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男爵夫妻の凱旋

六年後のざまぁです。

 エリーゼと息子ルイ、それに乳母マリアンヌと何故か同行している義母の無表情な侍女と共に王城を訪れたジェイクは並々ならぬ決意を秘めていた。六年振りの王都、そして城。今よりももっと良い生活をするためにジェイクは拳に力を込める。


 今回の春のガーデンパーティーの主役はアーク第二王子の六歳になる息子で、所謂結婚相手探しを目的としている。だから伯爵家以上の爵位の子女しか呼ばれていない。そこに従兄弟としてサプライズでルイを登場させる計画である。もちろん結婚相手を選ぶためだ。今は男爵夫人となったとはいえ王女殿下の息子の結婚相手であれぱ、誰も断らないだろう。そしてその親たるジェイクにもきっと支援を惜しまないはずだ。

 


男爵になって最初の年は一番大変だった。いくら勉強しても補佐官は褒めてくれない。名案を思いつき提案しても、補佐官も義母も首を縦に振らずにため息をつくばかりで成果として認めてくれない。もちろん独り立ちは出来なかった。一年も経つとエリーゼの視線も冷たい物に変わったような気がする。

 二年目にルイが生まれるとエリーゼはルイに付きっきりになり、ジェイクとは離れて暮らし始めた。乳母として雇ったマリアンヌは仕事をエリーゼに取られたからと、ジェイクの身の回りの世話をしている。三つほど年上のマリアンヌは南の領地の生まれで、エリーゼよりも慎み深い。料理や洗濯をこなし、商人との打ち合わせからの帰りを待っている姿にジェイクは癒されている。

 ここ数年は補佐官たちもジェイクの実力を理解したのか、必要書類にサインをするだけの簡単な業務に変更されている。これだけで良いのなら、補佐官たちに金を払い続けるのも悪くない。王家から派遣された役人たちが悪さをするとも思えず、やはり王女エリーゼに対しては大甘だったことを理解する毎日だ。

 エリーゼが熱心に義母の元に連れて行き、ルイを教育をしていると聞く。義母はとても優秀な人間だ。きっとルイも優秀な男爵にしてくれると信じている。

 ルイはジェイクが親にも関わらず人見知りをする。乳母のマリアンヌにもだ。心を開いているのはエリーゼと義母、それに使用人たちだと商人たちから聞いている。ブラウンの髪に緑色の瞳はジェイクと同じだというのに、顔つきや表情は全く違う。ジェイクとマリアンヌが近づくと、エリーゼの後ろに隠れてしまうのは恐らくエリーゼが何か悪いことを吹き込んでいるからだ。であれば、親子の情も薄れるもの。計算よりも読み書きよりも先に、自分のサインの真似をさせたい。サインくらい子供でもできるはずだが、エリーゼに阻まれている。


 ところで何故王都に六年振りなのか、通常であれば社交と王家への忠誠を示すために毎年王都に推参するのが当たり前だ。しかし王家からは年一の査察で報告は十分であると遠方であることを理由に免除されている。それでも懐かしい王都に向かおうとするジェイクだが、社交シーズンになるとジェイクには行けない理由が発生する。一年目は南の領地には滅多にないという大量の雪で行く手を阻まれた。また二年目はルイの誕生でエリーゼが同行出来ないため、やむなく補佐官に書状を託して見送った。それからも馬の調子が悪くなったり、エリーゼが風邪をひいてしまったりと機会を逃し続けている。補佐官たちも強行しようという意思が無いようで、ズルズルと六年経った。


「ロード男爵と夫人だ。中に入れたまえ。」

 城門の騎士は不躾なジェイクの態度に驚きながらも、決して馬車を通過させようとはしなかった。

「失礼ですが男爵、本日のパーティーの招待状はお持ちでしょうか?」

 手をマリアンヌに差し出す騎士の手を乱暴に払い、馬車の戸を開けて眉間に皺を寄せた顔を見せてやる。この六年で培った商人たちには効果がある技だ。

「私の妻はエリーゼ王女殿下だぞ。里帰りに許可が必要か?」

 睨みを効かせると、門番よりも位の高そうな騎士がすぐに駆け寄ってきた。

「申し訳ございません。どうぞお通りください。すぐに陛下にお知らせして参ります。」

「それまで私達もパーティーに参加させてもらうぞ。」

 ふんと反り返ってみせると、隣に座るマリアンヌが体を寄せてきた。エリーゼとは体型が異なるため、深紅のドレスはお下がりではなくこの日のために新調している。体にぴったりと沿ったドレスにジェイクは鼻の下を伸ばした。

「ご主人様、お城は怖いところなのですね。」

 そっと手を握ってやれば震えているのが分かり、先程の無礼な騎士に怒りがわく。

「私が守ってやる。安心しろ。」

 そう言えば目を潤ませたマリアンヌが頷き、王城へと入ることが出来た。



 馬車を降りれば、エリーゼがルイの手を繋いで前に立った。チラリと振り返ったエリーゼはジェイクに微笑んで手で前へと指し示した。

「どうぞジェイク様、ガーデンパーティーは中庭で行われているはずです。主人たるもの先頭を歩いて頂かないと格好がつきませんわ。」

 南では着ることの無かったヒラヒラとフリルの多いピンク色のドレスを着たエリーゼと濃い緑のタキシードを着るルイが廊下の端に並んで促されると、ジェイクは一人で前に立った。メイドの後ろを一歩一歩進む度に六年前のことを思い出す。この城に自分の部屋があった。機嫌良く歩く後ろ姿をエリーゼが冷めた目で見つめていることをジェイクはまだ知らない。


読んでいただき、ありがとうございます。

また来週投稿します。

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