伯爵令嬢の愚痴
まずは、物を買う時は私にもご相談ください。ライル様の私費だって無限ではないでしょう?どれだけ素晴らしい品でも私と似合うかは別です。頂いたリボンだけでも十分なくらいです。当分お買いにならないでください。兄から絨毯を買うのだって、とても素敵な色ですけれど相談いただければもっと安く手に入りました。私だって工房を知っていますから直接交渉出来ます。
あと、学園への送り迎えです。クラスメイトにからかわれました。愛されてるわねって。毎日なんて他の方はされていませんわ。帰りにお友達とカフェに寄ったりもしたいのです。毎日ライル様のお相手は出来ません。ライル様にだって付き合いがあるでしょう?ちゃんと交流してください。
それにイザベラ様です。何で喧嘩を売るんですか?いつもはあんな風におっしゃらないでしょう?二人の間に立つ私の事も考えてください。デイジー様だって無事なのですか?
あと、あと、夜会に連れて行っていただいておりません。ドレスの宣伝だってしたいのです。せっかくあの場で盛り上がったのに、もっと見せなければ。売上は類を見ないくらいに伸びているようですが、赤以外のドレスを着て夜会に行きたいです。
それに遠乗りにも連れて行くとおっしゃいました。馬に乗るライル様はかっこいいのでしょう?観劇だってしていませんわ。どの本が好きかも、どんな曲が好きかも知りません。『ローズ様はご存知ない』ってまた繰り返し言われるなんてごめんです。
大体あれから二人の時間が取れないのだって嫌です。あれからって言うのは孤児院で口付けられてからです。段々ライル様は顔色が悪くなって、お疲れで聞くに聞けません。それより何で迎えに来て下さらなかったんですか?楽しみだっておっしゃったくせに!!
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「何を笑ってらっしゃるの?」
自分でも眉が釣り上がるのが分かるほど激昂しているのに、ライル様は私の手を握ったままにこにこと微笑んでいらっしゃる。
「だって後半は要するに私と出かけたいってことだろ?あと、泣いている時にした口付けが気になってると。」
話し始めると勢いがついて色々と脈絡なく怒ったつもりだが、私はそんなことを口走ったのか。まだ言い募るつもりだった口が開いたまま塞がらない。
「まずデイジー嬢だが、騎士団の立ち入りは無事に済んで執事一家は捕縛されたそうだ。デイジー嬢とは近く面会が出来るよ。」
にこにことしたまま指先に唇が押し当てられる。思わずビクッと体が動けば、一層嬉しそうに微笑まれる。必死に腕を引こうとしても、ビクともしない。
「次に夜会だが、そろそろ父上に話してみよう。遠乗りは伯爵に交渉しなければいけないな。観劇は母にチケットの手配を頼もう。」
ドキドキが止まらないまま逃げようと立ち上がると、握られたままだった手を引っ張られ片手が腰に回った。悲鳴を上げながら倒れこめばそこはライル様の膝の上だ。しっかりと腰をホールドされ、肩に手をついても立ち上がれない。
「昨日責任をとってくれるならと言った令嬢が、婚約者の膝から何で逃げようとしてるの?結婚するよ?絶対に妻にする。」
吐息が耳に当たる感触に腕の力が嘘のように抜ける。ライル様を見下せば、アルカイックスマイルを浮かべて私の回答を待っているようだ。
「申し訳ございません。」
貴族特有の笑顔の圧に謝ると、ライル様は笑顔のまま首を傾げた。
「ん?何を謝っているのか教えてくれるかな?」
圧が増している。
「昨日の自分勝手な発言を謝罪いたしました。」
「具体的に。学園の中でも優秀なローズ嬢だ。正確に言わないとダメじゃないか。」
「すぐにでも籍をと申しました。」
「続きは何て言おうとしたの?」
どうやら許してくれないらしい。
「あの、せめて体勢を変えさせてはいただけませんか?」
「逃げる気だろう?」
ますます力の入るライル様の手に自分のそれを重ねると、じっと見つめた。信用してもらうには目で訴えるしかない。
「逃げません。立って抱きしめていただければ、言えます。だっていつもライル様に抱きしめられておりますから。」
「っ!!……わざとそんな言い方してるじゃないんだな?なんて恐ろしい子なんだ。」
腰に回った手の力が緩み、そのまま立ち上がるように促される。小さく息をすると、ハッとライル様が慌てる。
「コルセットは痛くなかったかい?痕が付いていたら、どうしよう。」
「どうにもなりません。痕なんてすぐに治ります。」
手を引っ張ってライル様を立ち上がらせると、胸に飛び込んでみる。おずおずと背中に回る手を感じながら、胸に頬を押し付けて力いっぱい抱きしめた。
「すぐにでも籍を入れたらいいと申しました。貴族の結婚は手間がかかるのに、平民のような軽さで提案して申し訳ございませんでした。」
「うん、そのために皆が動いている。公爵家の結婚だから、それなりの見栄が必要なんだよ。」
戸惑ったように分かりやすく説明する言葉に頷くと、頭を撫でられる。
「あと、責任を取っていただけるのであれば構わないと貴族令嬢として有り得ないことを申しました。」
「そう、そっちの方が重要だから。私はローズを愛しているから、手を出さなかっただけで他の獣だったらあっという間に食べられている。気をつけるんだ。」
ガバりと体を離して肩に手を置き、少し屈んで真剣な表情で諭すライル様に何度も頷く。
「私もライル様をお慕いしております。」
こちらだってと告げると、ライル様はすっと表情を無くして唇を合わせてきた。前のようにすぐに離れず、呼吸をしようと口を開くとにゅるりと何かが舌に触れる。
と、途端に唇が離れてライル様の真っ赤な顔が見える。
「悪役令嬢じゃなくて小悪魔令嬢め。サラ、ローズを応接室に。ハリー、手紙を書くから準備してくれ。」
眉を下げたサラとハリーはそれぞれ言われた通りに動き、私はお茶を飲んだ後に身支度を整えられて家に戻された。
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手紙にはライルを無意識に誘惑するローズの言動が書かれ、ローズの父伯爵とローズの従姉妹コレット王子妃に送られた。
この手紙によりライルに少し刺々しかった伯爵は「よく耐えた」と未来の義息子に優しくなり丁寧な詫び状を送った。両家とコレットの尽力によりローズが卒業した翌日に結婚式を行うことになった。
読んでいただき、ありがとうございます。
続きは明後日投稿します。




