだ。

「君は私にも慣れているようだがね。」

 ライルの指摘通り、元婚約者と新婚約者は身長も体格も違う。簡単に言うとひょろひょろのっぽと中肉中背だ。

「私は父とも兄とも伯父とも従兄弟とも踊りますもの。相手なんて選びませんから。」

「あぁ、それは良い訓練だな。騎士も同じことをすると聞くよ。」

 ケラケラと笑いながらステップを踏むライルも、エリーゼと一曲踊った後はいつも色々な令嬢の相手をしていたただけあってダンスのリードが手慣れている。

「やはりダンスは慣れと練習あってのものだな。」

「ええ、それでも三曲くらいでお休みさせてくださいね。」


======

「呪いが解けたわ。」

 ライルとローズの踊る姿を見ていたたどこかの令嬢が呟いた。


 将来は微笑みの貴公子と呼ばれると誰もが思った少年は、ある日笑みを浮かべなくなった。同級生が聞けば眉を下げ『王女殿下が不快だと仰るので、止めました。』と言うばかりだった。それからは口角を上げることもなく、悲しげにするか無表情かである。

 自分が癒して差し上げたいと何人もの令嬢が近寄ったが、ライルは全てを断った。王女との白い結婚を承諾し、ウィンダム公爵家の後継は弟の子にすることまで決まっている。笑顔を封じた青年はどれだけ王女に冷たくされても王家に従うのだと同年代の少年少女は厳しい貴族社会を実感していた。


 ローズもまた然りである。

 ある年からパーティーに出席する際の服装が固定化された。首まで覆うワインレッドのドレスに艶やかな髪をきっちりと纏め、年齢よりも三十歳ほど上のご婦人に相応しい格好だ。学園にいる時も髪は纏めたままで、友人との遊びも似た服装になった。色もいつでもワインレッドだ。

 侯爵邸のメイド達から広まった噂によると婚約者のジェイクはローズが自分が贈ったドレスと似た服を着て、髪を纏めていないと機嫌を損ねるらしい。しかも先触れもなく訪問する時もあり、ジェイクに会うときだけでは済まない。クローゼットは喪服用の黒とワインレッドで埋まっているという。

 令嬢達は同情し婚約者の父親のサミュエル侯爵に申し出るように進言したが、ローズは首を縦には振らなかった。身分が上の侯爵家には逆らえないと令嬢に告げた。ダンスを学園で教えている年配の教師が耐えられず、それとなくジェイクに伝えたが「父上も望んでいます。あなたに権利はありません。」と無下にされた。卑猥なわけでも非常識でもないワインレッドのドレスでは批判出来るほどの強烈さは無く、教師は黙るしかなかった。おまけにサミュエル侯爵夫人も似たような服装で統一している。あの侯爵家の無駄なしきたりなのだろうと周りは諦められていた。


 その二人が笑顔で、青い服を身にまとっている。

 怒涛の如く決まった縁談を受け入れたばかりには見えないほど幸せそうな二人に、令息令嬢たちは政略結婚の幸せを考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