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元王女の準備

 それからのエリーゼとルイの成長と、クラークの八面六臂の活躍は周囲を驚かせるばかりだった。


 クラークはジェイクに『文官』というフレーズで思い出されないようにルイの家庭教師という扱いになった。ジェイクは新任の家庭教師と聞いてうら若い女性を想像したのか一度だけ覗きに来たが、男だと分かれば興味をなくして顔も見ずに去っていった。

 誰かに止められないと休まない仕事人間のクラークはサミュエル領時代はベテラン執事が、シェラード領では執事からの助言を受けていた周りの人間がブレーキをかけていたらしい。

 その詳細が記された書面はジョンに手渡された封筒に入っていたが、クラークはやりたい仕事を思う存分するために「シェラード伯爵が大袈裟で」と補足し、実際に一年は大人しく生活していたことで皆から気を逸らした。食生活だけは管理されて栄養面では完璧な不眠男は白粉などで顔色を誤魔化し続け、満足するまで仕事を続けた結果エリーゼたちの目の前で過労で倒れた。目を覚ますと己がスパルタに領地経営を教え込んだエリーゼから体調管理について怒涛の如く怒られ、ルイにはベッドに寝転がらないと許してもらえない日々を送ることになった。

 ただ過労で倒れるまでの仕事はジョンたちの予想を飛び越えており、橋の建設から特産品の販売ルートまで多岐にわたって成果を残した。静養後のクラークは周囲からの圧力の下、以前よりもペースを落としての仕事となったが、エリーゼたちがルイが学園に入ってからと考えていたジェイクへの制裁の時期を早めるには十分過ぎるほどの成果だった。



 領地経営への意欲と知識、それを実現する磐石な財政が手に入るとエリーゼは熟考し次に進むことを決めた。


 エヴァ、ジョン、そして使用人たちに残った一番の懸念はルイにエリーゼが実母ではないことを知らせることとなった。告知をズルズルと遅らせ続ければ母思いのルイのショックは計り知れず、道を踏み外すことも危ぶまれる。また実母のマリアンヌはジェイクがお払い箱になれば次はルイを金づるにしようと隙をみては接触を試みているようだ。マリアンヌの話に耳を傾けるようになってしまえば、エリーゼとの仲は必然的に崩壊するであろう。ルイを心の糧としてきたエリーゼの事を考えると、それだけは防ぎたい。しかし、エリーゼは一向にルイと二人きりで伝える様子も見せず、お付きの者たちには二人の笑い声しか耳に入らない。穏やかな二人の姿を見ていると告知を促す事も心苦しくズルズルと延期していた。

 エリーゼが一つ成功する度に、周囲は親子の関係を考えるようになった。仕事以外には無関心なクラークも、今後の仕事に関係するために注視するようになった。


 そろそろルイが五歳となる年の暮れ、意を決したエヴァがジョンとクラークを控えさせて、エリーゼを私室に呼び出した。護衛も侍女もおらず深刻そうな三人の様子に、エリーゼは何か大失敗か大災厄、もしくは王家に不幸が起きたのかと眉を寄せてエヴァの向かいに座った。

「何よ、ジェイク達に村の利益がバレたの?それとも陛下たちに何か病気が?私にも早く教えてくださる?」

 不満げに呼ばれた理由を問いただすエリーゼに、エヴァは重い口を開いた。

「そろそろジェイクに一泡吹かせるのでしょう?」

「お母様だって計画に参加しているのだから知っているじゃない。春にアークお兄様が主催するガーデンパーティーが開催されるから、その場所で不貞を暴いてやりましょうって。ジェイクは六年も王都に行かせていないのよ。そろそろ私財だって減っている自覚があるでしょうし、金策にはうってつけだと思うはず。無理矢理理由を考えて行かないようにしていた分、道中はあの女と一緒に胸を膨らませるんじゃないかしら。お兄様やローズが口の堅い同世代を集めてくれるから、会場で話す内容は表には出ないはずよ。二人を引越しさせる家も購入して準備万端ね。」

