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病室への訪問

「で、何故カミラ様のお父様であるモーティマー侯爵が捕まりましたの?」

「昔の客で薬の元締めだったんだ。おまけに執事はモーティマー侯爵家を解雇されてホランド侯爵を頼った。執事の息子の顔は笑えるくらいにモーティマー侯爵に似ているよ。モーティマー侯爵は眼鏡に髭がトレードマークだったけれど、もしかしたら他にも似たようなな顔の者が市井にいるかもね。」

「まぁ。」

「囲っていた娼婦に子供が出来て、使用人に押し付けて解雇したんだ。周りには愛人に手を出した使用人を追い出した、ということにしてね。執事は取り調べの最中に禁断症状が出た。デイジー嬢よりも侯爵よりも遥かに強くね。ラッセル侯爵に使われ、追い出された後は妻に継続的に使われていたんだろう。彼の残った良心で侯爵たちの薬の使用は限定的で、症状が軽く済んだ。」

「では何故絞首刑に?」

「もう末期だったんだ。薬が抜けきらない。抜けた後は廃人になるしかなかった。侯爵が友人として彼だけを墓に埋葬するそうだ。」

「息子の方は?」

「マチルダ嬢を手に入れられない鬱憤を平民で晴らしていたことは明確で証拠もあった。モーティマー侯爵が認めていれば侯爵令息になっていたかもしれないが、それでもただの乱暴者の放蕩息子だね。」

「執事の妻もモーティマー侯爵と一緒に捕まったのですか?」

「捕まったが、再度王都放逐さ。モーティマー侯爵のまだ捕まっていない仲間たちは裏切り者だと思って襲いに来るはずだ。そこを一網打尽にする考えのようだよ。」

「何故モーティマー侯爵は高級娼婦を囲わなかったのでしょう?妊娠なぞ彼女たちのプライドが許さないでしょうに。」

「頭のいい女と洒落のきいた遊びをしながら、馬鹿な女とも遊びたい奴もいるんだよ。」

「ライル様はどちらですか?」

「私はローズがいれば、彼女たちの世話になることはないよ。」

「数年経てば意見は変わるものよ、とイザベラ様がおっしゃっていました。」

「彼女だってまだ未婚だろう。ところでいつまで病院の前で話し続けるのかな。ずっと馬車を停めていると不審がられると思うけど。」


「そうですよ、お嬢様。踏ん切りがつかないならば、出直しましょう。」

 ユーリの言葉にハリーが頷き、ライル様も頷いた。

「駄目よ。今日伺いますって、伝えてしまったもの。デイジー様が気を悪くされるわ。」


 モーティマー侯爵が捕まって暫くしたある日、デイジー様の面会が許された。既に薬の副作用からは回復しているが精神的なショックはまだ残っていてあまり長居は出来ない。父にそう伝えられて、すぐに翌日に伺いますと返事をした。午後とだけ指定されているため、いつでも良いらしい。同行してくれるライル様が迎えに来て、病院前まできて約十分。馬車を降りるわけでもなく、ライル様と雑談を交わす。カミラ様の父が捕まった理由で時間を稼いだが三人には分かっていたようだ。

「参りましょう。」

 自分がお見舞いなぞ迷惑ではないか。言葉とは裏腹に立ち上がることが出来ない私の手をライル様が握った。

「ローズが来ることが嫌なら、ずっと面会は許されないよ。駄目なら、私の後ろに隠れていればいい。」

 ハリーが馬車の扉を開け、やっと立ち上がれば貴族の笑顔を作ってライル様に見せる。

「参りましょう。」

 苦笑いを浮かべた三人と共に病院に入れば、特別部屋らしい奥に案内される。廊下を進み、深呼吸してからハリーにノックをしてもらえば中からドアが開きフィリップ様が現れた。

「お待ちしておりました。どうぞ中へ。」

 真っ白い病室というよりはホテルかと思う部屋の中、青白い顔をしたデイジー様が記憶よりも幾らか細い体に慰問の時と同じような白いワンピースを着てベッドの脇に立っていた。

「この度は私共の執事の策略とはいえ、あんな行いをして申し訳ございませんでした。執事と同じように首を吊ることも考えましたが、ローズ様に謝らなければこの世から離れることは出来ません。」

