孤児院への慰問
生徒会主体の慈善活動の一環として、孤児院への慰問がある。
今回の慰問は未成年では類を見ないほどに大規模となった。大規模とは人数と、言葉の通り物理的にである。
具体的には大掛かりな迷路だ。移動できるように下に車輪を付けた板を直角と真っ直ぐなものの二種類作り、机で固定して通路にする。ローズを見つければゴールとなるが何パターンも生み出される迷路はどれも未だに到達した者はいない。数学が得意な生徒と力仕事が得意な生徒の混合チームの発案で作られた迷路は初等部からの人気が高く、カミラとは何か分からない生徒も多く参加していた。開催される日は朝の授業前から準備が始まる気合いの入りようだ。この迷路の経費は慈善活動への参加を条件として生徒会の審査を通っているため、今回の孤児院慰問を担当することになった。
馬車に積まれた資材を下ろし、テキパキと組み立てる様子を見ながらローズたち令嬢も準備に入る。各責任者にはローズから特製チャームが贈られており、一目で分かりやすい。男子生徒にリボンは不評だったため、星型にアレンジして胸に飾ってもらっている。
室内には設営出来ないため、今回は孤児院のお庭をお借りして迷路と簡易的なステージを用意した。フルートの演奏やデイジー様の歌はステージで披露する。
「ローズ様、出番です。」
白くてフリルをふんだんに使用したワンピースを着たデイジー様はまるで天使のようだ。私がお願いして店と協力して作ってしまった。歌いやすいようにお腹の辺りをふんわりとさせ、ステージに上りやすくするために少し前だけスカート部分の丈を短くしている。デイジー様の歌の余韻に浸っていると、イザベラ様から背中を扇で軽く叩かれる。悪役らしく制服に黒いローブを羽織り、壇上に上がると可愛い子供たちが目を白黒させている。思わず禁句を言いそうになりながら、台詞を話し出す。
「良い子の皆さんこんにちは、魔女のカミラと申します。」
ちょっと間違えている気はするが、そのまま進行する。イザベラ様の方は見ない。
「こんにちはー」
可愛い声に緩みそうになる頬を必死に引き上げて、扇を開いた。
「これから皆さんには迷路にチャレンジしていただきますわ。迷ったら二度と出て来れません。ゴールしたらご褒美がありますわ。楽しんでくださいませ。」
にこやかにカーテシーをして顔を上げると、強い視線を感じる。イザベラ様たちがいる左は絶対に見てはいけない。
正面の視線の先を探すと、子供たちの後ろに立つライル様が手をヒラヒラと振っていた。いつもよりラフなシャツ姿で、すごく楽しそうである。その後ろにはハリーが申し訳なさそうに眉を下げていて、思わず苦笑いをしてしまうと「だいじょうぶー?」と子供たちに心配された。
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「何故ウィンダム公爵令息がこちらにいらっしゃるのかしら。今日は生徒会主催の慰問ですわ。」
ゴールに用意された椅子に座ると、左にイザベラ様。右にライル様が立った。爵位を考えて立ち上がろうとすると、二人に座るように命令される。おずおずと座ると会話は再開された。
「そんなことも分からないのかな。ローズは私の婚約者だ。休みの日は一日だって離れたくない。」
イザベラ様は扇を自分の肩に当てているし、ライル様はアルカイックスマイルを浮かべながら私の肩に手を置いている。二人ともがイライラしているのが分かる。
「前の婚約者とも毎日会ってらっしゃったかしら。結婚前からそんなにべったりではまた捨てられてしまうかもしれませんわね。学生の間は貴重なのです。友情を育むべきだと私は思うわ。ねぇローズ様?」
私に同意を求めるイザベラ様は怖い。そしてその後ろにいるシェリルもぶんぶんと首を縦に振っている。
「短い婚約期間の思い出作りだって大事だと思うよ。」
「では長くすればよろしいのでは?あと五年くらい伸ばしたら思い出が出来ますよ。」
「ローズと早く結婚したいんだ!今日でもいい。教会ですぐに誓うよ。」
「まぁ、女性の結婚式への憧れを何だと思っていらっしゃるの。こんな男、ローズ様に相応しくありませんわ。ローズ様、私の親戚を紹介致しますわ。」
「王命の結婚を妨害するのはよしたまえ。」
私の元に来て早々に言い合いをする二人をまあまあと宥める。今回はお菓子を渡すことが目的のため、学園内で開催するよりも簡単にゴールにたどり着けるように作られている。声の大きさからして近くまで来ているようだ。
「お二人とも、そろそろ落ち着いてくださいな。これを見てください、私のじ」
そう声をかけた途端に、目の前が赤黒く染まった。シェリル様の小さな悲鳴が聞こえ、ローブから覗く制服を見れば紫にみるみる染まっていく。
「カミラはこれで浄化されます。これで元通りになりますの。お姉様だって、元気になりますわ。」
ふふふと笑い声に振り向くと、デイジー様がワイングラスを持って微笑んでいた。真っ白なワンピースの胸元を紫に染めて。
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