 以前よりも頭が回るようになったのか、スラスラと話すエリーゼの話を遮るようにクラークが勢いよく手を挙げた。これは彼の癖であり、意見を言わせるまで徐々に近づいてくる悪癖である。

「何よ。どこに問題があるの?」

「ございます。会場にはルイ様がいらっしゃいます。目の前で殿下に男爵の不貞をお話しされるのですか?」

 クラークの問いかけにエヴァとジョンは青ざめ、ルイが悲しそうに泣き出す姿を想像した。

「当たり前でしょう。お兄様が警備を増やしてくれるから大丈夫だと思うけれど、ルイと離れることは出来ないわ。」

「そうすればマリアンヌはきっと自分がルイ様を産んだと声高々に叫ぶでしょう。」

「でしょうね。ジェイクが頼れなくなったら、実母の権利を主張するのがあの女の切り札だと私も思うわ。だから使用人の控え室でジェイクが離縁されて、ルイが跡を継ぐらしいとライルの使用人に広めて会場に突撃してもらうつもりよ。二人を一気に片付けた方が後々のことを考えれば楽だろうってお兄様から提案されたの。どうせカネ目当ての女よ。いつまでも周りをうろちょろされるよりも一度に払って、終わりにしましょう。」

 その言葉にエヴァはキッと目を釣り上げて、目の前のテーブルを叩いた。

「ルイの気持ちは考えないの?大好きなお母様じゃなくて、他の女が母だったなんて。目の前で伝えられたら心を病んでしまうわ!!もっと静かに計画の前に二人きりで教えてあげなさい。それが母というものでしょう!!」

 激昂する母の姿にエリーゼは瞬きを繰り返し、ジョンとクラークを見てからやっと話を理解した。


「あの子、もう知ってるわよ。」


「ルイが二歳の時だったかしら。手が付けられない時期にルイが『おかあさまと二人がいい。』って言ったの。だから乳母には離れてもらって膝に乗せて頭を撫でていたら、『おかあさまはぼくのほんとうのおかあさまではないの?』って泣き始めたのよ。大泣きだったわ。あの可愛い目に真っ直ぐ見つめられて、嘘なんて言えなかった。だから『あなたを産んではいないけれど、私が一番あなたを愛してる自信があるわ。』って答えたの。そうしたら涙が止まって『じゃあいい。あっちこわい。おかあさまがほんもの。』ってあの子笑ったわ。それからはよくあった癇癪も減って、ますますいい子になったわ。多分あの女に言われた事が不安だったんでしょうね。たまにルイって私に内緒話をしたがるでしょ?あの時って大体『お母様が本物。大好き。』って、言ってくれるの。だからルイは覚えているし、分かっているわ。」

 ルイとのやりとりを思い出したエリーゼが遠くを見ながらうっとりと思い出す様子に三人は肩を落とした。

「そんなに以前に解決していたのね。」

「二歳の時のことを覚えているでしょうか?念の為確認はさせていただきます。」

「坊ちゃんは物覚えが良いですから、多分覚えてますよ。」


 クラークの言葉通り、呼び出されたルイはエリーゼに抱きつきながらケロリとした顔で答えた。

「知ってる。僕を産んだのはあっちの人。けれどお母様はこっち。お母様大好き。一番きれい。」

 大好きと言いながらはにかんだ笑顔をエリーゼに向けると、エリーゼも抱きしめ返して微笑んだ。

「私もルイが大好きよ。」

「なんか血よりも育ての母が母って貴族って感じですね。」

 クラークのげんなりとした言葉にジョンはしみじみと、エヴァは当然とばかりに深く頷いた。


 こうして準備を整えたエリーゼはジェイクに上手くガーデンパーティーの噂を流し、ジェイクの思わぬ言動に驚かされながらも、臨機応変な王太子の話術によって軌道修正され、マリアンヌの予定通りの行動に扇の下でにんまりと笑いながら、最低限の出費で夫と離婚、ルイの母親とも縁を切ることが出来た。

読んでいただきありがとうございます。

これにてエリーゼ編終了でございます。

あとは成長したルイとエリーゼの母エヴァについて書いて終わりたいと思います。

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