悶々とする日々
次の日にはお父様が帰ってきて、事情の説明をした。
二日の休みの間にイザベラ様とマリー様、シェリル様から手紙を頂いた。迷路は無事に盛り上がり、イザベラ様のカミラ役は大いに人気が出たこと。デイジー様の行ったことは他には漏れていないこと。絵本の出版元にカマをかけたら、ホランド侯爵家が作家に関わりがあることが分かったようだ。
お父様が帰ってきたことを知って、デイジー様のしたことに対して謝罪の手紙が届いた。暫くデイジー様の通園を自粛する。こちらの要望する慰謝料を用意するし、デイジー様を退学させることも出来ると書いてあったようだ。返事はどうするのか聞かれたので、デイジー様のことは保留にして、ワインで汚れてしまった白いワンピースを一度返して欲しいとだけ申し出た。私をカミラだと思った理由も分からないままで、デイジー様の将来を潰すことは出来ない。手紙を送った当日に返ってきた赤紫に汚れたワンピースの折りたたまれた間には私の贈った紫のリボンが包まれていた。
デイジー様は悪い風邪をひいたということでお休みをしている。カミラ役はイザベラ様と交代したが、ハマり役過ぎているのか初等部からは好評だ。最初に騒いでいた令嬢たちもそれぞれが楽しんでいて、私=カミラという話は終わったらしい。
それから、毎日ライル様に送り迎えをしていただいている。ホランド侯爵の行動が心配らしい。私に時間を使って日に日に疲れを見せているライル様の方が心配であるが、頑として送り迎えを止めていただけない。最近はあまり喋らず邸に着けば、すぐにお別れしている。立ち寄る時間も休日に茶会をする時間も無いらしい。馬車の中で手を繋ぐことくらいしか出来ない。デイジー様のことも心配だが、お父様から行動を制限されているため会いにはいけない。
だから私はストレスを発散するように思いついた。ワンピースを染めることにしたのだ。少しでもデイジー様の非が消えるように、証拠隠滅である。学園の図書館には様々な分野の本があるが、独立したミリーに問い合わせると染料と丁寧な説明書きが送られてきた。休日にユーリに見守られながらワンピースを赤紫に染めると、綺麗に染みは隠れた。
指先が少し染まったまま学園に行くと、迷路チームの男子生徒からどうやったら紫になるのかと聞かれる。次は迷路にお化け屋敷を追加するようで、肌を簡単に染めたいそうだ。教えはしたもののなかなか落ちないために、お勧めできないと伝えると落胆していた。
こうして二週間が過ぎた頃、ライル様から我が家でお茶会がしたいと申し出があった。
「今回は一人女性を連れて行く。デイジー嬢をローズがどうするのか決めるために必要な人物だ。」
真剣な顔で伝えるライル様の目の下にはクマが出来ていて、私のために無理をしてくれていることが分かる。了承してから、そっとクマを触るとライル様は目を伏せて寝息を立てていた。
その知らせを持って帰ってくれば、我が家の使用人は大騒ぎである。久しぶりのお嬢様の茶会に追加で女性が一人来るらしい。どんな関係なのか、偉そうな侯爵家の執事が来た日と関係があるのか。疑問だらけの中、いつもより豪華に茶会の準備は進められ、穏やかなのは公爵家から事情を逐一報告されているらしい両親だけであった。
もちろん私だって焦っている。何せ抱きしめ合ってから初めてまともに時間を作るのだ。しかし他人がいるのなら、そちらが優先される。ベッドでゴロゴロと身悶えるくらいに恥ずかしかったあの日から二週間なのに、まだ消化しきれていない。ドレスは何を着れば良いのか。一体どなたが来るのか。ユーリとサラが用意した緑のドレスにハーフアップにした髪にライル様のリボンを緩く結ぶことに決まっていた。
少し寝不足になった当日の午後、ライル様は先に一人でいらっしゃった。両親はわざとらしく観劇に出かけている。
「ハリーに迎えに行ってもらっている。」
今日の茶会は内容が分からないため、応接間で行うことにしている。ドアを開けて案内すれば、そのまま手を引かれてユーリたちが入らぬままドアを閉められた。途端に私は胸に閉じ込められた。力は以前よりも弱々しい。
「少しだけ。思いのほか話が大きくなって、各所との調整に時間がかかっているんだ。今日の女性はそんなに問題はないから大丈夫だけど、もう少しだけローズには窮屈な思いをさせてしまう。」
話す声に覇気がなく、つい背中を撫でると安心したのかライル様が体重をかける。
「しっかり食べていますか?睡眠は?私は大丈夫ですから、そんなに頑張らなくても良いのですよ。」
具体的に分からない問題なため、ひとまずライル様の健康状態しか心配出来ない。モヤモヤした気持ちが広がって、また思いつきを呟いてしまった。
「結婚したら、全てお話が出来るのでしょうか?いっその事すぐにでも籍を「それは無理だからね、お義父上に引き離されるから。今回の問題を上手く片付けないと、婚約期間の延長も考えると言われているんだ。籍を入れるは悪手だから。分かったね?」はい、分かりました。」
ガバッと起き上がり、肩を両手で持たれてそのまま揺らされて勢いよく話すライル様にブンブンと頷くとライル様は疲れたように私の肩に頭を置いた。
「女性が帰ってから、二人で話がしたい。いいかな?」
「もちろんです。」
ようやくライル様に笑みが浮かぶと、ノックと共にハリーの声がした。ライル様がドアを開けると、呆れた顔の使用人たちと、どこかで見たことのある令嬢が立っていた。茶色の髪に少しつり目の緑色の瞳、水色のドレスを着たライル様よりも少し歳上に見える令嬢だ。ソファーに案内して、お茶を用意が終わると私の隣に座ったライル様が私に微笑んだ。
「紹介しよう。絵本の作者でデイジー嬢の兄の元婚約者ウィール男爵令嬢のマチルダ嬢だ。」
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