小さな令嬢の主張とローズの発案
「あ、ローズ。この小さなレディたちが私に面白い話をしてくれていたんだ。」
ふらついた私を慌てて支えた令嬢たちの声が聞こえたのか、ライル様がこちらに気付いて手を振ってくださる。その瞬間に小さな女の子たちの顔がこちらを向く。
「……なんて可愛い子たちなの。」
初等部の小さく可愛い子たちは私を見て目を丸くした。そして、キッと睨みつけられた。
「ライルさま、あれは本もののローズさまではございません。まじょです。」
「そうです。ローズさまは髪をいつもまとめてらっしゃったわ。」
私に近寄ろうとするライル様の前を塞いで訴える小さな生徒たちは必死である。
「あれは以前の婚約者に押し付けられていただけだよ。もちろん髪を結っても可愛いが、下ろしても素敵だと思うよ。」
言葉も体もサラリと躱したライル様は私の元に寄ってきて、手を取られると周囲からどよめきが起こる。
「ライル様、今日は何故学園に?」
「君に会いたくて。と言いたい所だが、父の用事を済ませに来たんだよ。ついでにランチでもと思ったけど、終わってしまったかい?」
残念そうな表情に令嬢たちからため息が漏れるが、小さなレディたちは睨んだままだ。
「あなたはカミラでしょう?早く姿をあらわしなさい。」
1番前に立って訴えている声の主は可愛い栗毛の少女で先程訴えていた子爵令嬢とよく似ている。イザベラ様を見れば諦めたように首を横に振られる。話しても良いらしい。
「私はローズよ。カミラという名前ではありません。」
膝を曲げて目線を合わせると少女たちは後ずさりした。魔女というからには怖がられているらしい。
と、前に集中していると後ろでパシャと水音がした。途端に小さな悲鳴が上がる。後ろを振り返ればライル様の上着は濡れ、コップを手に震える少女がいた。
「ローズが気になってうっかりこぼしてしまったんだね。分かるよ、彼女からは目が離せないよね。あと目を覚ますのは姫なんだろ?私じゃなくてあちらに言ってみたらどうだい?もう南の領地に行ったようだけど。きっと君たちが行って目を覚ましたら、距離くらいひとっ飛びなんじゃないかな。そうなったら彼女の方が魔女になってしまうけど。」
にっこりと笑うライル様に小さくため息を零した。
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「夜会では王太子様に守ってもらっただろ?機会があればやってみたかったんだ。」
「だろうと思いました。助けていただき、ありがとうございました。少しやり過ぎです。」
上着を脱いでもらい、ハリーに渡すと部屋の外に出ていく。服を濡らされてもご機嫌なライル様をイザベラ様はすごい目で見ている。
「噂や夜会で見ていたウィンダム公爵令息とは大違いね。」
食堂での騒ぎを聞きつけた教師のお陰で図書館の資料室に通してもらい、私とイザベラ様は午後から授業に出ていない。彼女は生徒会長だからと押し通した。水をかけた小さな令嬢はライル様の口利きで厳重注意で済まされるらしい。ただライル様の目が笑っていない笑顔が効いたらしく、ふらふらと保健室に運ばれていったが。
「皆が言っているだろう?呪いが解けたんだ。レディたちは魔法がかかっていると言っていたが。」
「そのことでイザベラ様とお話していたんです。」
あらましをお話しするとライル様は眉を寄せて、私の手を握った。
「あの方が目を覚まして私の元に来るのか。それなら私はローズの手を取って逃げるよ。私はローズと幸せに暮らすから。」
ライル様が握った手に口付けると、途端にイザベラ様が間に入って振り払われた。
「学園の中では止めてくださる?」
「あぁ失礼。君も婚約者は卒業していたね。」
お互いに喧嘩を売る様子に呆れて1人で考え込む。令嬢たちと関わってしまった以上、これから無視は得策ではない。彼女たちを孤立させたくもないし、私はカミラではない。ならば。
「私はカミラではないけれど、悪役をやりましょう。悪役令嬢になります。」
またおかしな思いつきをしてしまったようで、イザベラ様は口をポカンと明けて固まり、ライル様がお腹を抱えて笑い始めてしまった。
「学園内で茶番をしていると周りに思わせるのです。魔女に変身、ライル様をエリーゼ様が愛しているなんて、高等部の生徒が信用する訳ありません。ですから、それを利用するのです。こちらもわざとらしく相手をすればお芝居だと思いますわ。ランチタイムだけイザベラ様や他の令嬢には取り巻きのフリをしていただいて、嫌味な女になります。そうすれば相手のご令嬢たちが悪く言われることはありません。令嬢たちの結婚には領地の未来が掛かっております。婚約の解消理由にしてはいけません。」
思いつきを必死に言葉にしてイザベラ様にお話しすると、渋い顔をして考え始めてしまった。オスカーたち親戚や使用人以外に思いつきを話したことはない。やはり有り得ない提案だったろうか?
「まぁあなたが良ければ、以外にないでしょうね。ローズ様が周りの方達に嫌われる可能性もありますから。」
「そこまでの縁と思います。既に食堂にいた皆さんが他にもお話しているでしょうし、カミラと呼ばれた以上は噂が広がるくらいなら広げてあげればよいのです。」
私にデメリットだらけなことを納得出来ないイザベラ様が、更に眉を寄せて扇で自分の手を打ち始める。
「せめてウィンダム公爵令息が今日に限ってここに来なければっ。」
「っおいおい、八つ当たりは止めてくれないか。」
「あら、大笑いは終わりましたの?」
先程よりもイザベラ様の口調が強いのが気になるが、ライル様は気にも止めていない。
「僕の可愛い人は自己犠牲愛がちょっと強いんだ。助けてもらえるかな、イザベラ嬢。」
挑むように眉を上げるライル様も喧嘩を買ったのか、イザベラ様に強く対応する。
「残念ながらライル様より長く、ローズ様については知っておりますわ。」
「では、私たちはこれから協力者に渡す賄賂を買ってくるよ。ローズは早退だ。単位は足りているとオスカー達から聞いてるからね。イザベラ嬢も何か名案を考えておくれ。」
訳の分からないうちにライル様に立ち上がるように促され、そのままドアに向かう。
「先生には私から連絡します。せいぜい愛想を尽かされないように貢げば良いですわ。」
イザベラ様の言葉に棘を感じながら、私たちは資料室を後にした。
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