登校したら呼び出されました
「ローズ様、昼食を一緒によろしいかしら。」
「はい、喜んで。」
きたきた待ってましたと私は勇んでいる。
サプライズでの婚約発表を行った夜会後の登校日、私は学園に意気込んで向かった。ジェイクと婚約していた時は同情、憐れみ、嘲笑を受けていた私。ライル様との婚約になれば、嫉妬、嘲り、憤怒のオンパレードに違いない。
「そんな事ないと思いますけどね。むしろ賞賛、祝福、羨望では?」
そんな事を朝鏡の前で洩らすと髪型を決めるサラと技術を学ぶために横にいる侍女は反論した。
夜会の次の日の朝、サラは公爵様からの手紙を持ってやって来た。嫁いだ際には専属の侍女になるため、伯爵家の世話を学びたいそうだ。
「あぁ、監視ね。」
エリーゼ様のような事があっては困るのだろう。笑顔で手を広げてみせると、苦笑いされる。
「元々王女殿下にだってそんなつもりはありませんでした。ローズ様のことを坊ちゃんは信用しております。公爵邸で暮らしやすくするように参りました。」
以前もらったオイルの効果を知る使用人たちと既に信頼関係を築けているサラはスパイの方が向いていると思う。
ジェイクとの婚約解消が公になった初の登校日、サラや身だしなみを整える侍女たちは気合いが入っている。ポニーテールに巻いてみたり、ぐるぐると考え続けた結果、ただ下ろしただけの髪になった。
「やはりローズ様の髪の美しさを見て頂きましょう。」
サラの言葉に何故か使用人たちは頷き、全会一致となった。
落ち着かない髪型で学園の門をくぐり、気合いを入れて教室に入る。想像したピンと張り詰めた空気は無く、目の前には花びらがばら撒かれた。
「ローズ様、婚約解消と婚約おめでとうございます。」
祝ってくれるのは昨日の夜会に来られなかった平民のクラスメイトである。
「あんな男を王女殿下に貰っていただけるなんて、なんて幸せ。」
「退学した男などより、公爵令息とお幸せになってください。」
興奮するクラスメイトたちからのジェイクの評判は貴族のそれよりも悪い。
「傷と言われなくて良かったですわ。」
「有責で慰謝料と書面は残しましたか?あんな男が相手でもしっかりやらないと、煩い狸もいますから。」
花びらを片付けてくれる貴族令嬢からも悪かった。
「皆さん、黙っていてごめんなさい。今度は結婚できるように努力します。」
にこにこと話しながら周りの気配を窺うが、特に敵意は見つからない。その時、
「ローズ様、昼食を一緒によろしいかしら。」
と、公爵令嬢のイザベラ様から話しかけられた。
イザベラ様は同じ特待生クラスではあるものの、今まであまりお話したことは無い。艶やかな赤毛を緩く巻いて、キリッとした目元が印象的な公爵令嬢である。婿をもらってそのまま公爵家を継ぐため、公爵夫人になることになった私に文句の1つもあるだろう。いや、あるに決まっている。
「はい、喜んで。」
恭しく頭を下げると、何とも言えない顔をされたが首を傾げて誤魔化した。
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1人でと付け足され、指定された個室に向かう。教室にはイザベラ様はいらっしゃらなかったから、恐らく既に待っていらっしゃるのだろう。
「失礼致します。」
ノックをしてからドアを開けると、中には令嬢が5人。
「囲まれるタイプの方でしたか?」
囲むのは校舎の裏とかではないのだろうか?それともご婦人たちのお茶会のような?頭の中で想像していた展開ではなく、うっかり言葉が出てしまった。あっと口を押さえると、中央にいたイザベラ様が不機嫌に眉を顰めた。
「あなた、やっぱり勘違いしているでしょう。さっきおかしいと思ったのよ。私はあなたにお願いがあって呼んだのよ。」
