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気になる点とローズの怒り

「気になる点があります。」

 お茶を入れ直してもらい、ライル様が正面に座って楽しそうにクッキーを食べ始めた。

「こちらも調べたから、話してごらん?」

 余裕を笑みでみせる顔が少し窶れていることが気になるが、それよりもホランド侯爵家だ。

「デイジー様のお兄様の従者は何故主人の悪い話をマチルダ様にしたのでしょう?まだ婚約が整ったばかりのお相手に主人の悪評を話すなんて、使用人失格では?おまけに死んだばかりの主人のことも庇うのが筋だと思います。」

 白くても主人が言えば黒というのが使用人。苦言を呈するのは身内の中で、他所様にそんな隙は見せてはいけない。部屋に控えるハリーやサラを見れば、当たり前というように頷いた。

「その通りだ。従者は主人の味方でなければならない。この従者はイーサンの乳兄弟で、乳母の息子だ。で、乳母は執事の妻。執事は侯爵の同窓生で、職を失くして困っている所を拾って執事補佐にしたそうだ。当時の執事は後に横領で解雇されて、補佐から執事に昇格した。まぁ横領は冤罪だったというのが、王太子の見解だな。」

「王太子様?」

 困惑して首を傾げれば、ライル様がお茶を飲んだ。

「あぁ、次期ホランド侯爵だと言い張る男が王都の酒場で暴れたらしく騎士に捕まってね。それを引取りにホランド侯爵の執事が来たという報告が、騎士団で話題になったそうだ。で、マチルダ嬢がホランド侯爵家の元婚約者だと覚えていた君の従兄弟であるローガンが王太子に伝えたら、食いついたと。」

「その男はもしかして。」

「イーサンの元従者だが、今は執事補佐だそうだ。執事の妻は今はデイジー嬢の侍女で教育も担当しているらしい。彼女が気に入らない教師やメイドはクビになるそうだよ。」

 平民の侍女が侯爵令嬢に教育をしている。更に首を傾げると、ライル様は隣に座り直し、首に手をかけて元に戻してくださる。

「元が貴族で家庭教師の経験があるとか?」

「いや、平民で元娼婦だそうだ。高級とはとても言えない、場末の。学園に連れてきていたのは、違う侍女だよ。どうやら執事一家は誰かさんがやろうとしたことを別の方法で実行しているらしい。私の可愛い婚約者なんだが、何を企んでいたんだったかな。」

 喉元まで出ている言葉に戸惑いつつライル様を見つめれば、もう限界のようで口元がひくついていた。早く言えと言わんばかりにサラやハリーが首を横に振るので、嫌々ながらも口に出す。

「乗っ取りですのね。」

「あぁ、侯爵家ののっとりだ。おそらく息子はマチルダ嬢がすきで、執事夫婦はホランド侯爵家を後ろから操るつもりだった。しかし、マチルダ嬢は王子妃の保護下にあり手が出せない。デイジー嬢の婿になろうという、すまない。少しきゅうけいを。」

 話を進める中で私の顔が変わっていくのが余程に面白かったのか、ライル様は笑いの海に撃沈された。

「ローズ様、デイジー様はご無事です。ローズ様への件を引き合いに出して、ご主人様提案で修道院で祈りを捧げて反省するという名目で保護されています。王家から侯爵邸に影も出されているようですから、心配無用です。」

 ハリーの補足で安心した私は、ひとまずライリー様の背中を撫でることに専念した。


 ======

「まぁ、君の乗っ取り計画と彼らのやっていることでは雲泥の差があるけどね。」

 モグモグ

「君はサミュエル侯爵家の血筋を潰そうとなんて思っていないし、領民に理不尽なことをしようとも思っていなかった。」

 モグモグ

「執事の息子は領内でやりたい放題らしい。泣かせた女も子供も男も多いそうだ。」

 ゴックン

「ローズ、黙って食べさせるのは止めてくれないか。」

「では、紅茶を飲んでください。」

 手にしたサンドイッチをサラに渡して、ユーリから紅茶の入ったカップを受け取る。後ろからハリーに羽交い締めにされるライル様の口に近づけると、観念したのか二口ほど飲む。もう一つ差し出せば、大人しく食べるので三人と笑みを交わした。


 ライル様が笑いの深い海に潜っている間にハリーがコソコソと背後から話した内容は、私を大いに怒らせるものだった。


 一、先程クッキーを食べたが、その前の食事は前日の夜遅くにサンドイッチを一つ食べただけである。

 二、ライル様の私室は夜でも灯りが絶えず、恐らく睡眠時間はかなり少ない。

 三、孤児院の騒ぎの後は上記のような雑な生活を続けている。


「食事をしない方も睡眠を大事にしない方も嫌いです。下の者に顔向け出来ませんわ。」

 ほどほどの量を食べさせれば、手を取って応接室を出る。

「忙しくて、普段はこうではないよ。もう片付くから、ちゃんと食べるし寝るから。」

 慌てて弁明するライル様を無視して階段を上がり、角部屋に案内する。水色で統一された部屋に鎮座するベッドに座らせ、ハリーに目で合図をする。

「坊ちゃん、いいからお眠りください。ローズ様はそれまでお話してくださいません。」

 上着をむしり取りながら説明するハリーに頷けば、ライル様が目を見開いた。次はサラに目を向けると、クスクスと笑い出す。

「坊ちゃん、夕食はこちらでいただきますからゆっくりお休みください。もちろんご主人様もいらっしゃいますよ。」

 今日はライル様のご家族との食事会の予定である。だから夕食までゆっくりとライル様とお話するつもりだったのだが、そこまで不摂生をしているのならば睡眠をとっていただかなければならない。

「は?聞いてない。」

「あら、聞いてらっしゃらなかったのでは?坊ちゃんは昔から集中したら周りを見ない方ですから。」

 あしらいの上手いサラを見ながら微笑んでいると、ライル様が全てを諦めたようにシャツのボタンを外して私に手を伸ばした。

「せめて少しだけ。」

 少しだけ何かは分からないが、ユーリの後ろに隠れてチラリとライル様を見ると絶望したような表情でベッドに倒れ込んだ。

「坊ちゃん、喜んでください。起こすのはお嬢様です。奥様からの指示ですから、絶対です。」

 ユーリの言葉にピクリとしたが、そのままライル様はベッドに寝転んだままだったから私たちは退出した。

「ユーリ、そんな指示聞いてないけど。」

「奥様からの置き手紙です。」

 スカートのポケットから取り出された紙には確かに母の筆跡でライル様を起こして差し上げるようにと書いてある。不覚だ。

「それよりユーリ、あなたライル様のことを坊ちゃんって言わなかった?」

「あ、ハリーとサラにつられました。」

 ケロリとして笑うユーリはサラに小声で説教され、ハリーはドアの前で主人が眠りについたのを確認した。

お読み下さりありがとうございます。

次回は明日の投稿です。

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