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公爵令息の笑み

終始ライル目線です。


 それからローズは正式に結婚するまで公爵邸で過ごした。



 なんて事はもちろんなかった。


 ローズを馬車に乗せて、化粧をユーリが直している間に馬車の外でローズの母親に簡単に事情を手紙に認めた。『悪役令嬢の件でホランド侯爵家の令嬢からワインをかけられた。本人は無事だが、侍女からもらったハンカチが汚れてショックを受けている。申し訳なくて帰れないと言うので、我が家に連れ帰る。』ハリーに急ぎだと手紙を託すと耳打ちされた。

「婚約者の侍女に刺されたとか、醜聞にならぬようにお願いしますよ。」と。


「もう入っても構いません。」

 ユーリの声に中に入れば、先程よりも顔色が普通になったローズがこちらを向いてから気まずげに俯いた。可愛い様に隣に座って手を握ると、気まずげにそっぽを向かれる。出発するとローズがおずおずと話し始める。

「先程はありがとうございました。」

「どれのことかな?涙をシャツで拭ったこと?それともその涙を止めたこと?」

 軽口を叩くと、握らなかった手で甲を叩かれる。振り向いて睨まれるが可愛い以外の何物でもない。

「意地悪言わないでくださいませ。シャツを汚したことでございます。」

「これから何回でも使ってくれて構わないよ。何度でも止めてあげよう。」

 話しながら指を絡めれば、唇を尖らせながらもしたいようにさせてくれる。小指でつつくと恥ずかしそうにまた俯いた。


「どうやってお嬢様の涙は止まったんですか?」

 ローズの向かいに座ったユーリの疑るような言葉に二人して顔を向けると、ユーリが怪しい、と目を細める。

「別に何もないわ。」

「口付けただけだ。」

 同時に出た言葉に、ユーリは肩を落としてため息をついた。

「使用人がご主人様にため息を吐くなんて駄目だとは知ってるんですけど。お二人とも、もっと進んだかと思うような色気を出すのはおやめ下さい。」

 良かった良かったと片付けを済ませるユーリに、「どんな色気よ。出てないわ。」と片手で赤くなった頬を押さえて反論するローズは可愛い。「その指ですよ。若い使用人が見たら叫んでしまうのでおやめ下さいね。」と冷静に返されれば、「こんなこと馬車の中でしか許さないわよ。」と真っ赤になって言い返す。

「馬車ならいいんだ?」

 良いことを聞いたと確認すれば、「え?」と驚いて固まるローズ。隣にいるのを忘れられていたかもしれないと思いつつ、好機だと繋いだ指を上げてわざとらしく口付ける。

「馬車の中なら許してくれるんだろう?」

 途端にユーリが即答した。

「はい、お嬢様は良いと言われました。私とハリーの事も考えて色気少なめでお願いします。」

 その言葉にユーリに視線が向くが、片手で制すると恥ずかしいのかフルフルと震え始めた。もう無理そうだ。

「っふふふふ。可愛いな。」

 まぁ私の笑いのツボがである。

 ひっくひっくと呼吸を整えようと努力していると、ローズからため息が零れた。

「こちらのクッションに顔を押し付けては?これは暫くかかりそうですね。ユーリ、何か掛けるものはあるかしら。」

 テキパキと私が苦しくないように動く様子に、少しだけ悲しさが消えたようで安心する。

「ライル様、ひとまず私がユーリの隣にまいりますから。どうぞ大いに笑ってください。」

 ローズの手が離れる前にぎゅっと握ってそれを拒む。肩を落とすローズはもう一度ため息をつき、クッションを自分の膝に置いた。

「では、私の膝へどうぞ。あと少しですからね。」

 膝枕なんてどれだけのご褒美だろうか。笑い続けている上にクッション越しにだが、最良の時間を得た。必ずアーク殿下に自慢しようと誓った。



 ======

 もう少し邸が遠ければよいと思うくらい、ローズの膝枕の時間は短かった。知らせを聞いていた使用人たちがローズを浴室に連れて行くのを見送り、両親の居所を聞けば父は城だが母は邸にいた。すぐに案内させれば、ローズの自室にする予定の空き部屋で侍女と共にドレスを選んでいる。

「こちらが先よ。どれを着てもらおうかしら。」

 息子には目もくれず、色とりどりのドレスの山を掻き分けている。昔から娘が欲しかったらしく、あの方が婚約者と決まってからは弟の婚約者ばかり構っていた。それがローズがライルの婚約者となってからは自ら公爵夫人としての教育をしている。ドレスは大半が宰相邸に預けてあったものだが、母からのプレゼントもあるようだ。結局ペールオレンジのスッキリとしたドレスに決めると、ようやくこちらを振り返って渋い顔をした。

「あなたも着替えなさい。」

 一言で終わった。

「あぁそうだ、香油はあなたが決めなさい。私と同じものでは嫌でしょう?」

 一言では終わらなかったが、ローズのことだった。母がダマスクローズの香りが好きなのは知っている。母付きの侍女がさっと香油の瓶を持ってくる。ローズという名前であるが故に薔薇の匂いを連想してしまうが、レモンの瓶を選ぶと母は意外そうな顔をした。

「気分転換にはぴったりかと思います。」

 母は眉を上げて、頷いただけだった。


 シャツを替えて窓の外を見れば辺りは夕焼けに染まっている。昼過ぎからの慰問だったが、アクシデントで時間はあっという間に過ぎていた。応接間で母に簡単に事情を説明していると、ローズが入ってきた。ペールオレンジのドレスも似合う。私の隣に座れば、母に目を輝かせていた。

「お義母様、このドレスありがとうございます。とても肌触りが良いです。どこのメーカーのものでしょうか?香油もサラがくれた物と同じブランドですね。レモンの匂いもとても気に入りました。」

 既に『お義母様』と呼ばせていることにぽかんと口を開けていると、母は少し得意げに微笑んだ。

「あなたが知らないのも無理はありません。私が懇意にしている隣国の試作品ですから。今度関係者とのお茶の席を設けましょうね。香油はあなたが使っているものよりも少し上のランクのものよ。お母様にプレゼントしたことがあるから、おねだりはそちらにしなさい。匂いは息子だから、どうぞご勝手に。」

 絶賛されて喜んでいるのがありありと分かるが、最後にパスを回してくれたことには感謝したい。全てが母の選択だと思っていたローズは私を見て驚いている。

「ライル様が選んでくださったのですか?」

「あぁ。」

 つい口ごもるくらいに満面の笑顔を浮かべたローズはお世辞抜きで可愛い。

「名前のせいかバラの香りがするものが多くて、とても新鮮でした。ありがとうございます。」

「いく「瓶を侍女に持たせますから、気分を変えたい時にお使いなさい。」」

 母に言葉を遮られ、ローズの視線も取られる。母と戦っても勝てるとは思えないため、その場に合わせて三人でお茶を飲んでいると執事が入ってきた。

「ローズ様のお迎えに伯爵夫人がお見えです。」


笑みというより爆笑からの内心ニヤニヤです。

明日は出来たらライル目線で続きを。

無理なら月曜日に投稿します。


読んでいただきありがとうございました。

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