 深く頭を下げて涙声になるデイジー様に駆け寄り、両手を握るとその細さにぶわっと涙が溢れる。

「いけません、命を断つなんて。そんなことをしたら私がこうやって地上から引っ張って上に行くのを止めてあげます。天国になんて行かせませんから。」

 ポロポロと零れる涙を拭いもせずに手に力を入れると、デイジー様も泣きじゃくり声は嗚咽が聞こえるだけになった。



 少しずつ涙が落ち着くとデイジー様をフィリップ様が近くにあった椅子に座らせ、ライル様が私を席に誘導した。ユーリがそれぞれにハンカチを手渡して、お茶の用意をしてくれる。

「取り乱して申し訳ございませんでした。ローズ様に会うのはこれが最後だと思ったら短い間なのに、色々と思い出が蘇ってしまって。」

 両手でカップを持ったデイジー様が気恥しそうに頭を下げると、隣にいたフィリップ様が小さく笑った。

「ここまで感情が爆発したのは、私が婚約を解消しないと言い張って揉めた時くらいですよ。」

 その言葉にデイジー様が赤くなり、痩せた体をますます小さくする。

「ローズはジェイクと婚約解消が本決まりになった時に、これくらいだったかな。」

 ライル様のにこやかな笑みに、つい手を伸ばして膝を叩いてやる。

「貴族令嬢にとって、それだけ婚約解消は大きな話なのです。」

「生死と同じくらいなのです。」

 抗議する声にフィリップ様とライル様は肩を竦めて、微笑みあっている。

「デイジー様、お体の調子はいかがですか?」

 お茶を飲んで一息ついたところで、問いかけるとデイジー様は小さく微笑んだ。

「私の副作用は頭痛と喉の乾きで、特に頭痛が酷かったのですが今は問題ありません。父も元より偏頭痛が酷くて、あまり分かっていなかったようです。」

「ですが、痩せましたね。お顔だって、窶れてみえます。」

 そう言えば、フィリップ様がデイジー様の頬を撫でてつついてみせた。

「これは私とローズ様に会うのに気が滅入って、食欲不振になっていたそうです。私には会いたくないからと別れの手紙が来て、読んだその足でここの扉を蹴破ってやりましたが。その時はもっと細くて、それから毎日ここに来て食事を食べさせていますよ。」

 ハハハと笑うフィリップ様の姿に固まっていると、ライル様が隣で深く頷いている。

「私も同じことをしそうです。もしくは公爵邸に連れ帰りますよ。」

「私は男爵家の次男ですから、両親と兄に相談したら怒られました。」

 何かと気が合うようで、分かりやすく作り笑顔のデイジー様と視線を合わせる。

「学園にはいつ頃復学されるご予定ですか?」

「お医者様にはあと一月くらいと言われていますわ。ローズ様のご卒業までには必ずとお約束いたします。」

 その言葉にライル様を見れば優しく手を握られる。

「であれば、是非結婚式にも来て頂きたい。卒業式の次の日なんだ。」

 ライル様が懐からレースの縁どりが綺麗な招待状をデイジー様とフィリップ様に手渡すと、少しギョッとした顔で二人が招待状を見つめている。

「どうかしましたか?」

 首を傾げると、フィリップ様が招待状をデイジー様の分に重ねてにやにやと笑ってみせた。

「ローズ様が卒業された後だとは噂で聞いていましたが、直後ということに驚いているだけですよ。」

「それだけ愛されているんですね。早く退院してドレスの準備をしなければいけませんわ。」

 目をキラキラさせて張り切るデイジー様に、当たり前だと言わんばかりにライル様が頷いた。

「一刻も早く我が公爵家に迎えたいのです。その後伯爵領と公爵領を回るので帰り次第、ローズとお茶会をしてやってください。」


 =======

 あまり長居し過ぎぬようにと忠告を受けていたため、語り足りぬ会話を無理矢理打ち切り後ろに控えていたユーリに視線を向ける。心得たとばかりに布包を私に渡し、ユーリはまた後ろに戻った。

「デイジー様、お渡ししたいものがあるのです。良ければ使ってください。」

 見せるのは恥ずかしく、そのまま渡すとデイジー様は受け取ってフィリップ様と共に包みを開かれた。中にあるのは孤児院でワインが付いてしまったものを私が染めたワンピースと、一度返品された紫のチャーム。

「そろそろ出よう。フィリップ様、後はお願いします。」

 ライル様に促されて出た病室からは、再び泣き声が響いていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

次回は木曜日辺りを目指しております。

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