「お願いとは、ライル様と別れなさいとか。」
「王命でしょうが。私には立派な婚約者がおります。他の男には興味がありません。」
気持ちがいいくらいにライル様に興味がない姿はコレットとよく似ている。姉御肌だ。
「ひとまず食事よ。授業に空腹では出られません。」
母性も感じた。
他の方は慣れているのか席に座り、行儀よく食事を始める。末席に座らせていただき、観察しながらペースを合わせる。どの令嬢も体調でも悪いのか、青ざめている以外に特に問題はなかった。
「さて、お願いの話だけど。この絵本をご存知かしら。」
見せられた絵本はピンク色の表紙に王子様とお姫様が並ぶよくあるタイプ。だけれども読んだ覚えは無い。私の反応で察したイザベラ様はでしょうねと頷かれる。
「これは数年前に発売されたものだから、あなたが知らないのも無理はないわ。あらすじを簡単に話すと、エリザベス姫には騎士の婚約者ライオネルがいて2人は両想い。だけど魔女のカミラの呪いで騎士は姫に笑えないの。そして姫は婚約破棄して違う男と、騎士はカミラと婚約するの。結婚式の直前に愛を思い出した姫は逃げて騎士と幸せに暮らしました。」
よくあるパターンである。だが気になるのは、
「エリザベス、ライオネル、カミラ。」
名前を呟いてみれば、令嬢たちが苦笑いを浮かべる。
「やはり名前よね。エリーゼ様がエリザベス、ライル様はライオネル、カミラ様と言えば夜会の時に不法侵入をしたそうで謹慎中の侯爵令嬢を思い浮かべるわ。何年もライル様にご執心でらっしゃるし。おまけに絵本の髪の色は皆同じなの。」
「やはり捩ったのでしょうか?まぁそれもよくある事ですね。」
むしろ何故令嬢の皆さんが暗い表情なのかが分からない。
「問題は初等部でこの絵本が予言だと広まって、一部の令嬢が2人を結婚させようと騒いでいることよ。こちらにいるのはその令嬢の姉たちなの。」
頷く令嬢の1人が私の前の床に跪いた。先程から1番顔色が悪いと思っていた子爵令嬢だ。
「申し訳ありません、ローズ様。あなたの婚約は祝うべきなのに、私の妹はローズ様はカミラが変身した姿だと噂を広めようとしているのです。」
下を向き、カタカタと震える姿に手を取る。
「大丈夫です。単なる噂ですわ。私にはライル様はもったいない方だと中傷されると思っているくらいなので、大したダメージではありません。以前の方が大変でした。」
赤いドレスしか着ないことを嘲る令嬢はいたのだ。どれをとっても言われるのなら、1番現実味がない話の方が助かる。
「そう言ってくれると助かるわ。この方は婚約者の家から苦言が出ていて、困っているの。」
「昨日婚約者の妹が参加した男爵家のお茶会で、妹たちが盛り上がっていたと。公爵家は婚約者の家の取引先なのです。抗議されれば婚約は破棄すると。どうか妹たちが来ても無視をしてください。伯爵家よりも格が低い者しかおりません。」
涙を目に浮かべて訴える姿に、手に力を込める。
「分かりました。対応には気をつけます。」
「私たちも周囲を固めるから。公爵令嬢の前で無理は出来ないはずですから。」
令嬢たちから頭を下げられ、頷いているとドアが開かれた。ドアの前に待たされていたイザベラ様の使用人が青ざめて現れる。
「大変です。高等部の食堂に件の方々が来ておられて、ウィンダム公爵令息とお話をしていらっしゃいます。」
高等部と言っても食堂への出入りは自由だ。あえて言えば高等部の生徒がよく使う食堂が正解だろう。
慌てて食堂に向かえば片膝をついて幼い令嬢たちと目線を合わせてお話しするライル様がいて、ついふらついた。
ストックがたまらず。出来る所まで出そうかと思っております。
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