王太子の独壇場
あけましておめでとうございます
「ルイは私の息子ですわ。」
きっぱりと王太子に告げるエリーゼの堂々とした態度は元王女に相応しく、六年前のパーティー以来の貴族たちは驚いている。
「そうか。ではジェイク、その子供は誰の子供だい?」
王太子はエリーゼに頷き、ジェイクに顔を向ける。ジェイクは王太子からの視線に瞬きを繰り返し、あからさまに狼狽えた。
「ルイはわ「ジェイク様!今こそ真実をお話しする時ですわ!」」
ジェイクが弱々しく発した声は後ろから飛び出てきたマリアンヌの声に掻き消された。マリアンヌはそのままジェイクの腕に縋り付き、王太子に訴えた。
「その子は私が産みました。ジェイク様と私の子です。産んだ直後にエリーゼ様に取り上げられ、私は引き離されたのでございます。王太子様、どうか子供をエリーゼ様からお返しください。」
王太子はマリアンヌの悲痛な声を無視して、ジェイクを見つめた。
「エリーゼ関連の出来事は陛下から全ての裁量を任されている。エリーゼに臆することは無い。ジェイク、ルイは誰の子だ?」
マリアンヌからの声かけと、王太子の自分に好意的な発言に、ジェイクは心を決めた。
「私とマリアンヌの子でございます。私とエリーゼには子が出来ませんでした。日に日に冷たくなるエリーゼに打ちひしがれた私はマリアンヌと出会いました。マリアンヌは平民ですが、心の美しさは貴族とも王家とも変わりありません。マリアンヌとの真実の愛に目覚め、子供が出来たのです。エリーゼと別れ、マリアンヌと子供のために生きようと思いましたが、エリーゼは許してくれませんでした。息子を出産直後に奪われ、勝手に名付けをされ、エリーゼの元で育てられたのです。息子の出自を偽り、申し訳ありません。どうかお慈悲を。」
マリアンヌと深く頭を下げるジェイクに、王太子は頭を上げるように促した。
「いや、元々ルイはジェイクと平民の妾の子だと聞いている。偽られていないよ。まぁエリーゼの子と主張すればマーガレットを嫁がせる事も政治的に出来たが、それは諦めるんだね?」
「え?」
てっきりエリーゼの実子と報告されていると思っていたジェイクは、予想外のことに口をあんぐりと開けた。
「まさか公爵家が男爵の妾の息子に令嬢を嫁がせれば、友好の証明になるとでも言い出すのか?君の主張は公爵家と王家の絆だったはずだ。エリーゼの血が入っていなければ、君の息子に嫁ぎたいという令嬢は他の家にもいないだろう。」
「な。」
先程まで熱心に訴えた内容の矛盾をつかれたジェイクに言葉は出ない。ローズと自分との友好では足りないだろうかと昔の癖でローズを見るが、呆れたように首を振られた。その様子に王太子は微笑んだ。
「話は変わるが、サミュエル家に戻るつもりはないか?もちろん妾を伯爵夫人には認めないが。」
唐突な王太子の問いにジェイクは我に返って首を横に振った。
「いえ、私は結婚する際にサミュエル家とは無関係だと絶縁された身。殿下が許しても、身勝手をした私をサミュエル家は許さないでしょう。」
南にいたジェイクでも生家の没落ぶりは知っている。伯爵家に堕ちたあんな家よりも今の男爵領の方が数倍は潤っているはずだ。王太子の罠をすり抜けたジェイクは申し訳なさそうな顔を意識しつつ内心ほくそ笑んだ。
「そうか。ではジェイクはエリーゼと離縁して平民となり、エリーゼがロード男爵家を名乗ることとする。異論はあるか?」
「仰せのままに。」
エリーゼが深々と頭を下げる中、固まるジェイクの腕にまとわりついたままのマリアンヌは思わず声を発した。
「あんまりですわ。これが王となる方のすることなの?陛下にだって側妃がいたじゃない?その娘がエリーゼ様でしょう?ジェイク様は同じことをしただけなのに、男爵じゃなくなるなんて!」
強く睨みながら話す内容に王太子は笑い、不敬だと前に出る兵を止めた。
「それは違うんだよ。まずエヴァ様と君では立場が違う。あの方は王妃が出産により執務が困難になった際、国が選んだ。多少陛下の意見もあっただろうが、必要なのは明晰な頭脳だった。一応妻でもあるから、子を産んでも問題ない。君は妾だ。仕事なんてない。ジェイクの好みだっただけだ。そして政略結婚ならそれも納得する。エリーゼを押し付けられて、憂さ晴らしが欲しかったのだとね。けれど侯爵家嫡男の座を蹴ってまでした恋愛結婚の憂さ晴らしは必要かな?子が出来なかった。愛していると誓った妻を一年で見限り、別の女に走った夫の言う台詞だろうか?せめて三年ほど粘るんじゃないのかい?それに後継のための妾だとしよう。で、あれば貴族なら良くあることだ。血を絶やさないために、仕方なく他の女に産ませてくださいと。これは親族が願うことなんだ。先程ジェイクはエリーゼの時にも使った真実の愛という言葉を妾にも使った。であれば、エリーゼは既に偽りの愛というわけだ。それは妻に対しての裏切り、その親族から離縁するように言われることも良くあることだ。さて、ここまでは一般論。」
王太子が澱みなく続いた言葉を区切ると、エリーゼがため息をついた。
「お兄様、お話が長いですわ。大事な事は簡潔に言ってあげてくださる?」
「ああ、悪い癖だ。ジェイク、君は婚前にした契約を反故にした。だから違反した場合の条項に則ってロード男爵家から離籍するんだ。」
朗々とした口調から一変した王太子はジェイクの前に腕組みをして立ち、片眉を上げてみせた。
「まさか契約書にサインしたことを忘れてる?」
読んでいただき、ありがとうございます。
続きは来週投稿します。




